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107 王都魔女5


 ドルレーツ王国の宮殿へと向かったリズ達は、滞在場所である客人用宮殿へと案内された。

 王国の宮殿は、どこもかしこも大きくて豪華絢爛。急に公国の宮殿が恋しく思ったリズは、あそこがすでに自分の家という認識になっていたことに気が付いた。


(フェリクスの目的は『婚約式』で間違いないようだから、早く終わらせて公国に帰りたい)


 フェリクスが妨害したところで、前世の事実が変わるわけではない。リズの前世が日本人であることさえフェリクスに知られなければ、無事に婚約破棄できるはずだ。




 宴の身支度を整えたリズは、アレクシスと二人で話がしたい。と彼を部屋に呼び寄せた。

 エディットに聞いた話を聞かせると、アレクシスは想定内のようにうなずいた。


「僕も勘違いさせるつもりで、ローラントの発言を訂正しなかったんだ。思ったとおりに事が進んだようだね」


(従者ってローラントのことだったんだ)


「アレクシスは初めから、王女殿下が裏切ると思っていたの?」

「大好きな人からのお願いは、断りにくいものだろう? 僕もリズにお願いされたら、国家機密を話してしまいそうだ」


(それって、私のこと大好きって意味なんじゃ……)


 普通のことのように彼はいつも、このようなことを言ってくる。

 不意打ちをくらって急に心臓がドキドキするのを感じていると、彼は「けれど」と表情を硬くした。


「あいつにこちらの思惑が知られたからには、これからは慎重に判断しなければね。大魔術師なら、僕達が想像もつかないような罠を仕掛けてくるかもしれない」

「うん……。今日の宴ではきっと、婚約式を早める提案をするんだろうね……」


 フェリクスは公の場で主張することで、相手に断りにくくさせるやり方を使う。今日の宴でも、同じ方法が取られる可能性が高い。


「だろうね。もう少し念入りに準備したかったけれど、あちらにこれ以上の情報が洩れる前に婚約式をしたほうが良さそうだ」

「それじゃ、フェリクスの提案は受け入れるね……」


 相手の思惑どおりに動くことは、罠の中に自ら入っていくようで少し怖い。けれど、婚約式さえ終えればリズは自由になれるのだ。


「そんなに緊張しないで。僕も出席するんだから、何かあれば僕が対処するよ」

「ふふ。頼りにしてる」


 自由になれば、アレクシスに堂々と好きだと言える。

 未来に向かって頑張ろうと、リズはぎゅっと拳を握りしめた。



 それからリズは、背中に隠しているプレゼントの箱にそっと触れた。

 さきほどは勢いで購入してしまったが、記念日でもないのにどう渡そうかとリズは今になって悩み始める。


「あの……。アレクシス」

「ん?」

「実は、その……。渡したいものがあって」


 決心して綺麗にラッピングされた箱を渡すと、アレクシスは驚いた様子でリズを見つめた。


「……これを僕に?」

「うん。さっきのお店で見かけたの。すごく綺麗だったから、アレクシスにプレゼントしたいと思って」

「開けてみても?」


 嬉しそうにアレクシスが尋ねるので、リズも釣られて笑みを浮かべながらうなずいた。


「あっ……。私の逃亡資金で買ったから、大したものではないんだけど。私がたどり着いた安住の地はアレクシスだから、アレクシスのために使えたらなぁと思って」


 おかしな言い訳をリズが述べると、アレクシスはラッピングを解きながらくすりと笑った。


「もちろん、永住してくれるんだよね?」

「そりゃあもちろん……って、永住!?」


 いきなり話が大きくなったのでリズが驚くと、アレクシスはからかうような悪い笑みを浮かべる。


「あれ? リズにとって僕は、夜露をしのぐだけの宿だったのかな?」

「違うよ! アレクシスが良いなら、永住したい……です」


(なんだろうこの会話。妙に恥ずかしい……!)


 箱を開けたアレクシスは、うっとりするようにカフスボタンを眺めた。


「本当に、綺麗なカフスボタンだ。付けてくれる?」


 こくりとうなずいたリズは、彼の袖についているカフスボタンを外してから、新しいのに付け替えた。アレクシスが差し出した手首が、思いのほか男らしくてドキドキする。


「タンザナイトっていう宝石なんだって。角度によって、色が変わるの」


 そう説明すると、アレクシスは取りつけられたばかりのカフスボタンをシャンデリアに向けてかざした。

 色が変化したタンザナイトを、アレクシスはまじまじと見つめる。 


「……リズの瞳の色だ」


(気が付いてくれた……)


 真っ先にそれを思い浮かべてくれたことが、何よりも嬉しい。


「ありがとうリズ。一生、大切にするね」


 アレクシスは瞳を潤ませながら微笑んだ。彼はいつもこうだ。嬉しい感情に対して素直すぎるところが、可愛い。


 思い切って渡せて良かった。リズがそう思っていると、アレクシスはリズの両頬に触れた。


「お礼をしても良いかな?」

「うん? お礼?」


 こんな時まで頬を弄ばれるのだろうかと一瞬リズは身構えたが、次の瞬間にはアレクシスの顔が近づいてくる。

 驚いて目を閉じると、リズの唇と頬の間辺りに彼の唇が触れた。


 ほんの少しだけ、唇にキスされるのではと期待してしまったリズは、目を閉じてしまったことが恥ずかしくなる。

 けれどすぐに、キスしてもらえたことへの喜びが沸きあがってきて、頬がゆるゆるになってしまった。


「ありがとう。嬉しい……」


 ふにゃっとリズが微笑むと、アレクシスは大きくため息をつきながらリズの肩に顔を埋めた。

 ため息をつかせてしまうことでもしたかな? とリズが心配になっていると、アレクシスはぼそっと呟いた。


「今日はもう、どこへも行きたくない。リズを独り占めしたい」

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