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104 王都魔女2


 「なるほど」と、感心した様子のカルステンやアレクシスの護衛達も、同じように制服が見える状態に変える。


「これでお二人が、公家の者だと示すことができます」

「わぁ……。みんなありがとう。でも、お忍びじゃなくなっちゃうけど大丈夫なの?」


 アレクシスが声を上げれば、どちらにせよ身分を明かすことにはなるが、遠くからでも見える状況は警護に問題が生じないか心配だ。


「大丈夫だよ。僕達の護衛は優秀だから」


 そう微笑んだアレクシスは、「皆に負けていられないな」と懐から何かを取り出した。

 しゃらりと音を立てながら取り出したのは、彼が公の場で身に着けている公子の証であるペンダントだ。


「えっ……。それまで着けちゃうの?」


 公子だとアピールしすぎでは? とリズは思ったが、彼は「こうするんだよ」と言いながらメルヒオールを手に取ると、柄の先にペンダントを括りつけてしまった。




 通りを散策しつつレストランへと向かい始めたリズは、ハラハラしながらメルヒールを見つめていた。


 彼は、通りを歩く人に睨まれるたびに、これ見よがしにアレクシスがぶら下げたペンダントを見せに行くのだ。

 見せられた人は、驚いてこの場から逃げ去る。その様子が楽しいのか、メルヒオールは何度も繰り返していた。


「ねぇ、アレクシス。あんなことしちゃって、後々問題にならない?」

「大丈夫だよ。珍しいペンダントを見せてくれるメルヒオールは、むしろ善良なほうきさ」


 確かに相手に悪意がなければ、驚きはしても逃げ出す必要はない。


 それにメルヒオールはリズよりもずっと長生きなので、虐げられてきた期間もリズの比ではないのだ。これくらいのイタズラは許されるだろう。




「このレストランがお勧めなんだ」


 たどり着いたレストランは、高級感はありつつも落ち着いた雰囲気のレストランだった。飾られている調度品も豪奢ではありつつも、主張しすぎないデザイン。やはりここにも、都会的な洗練さがある。


「わぁ。素敵なところだね。アカデミー時代によく来ていたの?」


 こんな素敵なレストランへ、誰と来ていたのだろう。アレクシスはどのような学生生活を送っていたのか、リズは気になった。

 アレクシスの容姿と性格ならば、令嬢達が放っておくはずがない。


「寄宿舎では週末の夜は食事が出ないから、仕方なくローラントとね。今日はリズと食事して、ここを良い思い出に変えたいよ」

「同感です」


 アレクシスの後ろで、ローラントもうなずく。


(この二人って、学生時代は仲が悪かったんだよね……?)


 そんな二人が、毎週のように食事へ出かけていたとは。リズが思っていたより二人の学生時代は、華やかではなかったようだ。


「それじゃ今日は、二人のお勧めを食べたいな」


 リズがにこりと微笑むと、二人もふわっと表情を明るくさせた。その笑顔をお互いに見せていたら、もっと早くから仲良くなっていただろうに。




「俺のお勧めは、こちらの白身魚の香草焼きです」


 ローラントはメニューを開いてお勧めを教えると、すぐに他のテーブルへと向かってしまった。護衛達は交代で食事しつつ警護をしてくれるようだ。


「二人きりになっちゃったね」


 本当のデートのような雰囲気になったので、リズは少し緊張してくる。ちらりとアレクシスに視線を向けてみると、甘く微笑んでいる彼と目が合った。


「うん。やっと二人きりになれたね」


 このオシャレ空間に馴染みすぎている彼は、いつにも増して輝いて見える。

 この世の中に、これほど金のレリーフの壁が似合う男性がいるだろうか。


「なんか、緊張しちゃう……」

「そう? 僕は嬉しいよ」

「どうして……?」

「僕を意識して、硬くなってるリズが可愛いから」

「ばっ……恥ずかしいから言わないで」


 リズの気持ちなど、手に取るようにわかっているようなアレクシスの態度にいたたまれなくなったリズは、思わず顔を両手で隠した。

 これでは全身を使って、好きだとアピールしているようなものだ。


「こんなふうになっちゃうリズも可愛いし、嬉しい。けれど、顔は見ていたいな。楽しそうにメニューを選ぶリズや、美味しそうに食事するリズを見たいから」


 おまけにリズの手を外す誘導まで上手い。彼の手のひらの上で転がされているような気分になったリズは、むっとアレクシスを見た。


「私は、照れるアレクシスが見たい……」

「いいよ。僕を照れさせてみて」


 余裕すぎる態度のアレクシスには、すでに敗北した気分だ。

 どう褒めれば彼は照れるのか。考えれば考えるほど混乱してきたリズは、先ほど感じたことをそのまま口に出した。


「アレクシスは、オシャレな壁が似合うね」

「…………ん?」


 疑問でいっぱいのようなアレクシスの笑顔に耐えられなくなったリズは、再び両手で顔を隠した。褒める才能がない自分にがっかりしながら。




 アレクシスとローラントに勧められた料理はどれも美味しく、食べ始めたリズは先ほどの失敗などすっかり忘れて笑顔になっていた。


「リズ。このシャーベットも美味しいよ」


 デザートの食べ合いっこで幸せの絶頂にいたリズは、アレクシスが差し出したスプーンの上のシャーベットを、蕩けそうな顔でぱくりと口に入れた。

 ひんやり冷たい感触とリンゴの甘酸っぱさ。


(美味しい……。アレクシスに食べさせてもらったから、すごく美味しい……)


 目を閉じてしみじみと感じていると突如、その場の甘さに似合わぬドスの効いた声で「おい」と呼ばれた。


 リズが目を開いてみると、そこには眉間にシワを寄せまくっているフェリクスの姿が。


「お前ら……、俺の呼び出しを無視して何をしているんだ」

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