表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/117

101 魔法薬と魔女7

 書簡を持ってきた者が小走りで公王の元へ向かうと、膝をついて書簡を公王へと捧げる。


「ドルレーツ王国からだと?」


 眉をひそめた公王は、巻物と封筒に入った手紙の二つを手に取った。


「こちらは王太子殿下から、リゼットへの手紙のようだ」

「私にですか……?」


 封筒のほうをリズに手渡され、リズは嫌な予感がしながらそれを受け取った。


(フェリクスからの手紙なんて、良いことが書いてあるとは思えないんだけど……)


 貴族の前で嫌な顔をするわけにもいかず、リズは困りながらアレクシスへと視線を向けた。


「とりあえず、読んでみたら?」


 今にもこの手紙を破り捨ててしまいそうなほどの、引きつった笑みを浮かべるアレクシス。相当、怒っているようだ。

 リズは釣られて作り笑いをしながら、侍従が差し出したペーパーナイフを受け取った。


 そこへ、隣で先に巻物を読み始めていた公王が「おお!」と感嘆の声を上げる。貴族達は公王に注目した。


「ドルレーツ王国が、魔花を提供してくださるそうだ!」

「本当ですか!」

「助かりましたね!」


 貴族達は喜びの歓声をあがるが、次第にその声は疑問へと変わる。


「しかしドルレーツはなぜ、我々が魔花を必要だと知っているのでしょうか」

「魔力の減少期については、我々も知ったばかりですよ……」


 その疑問は最もだ。属国の公国民が魔力の減少期を知らないということは当然、元は同じ国であるドルレーツ国民も知らないはず。


「それについては、こう記されてある。王太子殿下が昨夜、瞬間移動にてお忍びで公国を訪問。その際に、魔力の減少期に気が付かれたのだと。――王太子殿下ならば、今回の事情にもお詳しいということだな?」


 後半はリズへの問いかけのようなので、リズは「はい」とうなずいた。


「建国の大魔術師様でしたら、魔力の減少期にもご存知でしょうし、薬の材料も予想が付くのだと思います」


 万能薬に魔花が使われていると知ったフェリクスなら、簡単に予想できたはず。なんなら、ミミが薬を作っている場面を盗み見した可能性すらある。

 リズとしては、フェリクスなら何を知っていてもおかしくないという印象だ。


 公王はリズの説明に納得したようすでうなずいてから、さらに巻物を読み進めた。しかし、次第に表情が険しくなる。


「受け取りには、リゼットが直接来るようにとのことだ」


 婚約発表の件がまだ皆の心に色濃く残っているせいか、皆不安そうな顔になる。

 すると突然、バンッ! っとテーブルを叩く音と共に、ヘルマン伯爵が立ち上がった。


「これは公女殿下を貶めるための、罠かもしれません!」


(わぁ……。味方になると宣言したら、とことん味方になってくれるんだ……)


 少しわざとらしい感じではあるが、リズはその演技力に関心する。そのおかげで、他の貴族達からもぽつぽつと賛同の声があがる。


「うむ……。リゼットの手紙にはなんと書いてある?」


 公王に問われて、まだ手紙を読んでいないことに気が付いたリズは、慌てて便せんを開く。

 そこには短く、こう書かれていた。

 

『巻物にも書いたように、そなたが魔花の受け取りに来るように。

 それから、公子が捕まえた密偵をそろそろ返してくれ。

 この二つの条件で、鍋の対価は清算としよう』


「うっ……」


 とても簡潔で、フェリクスらしい内容だ。


「何と書いてある?」

「同じく、私が受け取りに来るようにと書かれていますね……」

「そうか。しかし、このままリゼットに行かせて、また不利な結婚条件をつけられないか心配だ」


 これは公国の威信にも関わる問題だ。皆が真剣に悩み始めたが、リズの答えは一つしかない。


(ここで拒否したら、もっと悪条件を付けられそうだよね……)


 それに魔花が手に入るのならば、リズはどれほど待遇が悪くなっても気にしない。どのみちフェリクスとは婚約破棄する。それまでの辛抱だ。


(今はなにより、公国民の健康を優先しなきゃ)


「皆様、心配してくださりありがとうございます。けれど私が行くことで魔花が手に入るなら、そちらを優先したいと思います」

「それで本当に良いのか?」

「はい。私も公女として、公国の役に立ちたいですから」


 公王の問いかけににこりとリズが微笑むと、横からアレクシスの声が続いた。


「妹だけでは心配ですから、僕も同行します」

「そうだな。お前がリゼットを守ってやってくれ」

「必ず守ってみせます。父上」


 アレクシスがついてきてくれるなら、これほど安心なことはない。

 リズは緊張の糸が切れたようにふぅっと息を吐いてから、アレクシスへと微笑む。


「ありがとう。アレク…………シス」


 しかしその微笑みはすぐにこわばった。なぜなら、アレクシスはすでにひきつった笑みすら消え、無表情で怒りを抑えている様子だったのだから。


(あ……あれ? 手紙はどこ?)


 気が付けばリズの手にあったはずの手紙が、アレクシスの手に移っているではないか。

 鍋に魔法陣を付与してもらったことについては、まだ話していなかったとリズは思い出す。


「りず。この前から気になっていたんだけど、『鍋の対価』について詳しく教えてくれるかな?」


 耳元で囁かれる怒りのイケメンボイスは、肝試しよりも恐ろしい。

 リズは消え入りそうな声で「はい……」と答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ