■95 断罪
高橋先生は一礼をした後、今回の臨時集会の本題について話し始める。
「この度PTA会長の立候補がありましたので、その審議について今回皆様にご協力を頂きたくこの場を用意させて頂きました。……まず初めに、現PTA会長の武島さんから今回の立候補についての意見を頂けますでしょうか?」
高橋先生がそう言うと保護者の中から1人立ち上がり、舞台まで歩いていく。
年配の女性は高橋先生に変わって演台のマイク前に立ち俺達に視線を送る。
「ご紹介に預かりました会長の武島徹子と申します。この度、会長への立候補があると聞いて大変意欲がある方がいらっしゃるようで、とても清々しい気持ちで来ることができました。今日はよろしくお願い致します」
俺が考えていたPTA会長の想像と全く違って少し驚く。
「九条さん……、なんか普通に良い人っぽいんですけど……」
俺は隣にいた九条さんに耳打ちで確認を取る。
「……和樹さん、見た目に惑わされてはいけませんよ。表面上は善人を演じていても、見えないところで狡猾な策を打ってくる。……和樹さんは身をもって経験しているはずですよ」
「……なるほど、そういう人なんですね」
俺は注意しながら舞台の方へ視線を戻した。
すると、舞台の隅に設置されていたパイプ椅子に武島会長は移動して腰を落とし、演台には高橋先生が立っていた。
「武島さん、ありがとうございます。それでは、今回PTA会長に立候補された山守芳樹さん、立候補の理由と抱負をお願い致します」
高橋先生がそう言うと、席に座っていた芳樹おじさんが立ち上がり、舞台へと移動していく。
演台のマイク前に到着した芳樹おじさんは、俺達の方に視線を向ける。
「ご紹介に預かりました山守芳樹と申します。この度、PTA会長に立候補させて頂いた経緯としましては、現PTA会長の武島さんによる職権乱用について物申したく立候補させて頂いた次第です」
芳樹おじさんはいきなり本題をぶっこんできたようで、保護者の方たちがざわつき始める。
「く、九条さん!」
「……まだ早いですよ和樹さん、少し様子を見ましょう」
焦る俺だったが、冷静な九条さんのお陰で俺も冷静さを取り戻す。
「……す、すみません」
舞台に視線を戻すと、舞台の隅でパイプ椅子に座っていた武島会長にも高橋先生がマイクを渡す。
マイクを受け取った武島会長は立ち上がり、芳樹おじさんに問いかける。
「……職権乱用……ですか? 聞捨て鳴りませんね。一体私が何をしたと言うのですか?」
「身に覚えがありませんか? あなたはご自身の息子さんの不祥事をもみ消しただけじゃ飽き足らず、……その責任を全て私の息子に擦り付けたんですよ!」
「……口から出まかせを。証拠はあるんですか? 証拠は!」
武島会長は語尾が強くなり、声も荒々しくなっていた。
すると、九条さんが大声を発する。
「……今です! 皆さん、出てきてください」
九条さんが大声で発すると、体育館のすべての入り口が勢いよく開く。
すると、外から学園の理事長や大勢の運動部の面々が体育館に入ってくる。
「……まず、私が証言しよう」
まずは理事長が声を発し、武島会長から資金援助を受けていた事を理由に、今回の不祥事のよる停学処分を無理やり帳消しにした経緯を皆の前で証言した。
「……生徒会長から異議申し立てを受けて目が覚めたよ。……本当に申し訳なかった」
理事長はその場で思いっきり頭を下げる。
「……またあるぜ!!」
理事長の証言が終わった後、野球部の田崎キャプテンの大きな声と共に野球部の面々が見覚えのある3年男子達を連れて体育館に入ってくる。
「会長、頼まれていたやつらを捕まえてきたぜ」
「ありがとうございます皆さん」
田崎キャプテンはすっかり意気消沈している3年男子達に問いかける。
「さ、洗いざらい吐け! 嘘ついたら……分かっているよな?」
「ひっ! ……い、言いますから! た、武島の親から言われて山守ってやつが問題を起こしたって噂を広めるように言われました!」
それからも次々と俺が一週間ちょっとの間受けてきた嫌がらせの数々を赤裸々に証言していく。
「……だそうだ、会長」
田崎キャプテンは九条さんに向かって問いかける。
すると、九条さんは立ち上がり舞台の方へ視線を向ける。
「武島会長! ……これでも、証拠は足りないでしょうか?」
九条さんは武島会長に鋭い視線を向けながら問いかける。
「……ぐっ! 九条……美咲……」
初めの表情は影を潜め、憎悪にまみれた表情で九条さんを睨みつける武島会長。
「……あなたがしてきた数々の悪事、私たちは全て把握しております。……即刻、会長の座を降りて頂けますでしょうか?」
そして、舞台にいた芳樹おじさんも九条さんの追撃をする。
「……あなたにPTA会長を任してはおけません。私がその任を引き継ぎます。異論はありませんね?」
マイク越しにそう芳樹おじさんは言うと、会場にいた保護者の方々も武島会長に向けて野次を飛ばし始める。
「そうだ! 会長なんてやめてしまえ!」
「そうよ! 本当にひどいわ、信じられない!」
1人が野次を飛ばし始めると、次々と言葉が飛んでくるようになる。
「……うぅ……こんな……ことになるなんて」
「……武島さん、あなたにはまだしなくてはいけない事が残っています」
「……何よ?」
舞台にいた芳樹おじさんは俺の方に視線を向ける。
「和樹君! ここに来てくれるかな?」
「……は、はい!!」
俺は想定外の一連の流れで空いた口が塞がらない状態だったが、芳樹おじさんからのご指名を受けてすぐさま舞台へと向かう。
「……来ました、芳樹おじさん!」
「ありがとう和樹君」
芳樹おじさんは武島会長に視線を向ける。
「武島さん、今回あなたが行った事について和樹君に謝罪を要求致します」
芳樹おじさんがそう言うと、会場にいた親御さん達も同調してくる。
「そうだ! 息子さんに謝れ!」
「謝罪しろー!」
もう会場にいる保護者達は全員が芳樹おじさんの味方になっていた。
俺は芳樹おじさんから背中を押されて、武島さんの目の前まで移動する。
「……ぐッ! ……今回は、ひどい事をして申し訳ありませんでした……」
武島さんは俺に向かって頭を深く下げて謝罪をしてくる。
「……わかりました。もう2度と同じような事をしないでください」
俺は芳樹おじさんの方へと戻る。
「……芳樹おじさん」
「和樹君。……これで、何も心配せずに高校生活を過ごす事が出来るね」
「はい! あ、ありがとうございます! ……まだ、頭がついてきてないですが、これで元通りなんですよね!」
「そうだね。また、高校生活の楽しい話を聞かせてよ、和樹君」
芳樹おじさんは仏のような笑顔を俺に向けてくる。
その笑顔を見た俺は、この1週間ちょっとの辛い気持ちが綺麗さっぱりなくなっていくのを感じていた。
「それじゃ、戻りますね!」
「うん」
舞台から降りた俺は九条さん達の場所へと戻る。
「……ただいま」
「お帰りなさい、和樹さん。さて、後は終わるまで待機しておきましょう」
それから臨時集会は芳樹おじさんがPTA会長になることに決まり、武島さんはPTA役員から除外され、もう2度と学校に関与できないように決まった。
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