■90 愛花の人望
俺はすぐに愛花の教室前に到着する。
中を覗いてみると愛花の机周辺にはガラの悪い1年男子が3人グループで愛花に言い寄っている状態だった。
「――ほんと、迷惑だよ。君のお兄さんのせいで先輩から質問攻めでさ……さっきから黙ってないで何か言えよ!」
リーダー格の1人が愛花を見下ろしながら問い詰めている。
「……っ」
愛花と近くにいた梓ちゃんや神崎さんは押し黙っている。
手助けしようとすると、近くにいたアリサちゃんが痺れを切らしてバッと間に入ってくる。
「そんなの愛花は関係ないじゃん! 勝手に難癖をつけないでよね!」
アリサちゃんが反発すると、周りの女性生徒達も声を出し始める。
「そうよ男子! さっきから聞いていれば、質問するなら山守さんじゃなくてお兄さんに直接言えばいいじゃない!」
「えぇ! どうせ、お兄さんに直接言う勇気がないから山守さんに当たっているのよ!」
どうやら、クラスの女子生徒は全員が愛花の味方をしているようで、糞生意気な男子生徒達を非難しまくっていた。
さすがの男子達もひるむが――
「糞、恥をかかせやがって!!!」
――リーダー格の1人が愛花を叩こうと腕を振り上げる。
『神楽耶!』
『はい! 和樹君!』
――パシッ!
ものすごい速さで1年男子に接近した俺は相手の振り上げた腕を掴んだ。
俺はそのまま相手に質問する。
「……俺に何か用か?」
「……へ?」
相手は何が起きているのか一瞬分かっていなかったが、すぐに理解する。
「なな、なんでここに!?」
めちゃくちゃ動揺していた。
「兄さん!?」
「愛花、気になって来てみたら何かこいつに言い寄られていたみたいだけど?」
「はい……昨日からしつこく言い寄ってくる方で私も困っていたんです」
「……ふ~ん」
俺は1年男子に視線を向けると、すっかり戦意喪失している。
精一杯の笑顔をした俺は1年男子に釘を刺す。
「……何か言いたいことがあったら俺に直接言ってね。もし、愛花に何かしたら……わかってるよね?」
俺は握っている拳に力を込める。
「……は、はい! わ、わかってます!」
どうやら分かってくれたようで安心していると、追いかけてきた樹や恵も愛花の教室に入ってくる。
「おい和樹、急にどうした?」
「えぇ、急に出ていくもんだから心配するじゃない!」
続けて園田さんや近藤さんも教室に入ってくる。
俺は思いついたかのように、恵に提案する。
「すまんすまん。それはそうと恵、どうせだし愛花のクラスの誤解も晴らしておこう」
「……え? あぁそうね。皆もいることだし」
それから俺達は教卓の前に立ち、噂が嘘っぱちで本当に起きた事をクラス全員に共有する。
「……え、そうだったの?」
「私も聞いてた話と全然違う……」
「むしろ、山守さんのお兄さんすごいです!」
クラスの俺の見る目が格段に変わった気がする。
それからも愛花のクラスでは生徒達が思い思いの事を話していた。
――ガラッ
話終わると、教室の入り口が開き次の授業の先生が入ってくる。
「ありゃ? もう授業が始まるぞ」
「あ、すいません! 失礼しました!」
俺達は急いで教室へと戻っていった。
……何はともあれ、愛花のクラスの誤解を解く事が出来たのはデカかった。
教室に戻ると既に授業は始まっていた。
「コラ! もう授業が始まってるぞ!」
怒ってくる先生に俺達はペコぺコしながら自席に戻って授業に参加する事にした。
『……いい感じに活用できたな。これで愛花のクラスでも問題は起きにくくなっただろう』
『ですね!』
『……ありがとうな、神楽耶』
『いえいえ~』
俺は神楽耶にお礼を伝え授業に集中することにした。
それからは特に問題も起きることなく、昼休みまで過ごす。
「和樹、今日って確か部室で食べるんだよな?」
「あぁ、すぐに鍵を取りにいくから先にいっておいてくれ」
「えぇ、それじゃいきましょ斎藤君」
「了解した! それではまた後でな和樹」
「おぅ」
教室から出ていく2人を見送った後、俺は急いで職員室に向かう。
職員室に着いた俺はすぐに中へと入る。
「お邪魔します」
俺は部室の鍵のある場所まで向かうが、途中で高橋先生に飛び止められる。
「あ、和樹君。ちょっといいかしら」
まだ呼ばれ慣れていないと呼ばれ方で俺はドギマギしてしまう。
「……はい、なんでしょう?」
「伝えたい事があったので、今少しいいかしら?」
「良いですが――」
俺は高橋先生の机の上に置かれた弁当に視線を向けながら質問する。
「――よかったらこの後部室にいくんですが、高橋先生も一緒に食べませんか?」
「……あら、いいの?」
「はい! その方が皆も聞けますし」
「分かったわ。それじゃ行きましょう」
俺は部室の鍵を借りて高橋先生と部室へと向かった。
部室に到着すると皆は既に待機しており、何と九条先輩も来ていた。
「九条先輩!?」
「こんにちは、山守さん。昨日お昼は部室で食べると仰っていたので来ました」
「それは大歓迎なんですが、生徒会の仕事はいいんですか?」
「はい、ご心配いりませんよ」
「わ、分かりました! すぐに鍵を開けますね」
俺は急いで鍵を開ける。
部室に入った俺達は奥のソファーに座り込み、弁当をテーブルへ置いていく。
各々が弁当を食べ始めると共に、弁当談義が始まっていた。
「……麗子ちゃん、お弁当どうでしたか?」
愛花が神崎さんに尋ねる。
「うん! 頑張って作ってみた! ちゃんと愛花のアドバイスも忘れないようにしたよ!」
「それはよかったです!」
2人のやり取りを聞いて俺も話に加わる。
「へぇ……神崎さんはお弁当初挑戦か、頑張ったんだね」
「はい! 師匠……少し食べてみますか?」
「……え、いいの?」
「はい!」
「……それじゃ、お言葉に甘えようかな」
俺は弁当の蓋に神崎さんからオカズなどを少し分けて貰った。
――パクッ!
俺は貰ったおかずをすぐさま試食する。
「……これ、初めて作ったの? 全然美味しいじゃん!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
お世辞とかではなく、本当に美味しかった。
「愛花から味見がとても大切って聞いていたから、とにかく味見をしながら作りました!」
「そうだったんだね。確かに……愛花は頻繁に味見していた気がするな」
俺は思い出しながら話す。
「はい! しっかり自分の作る料理の味を理解しておかないと、おかしな味になった時に気付けませんからね!」
愛花は味見の重要性を力説してくる。
「そのアドバイスのおかげで神崎さんのお弁当が出来上がったって感じか」
「はい! 愛花のアドバイスはとても参考になりました!」
「ふふ、どういたしまして!」
愛花はニコニコしながら返答する。
「……神崎さん、初めて弁当を作ってみてどうだった?」
「そうですね。まだ何もかも初めてなので新鮮な気持ちで作れました! 明日からも弁当を作っていくので早く慣れて料理を楽しめるようになると嬉しいです!」
神崎さんはとても前向きな気持ちを持っているようで安心する。
また、料理好きを愛花は作り出してしまうんだろうな。
――と思っていると、高橋先生が話始める。
「食べながら聞いてもらえると良いんだけど、PTAの臨時集会の開催日が決まったわ」
「それってさっき、俺に伝えようとしていた事ですか?」
「えぇ、あと一週間ぐらい先ね」
すると、食事を済ませた九条先輩が高橋先生に話始める。
「高橋先生、その臨時集会の時に行いたい取り組みがあるのでご相談いいでしょうか?」
「いいわよ。何かしら?」
会長は弁当に蓋をしながら話す。
「……全校生徒も巻き込んだ臨時集会にして頂きたいのです」
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