■89 繋がり
俺が気持ちよく寝ていると、脳内に神楽耶の声が響いてくる。
『和樹く~ん、そろそろ起きないと遅刻ですよ~』
神楽耶の声で俺の体は睡眠状態から急激に覚醒状態へと変化を始める。
――ムクッ
体を起こした後、俺は神楽耶に視線を向ける。
『……おはよう神楽耶。……やっぱり神楽耶が起こしてくれると起きやすいな』
『本当ですか! これから毎日やっちゃいますね!』
『あぁ頼むよ』
俺はベットから出て思いっきり背伸びをする。
『あ、そうそう和樹君。昨日話していた愛花ちゃんの件ですが』
『ん? ……あぁどうだった?』
『はい! お願いしたら2つ返事で承諾して頂きました!』
『お! マジか!』
『これで愛花ちゃんの身に危害が及びようになった時には、私にも知らせが来るようになったはずです!』
非常に心強い助っ人に俺は心底安堵する。
『せっかく承諾してくれた事だし、どうせなら愛花の守護霊ってのにも挨拶してみたい気もするな』
『挨拶してみますか?』
『……いや、簡単に言うけどそれって愛花もその場にいないといけないだろ?』
『その通りなのですが……』
『なぁ、愛花の守護霊の方にも神楽耶としている思念って届かないのか?』
俺は何か他に伝達方法がないかを確認する。
『……それは難しいですね。私に和樹君の思念が届くのは和樹君と私が繋がっているからです。全く繋がりのない精神体に思念を飛ばすことは和樹君にはできないと思いますよ。……私は出来ますがっ!』
胸を張ってエッヘンとドヤる神楽耶をスルーしつつ、俺は残念がる。
『そっかぁ……。それじゃ俺がお礼を言っていたって伝えておいてくれるか?』
『あ、はい! お伝えしておきますね!』
何はともあれ、これで愛花のピンチに駆け付ける事が出来るようになった。
後は、もっと神楽耶の力を有効活用してどんな状況でも愛花を守れるように頑張らなきゃな!
――コンコン
すると、ドアが不意にノックされ、愛花の声がドア越しに聞こえてくる。
「兄さ~ん、起きてますか?」
「おー、起きてるぞ」
「……よかった。そろそろ朝ご飯を食べないと遅刻してしまいますので早く降りてきてくださいね」
「わかった、すぐ降りるよ」
俺は返答をすると、階段を下りる音が微かに聞こえてきた。
「……よし! 今日も気合入れていくか!」
俺は出発の準備を済ませて朝食を食べた後、愛花と一緒に家を出る。
通学中、梓ちゃんやアリサちゃんと合流を済まして桜並木を上がっていた。
「……あ~、やっぱり慣れないもんだな」
学校に近づくにつれて、視線の数も増えていく。
こればかりは慣れるには時間が掛かりそうだ。
「……和樹さん、大丈夫ですか?」
梓ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「……あはは、これじゃ、一緒に通学しないほうがいいかな?」
俺が梓ちゃんに苦笑しながら質問すると、勢いよく両手を左右に振ってくる梓ちゃん。
「……そそ、そんな事言わないでください! 何か言われてきても私は大丈夫です!」
「そうそう! 昨日だって、クラスの男子が愛花に因縁つけてきたけど、返り討ちにしてやったもんね!」
俺は聞き捨てならない事を聞いて愛花に確認を取る。
「……えっ! 愛花、そうなのか?」
「は、はい! そうですね……アリサちゃん達が守ってくれたので特に問題はなかったですが……」
「そっか……ありがとう2人とも」
俺は梓ちゃん達に改めてお礼を言う。
やはり、学年が違うといつも一緒にいるって事はできない分、見えないところで問題は起きているようだ。
「……いえ! 愛花ちゃんは大切なお友達ですから、守ってみせます!」
「うん! まっかせて、愛花のお兄さん!」
「……兄さん、私も噂を聞いて因縁をつけてくる人なんかに負けませんから安心してくださいね!」
「ありがとう……ごめんなぁ……」
俺はお礼を伝えたが、俺のせいで迷惑をかけている事は変わりないのでどうしても謝罪の言葉が出てしまう。
程なくして、校門まで到着した俺達は、昇降口へお昼の場所の再確認をする。
「昨日も部室で話した通り、今日からお昼は部室で食べようと思う。俺が鍵を持っていくから部室前で待っていてくれ」
「わかりました兄さん!」
「……はい!」
「りょうかーい!」
愛花達と別れた後、俺は自分の教室まで急いだ。
教室に入ると、俺に気付いた樹が近寄ってくる。
「おはよう和樹! 昨日は会長とどうだったんだ?」
「どうだったって……普通に晩御飯食って終わったが?」
「……え、それだけなのか? 何か面白い事が起きそうでワクワクしていたんだがな」
「悪かったな普通で」
俺は樹にジト―と目線を送ると樹は話題を変えてくる。
「それはそうと、今日も放課後は運動部を回るのか?」
「あぁ、九条先輩もそのつもりらしい。サッカー部にでも行こうかなって考えているけど、またお昼に相談させてもらうよ」
「了解した」
樹と話をしていると、恵と園田さんと意外にも近藤さんの3人が近づいて来る。
「和樹君、おはよう」
「……おはようございます、山守君」
「……おはよう、山守」
「おはよう! ……珍しい組み合わせだな」
俺は近藤さんに視線を向けて話す。
「……悪かったわね。珍しい組み合わせで」
近藤さんは俺に軽口を返してくると恵がフォローを入れてくる。
「近藤さんと瞳ちゃんに昨日の進捗を話していたのよ。もうこの教室も和樹君の誤解は解けているじゃない?」
「そうだな。おかげで非常に過ごしやすい」
「でしょ? だから、2人にも出来る限りこのクラス外の誤解を解いてもらえるようにお願いをしていたところなのよ」
「そうだったのか……。近藤さん、変に突っかかって悪かったな」
近藤さんは俺から視線を逸らす。
「……別に、元はと言えば私たちが原因みたいなものだし」
俺は諦めて園田さんに視線を送る。
「園田さんも協力してくれてありがとう、迷惑かけるね」
「……いえいえ! これぐらいお安い御用です」
園田さんは笑顔で返答してくる。
そんな中、樹は何か思い出しながら話始める。
「……ふむ、どちらにしても噂が完全に収まるまではあまり校内をブラブラするのは得策ではないだろう」
「それには俺も賛成だ。また急に殴られていちゃ体がいくらあっても足りないからな」
その話を聞いて園田さんは不安そうな顔をする。
「……何か乱暴されたんですか?」
「3年の男子からちょっとね……でも、もう俺からは手を出さないって決めたから耐えるつもりさ」
「……そうでしたか……私も出来る限り協力するので、何かあったら頼ってくださいね!」
「ありがとう、園田さん」
俺は精一杯の笑顔を園田さんに向ける。
――ガラッ!
すると、扉を開けて教室に高橋先生が入ってくる。
「――さ、HR始めるわよ、席に着きなさい」
「お……それじゃ、また後で」
「えぇ、また後でね和樹君」
「あぁ、和樹また後でな」
俺達は高橋先生の言葉を聞きながら急いで席に戻っていった。
HRが終わり1限がいつも通り始まり、すぐに終えて休み時間に入る。
すると、神楽耶が思念を飛ばしてくる。
『和樹君!』
『……ん? どうした神楽耶』
『愛花ちゃんの守護霊の方から思念が届きました! ……愛花ちゃんが危ないようです!』
『……はっ!? まさか、メッセージってのが届いたのか?』
『はい、厳密にいえば思念ですが……急いで向かいましょう!』
『早速かよ!! あぁわかった!』
俺はすぐさま机から立ち上がり、教室から走って駆け出した。
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