■88 頼る相手
俺は薄っすらと意識が覚醒し始める。
まどろみの中、微かに芳樹おじさんと愛花の話声が聞こえる。
「――いつもあんな無茶をしているのかな?」
「……はい。私もあまり無茶はしないように話してはいるんですけど」
「両手の傷もそうだし、今日なんかは全身傷だらけにだもんね」
「はい……」
「高橋先生や部員の皆から話を聞いたよ。傷は全て部員の皆を守るために付けた傷だってね」
「そうなんですよ! 見守る側にとってはとても心臓に悪いです!」
「あはは……本当に正樹兄さんと和樹君は似てるな」
「……お父さんと、ですか?」
「あぁ、和樹君のお父さんは常に他人の幸せばかりを考えていたよ」
「……お父さんって優しい人だったんですね!」
「そうだね。私も救われた1人だから……でもその結果、ずる賢い一部の人に利用されたりもしたけどね」
「え、それって……」
「あぁ、和樹君も何かとため込みやすいからね。……ずっと傍にいる愛花ちゃんだからこそ和樹君は頼る事が出来ると思うし、そういった悪意ある輩が和樹君に近づいてきたら遠ざけてほしいんだ」
「そ、それはもちろんです!」
「……もし、接近を許してしまったとしても1人より2人の方が負担は少なくなるからね。……和樹君の支えになってくれると嬉しいよ」
「それはもう、い~~っぱい支える準備はしてるつもりですが……最近、私にそんな力はあるのかなって思うんです」
「……愛花ちゃん?」
「部活動を始めたばかりはそうでもなかったんですか、次第に部活動で悩みを解決していくうちに部員の方たちと仲良くなっていって……私からどんどん離れていくような感覚を感じてしまうんです」
「……おやおや、嫌なのかい?」
「嫌って程ではないですが……少し寂しいような、なんとも言えない気持ちです」
「そうなんだね。……でも、安心するといいよ。愛花ちゃんが思っている以上に和樹君は愛花ちゃんがいるからこそ、頑張れているんだ。和樹君の今の原動力だって、愛花ちゃんに最高の高校生活を送らせたい一心だと言っていたからね」
「……そうでしょうか?」
「あぁ大丈夫さ、愛花ちゃんが和樹君に微笑みかければ和樹君は100万倍元気が出るはずだからね」
「あはは……100万倍ですか」
「……うん! だから、和樹君の傍でずっと微笑んでいてくれると私も嬉しいし、和樹君も嬉しいと思うな」
「……はい! わかりました!」
……俺は完全に起きるタイミングの逃してしまっていた。
もう一度寝返そうと思ったその時――
「……ところで愛花ちゃん、さっき部員の方たちと仲良くなったと言っていたが、和樹君とお付き合いしそうな女子生徒ってのがいるのかい?」
――ガバッ!
恋バナを始まりそうだったので勢いよく俺は起きた。
「……おや、和樹君、お目覚めかい?」
「ふぁ……あれ、芳樹おじさんもう帰っていたんですね」
俺は起きていた事を気づかれないように今起きたかのような演技に専念する。
「あぁ、もう夜遅いからお風呂に入ってから寝るようにしないといけないよ?」
「2人はもうお風呂に入ったんですか?」
「はい! 先に入りました」
「あぁ、気持ちよさそうに寝ているものだからね。先に頂いたよ」
「……あ、兄さん。手の方はもう1人でも入れそうですか?」
俺は両手を動かそうとすると、左手は問題なく動かせそうだったので頷いて見せる。
「わかりました! 何かあったらリビングにいるので呼んでくださいね」
「わかった」
「それじゃ、おじさんは部屋に戻るとすると、明日の私の朝食は良いよ。朝早く出かけないといけないからね」
「……そうですか。わかりました!」
少しシュンとなる愛花だったが、すぐに元気になる。
「それじゃ和樹君、また何かあったら連絡するね。お休みなさい」
「はい!」
芳樹おじさんはそう言うと、2階へと上がっていった。
「それじゃ愛花、風呂に行ってくるよ」
それから俺は神楽耶と別れて風呂に入る。
体を左手で洗い終えると湯船に漬かる。
「……ふぅ……気持ちいい……」
お風呂の天井を見上げながら先ほどの2人の話を思い出す。
「……愛花があんなこと、考えていたなんてな」
確かに、最近は部員の事で気が回っていなかった気がする。
……気を付けないとな。
――バチンッ!
俺は左手で頬を思いっきり叩いて気合を入れる。
「……よし! 明日からもっと愛花を寂しくさせないように行動しよう!」
それから風呂から上がってリビングに戻ると、愛花はテーブルにうつ伏せになっていた。
俺はそんな愛花の頭を撫で撫でする。
「……ん……んにゃ? 兄さん?」
「あ、起こしちゃったか……愛花、明日からだけど、多分また他の部活動に顔を出すと思う」
「……そうですよね。兄さんの疑いを晴らすためですもんね!」
「あぁ、だから明日からは愛花も手伝ってくれないか?」
「手伝うって、部活動のお手伝いを、ですか?」
「うん。でも、少しでも危なそうだったらすぐに俺の後ろに隠れろよ。守ってやるから!」
俺は笑顔を愛花に向ける。
「……はい! 精一杯兄さんの為に頑張りますね!」
すると、愛花は満面の笑みをしながら返事を返してきた。
「……それじゃ、寝るか」
「はい!」
それから俺達はリビングの明かりを消して一緒に2階へ上がる。
「それじゃ、お休み愛花」
「おやすみなさい兄さん!」
自室に入った後、ベットに座った俺は神楽耶に確認を取る。
『神楽耶、今日1日のおさらいをしよう』
『はいはい、何でしょう?』
『まず、大きな発見としては神楽耶の行動に合わせて力を出すとブーストがかかる事だ』
『そうですね!』
『でも、力を入れすぎるとそのまま神楽耶の制御を解いてしまうし、威力の調整が難しいのが難点だな』
『ですね。……球拾いの時は制御が解かれる回数が多かったです』
神楽耶は思い出しながら話す。
『だな。あと、一番大きいのは、ブーストを使うとあまり疲労感が溜まらないって事だ。本来なら結構な回数憑依していると、すぐぶっ倒れてもおかしくないぐらいなのに今日は1回の仮眠で済んでいる』
『それは私も思いました! 和樹君も頻繁に憑依使うから大丈夫かなーって思っていたんですけど、全然ピンピンしていましたもんね!』
『この調子で神楽耶ともっとシンクロしていったらすごい事になりそうだな』
『ですね! まぁ……そうならないようにしたいですけど』
『それもそうか。……それも踏まえて相談だが、明日から愛花も部活のお手伝いに加わって貰おうと思う』
俺はリビングで愛花に伝えた事を思い出しながら話す。
『確か、先ほどそう言ってましたね』
『だからこそ、愛花に何か危害が加わりそうになった時、俺はすぐに助けて行けるような状態にしておきたい』
『頼りになるお兄さんですねぇ……』
『茶化すなよ。それで前に神楽耶が愛花の守護霊にも力を貸しているって話してただろ?』
『はい。お貸ししていますね』
『そこで確認なんだけど……愛花の身に何か危険が及んだ時、その守護霊から神楽耶にメッセージ的なモノって送って貰えないのか?』
『あ~……はい、出来ると思いますよ! 和樹君が寝ている間にお願いしてみようかと思います!』
『本当か! なら、頼む! 事が起きてから愛花の傍に駆けつけてちゃ遅いからな! 出来る限り早く駆け付けたいんだ!』
『焦らないでください和樹君、まだ今日は和樹君も疲労は残っているはずですから、まずはゆっくり休んで後の事は私にまかせてください!』
『そうだな。……すまん。あとは神楽耶に任せて俺は寝るとするよ』
『はい! お休みなさい和樹君!』
神楽耶とのやり取りを終えた俺はベットへ横になり、布団を被って意識を手放した。
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