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■85 汚名返上

俺達は荷物を部室に置いたまま、校庭まで足を進めた。

校庭では野球部が野球の練習試合をしている最中だった。


「なんか……試合中みたいですね」

「そのようですね」


それから会長は試合を観戦している選手が集まっている控えベンチへと足を進める。


「すみません、田崎さんはいらっしゃいますか?」


すると、一人の男性生徒は立ち上がる。


「――俺の事だが、会長がここに何の用だ?」

「あなたが野球部のキャプテンで間違いないでしょうか?」

「あぁ、そうだが」

「はい。今日は野球部のお手伝いをさせて頂きたくて伺わせて頂きました」

「お手伝い? ……妙なやつも一緒にいるみたいだが」


田崎と呼ばれる野球部キャプテンは俺の方に視線を向けて呟いてくる。


「えぇ、今回は山守和樹さんの今校内で広まっている噂話を払拭(ふっしょく)する為に野球部のお手伝いに参りました」

「ほぉ……だが、どちらにしても今は1、2年の合同チームと3年のチームで練習試合をしていて忙しんだ! 後にしてくれるか?」

「……今は9回の裏で1,2年合同チームが4-2で負けているんですね」


会長は近くにあった黒板で戦況を確認すると、キャプテンに問いかける。


「あぁ。……そうだな、3年のエースの球から山守ってやつがホームランを打ち返すことが出来るならすぐに話を聞いてやってもいいぜ」


キャプテンは俺の方に視線を向けて、無理難題(なんだい)を吹っ掛けてくる。

だが、俺は思い当たる事があったので神楽耶に確認することにした。


『……神楽耶、ちょっといいか?』

『はい、何でしょう和樹君?』

『確か、前に温泉旅館で恵と卓球した時に結構いい試合が出来たと思うんだけど、野球でも同じようにできるもんなのか?』

『え? う~ん……そうですね。基本的には和樹君の近くで起きる事なら何でも応用することは出来ると思いますよ?』

『……なるほど、わかった』


俺は恐る恐る手をあげる。


「あの、それ挑戦してもいいですか?」

「山守さん!?」

「……お、威勢(いせい)がいいじゃねぇか。だがこの状況でミスってみろ、1,2年からの評判はガタ落ちだからな」


俺はグラウンドに視線を向けて戦況を確認すると、1アウトで1.2塁に選手が出ている状態だった。

ここでホームランを打てば3点が加算されて逆転勝ち、ミスるとゲッツーを貰って試合終了だ。


「構いません。やらせてください!」

「ふん……分かった。ちょっとだけ待ってろ」


すると、キャプテンはタイムを取り試合を中断させに試合中の選手たちの方へ走っていく。

その間に樹達が俺に向かって問い詰めてくる。


「和樹、安請け合いしてもよかったのか!?」

「そうよ和樹君。相手の思うつぼよ?」

「えぇ……山守さん。挑発に乗るのはあまり賢明(けんめい)でありませんよ?」

「まぁまぁ。……そうでもしないと、話を聞いてくれないと思ったもので」


俺は会長達に苦笑いを浮かべて答えていると、合同チームの代表がキャプテンと一緒にこちらに歩いてくる。


「キャプテン、俺は嫌ですよ! この状況であんな乱暴な方に代打に出て貰うなんて!」


合同チームの代表は俺に視線を向けながら反発してくるが、キャプテンは不敵な笑みを浮かべながら返答する。


「大丈夫さ。もし、この山守ってやつが上手く打てなかったらすぐに退場してもらって、また同じ状況からやり直してやるからさ」

「うぅ……わかりましたよ。キャプテン」


思いっきり俺に聞こえる声で2人がやり取りをしている。

すると、やり取りをし終えた合同チームの代表が俺に近づいてくる。


「それでは山守……さんですよね。お願いできますか?」

「わ、わかりました!」


俺はバッドとヘルメットを受け取り、学生服のままヘルメットをかぶる。


「それじゃ、行ってくる」

「兄さん! 頑張ってください!」

「……和樹さん、頑張ってください」

「一発ドカンと打っちゃって!」

「頑張ってください……師匠!」


俺は1年生組の声援に後押しされながら、バッターボックスへ向かう。


『……あ、そうだ神楽耶』

『はい、何でしょう?』

『確か学食で相手に攻撃が当たる瞬間に力を込めたら、ものすごく勢いが増した気がしたんだが……あれって何だったんだ?」

『う~ん、そうですね……私は和樹君の体を機械的に動かしているだけなので、おそらく……そこに和樹君の意志が重なる事で和樹君の体が反応して威力が増したんじゃないでしょうか?』

『へぇ……それじゃまた試してみるか』

『わかりました! あの球を打ち返せばいいんですよね?』

『あぁ、全力で頼むぞ』


俺がお願いすると、神楽耶はスッと俺の中に入ってくる。

バッターボックスに入ると、俺は3年のエースである投手に視線を向ける。


『まず、1球は様子を見よう』

『はい、和樹君』


すると、相手の投手は振り被って第1球を投げてくる。


――スパァン!

ものすごい勢いのストレートがキャッチャーグローブに収められる。


「ふふ、どうした? ビビってるのか?」


キャッチャーは俺に向かって挑発してくる。


「うぅ……早いですね」


俺も適当に返答を返しておく。


『……神楽耶。どうだ、いけそうか?』

『はい! 問題ないと思います!』

『よし、俺もタイミングを合わせてみるよ!』


俺は再び投手に視線を向ける。

すると、再び相手は振りかぶって球を投げてくる。


――シュッ!

投手が投げた球は、ものすごい速さでキャッチャーグローブに向かってくる。

すると先程とは違い、俺の体はバットを振りかぶって球の方へ振りかざしていく。


『……ここだ!』


俺はバットが球に当たる瞬間、思いっきり手に力をこめる。

すると、想定通りバットの勢いは増し、すさまじい速さのスイングが球に激突する。


――カキーンッ!

バットと球は勢いよくぶつかり合い、気持ちの良い音を鳴らして球は校庭を遥かに超えて校舎の敷地内へと飛んでいった。


『痛でぇ!』


俺はそれどころではなく、右手からの痛みにその場で(もだ)えていた。


『うぅ……バッド越しでも、ものすごい衝撃なんだな……痛てて……右手の痛覚を切っておくべきだったな』

『だ、大丈夫ですか和樹君?』

『なんとか……でも、やったな! 思った通り、威力が増したみたいだ』

『そうですね!』


すると、控えベンチから恵の声が聞こえてくる。


「和樹くーん! 走らなきゃダメよー!!」


恵に言われて俺は思い出したかのように右手を庇いながら1塁、2塁と回ってホームベースへと戻ってくる。


「……ふぅ」


俺が一呼吸おいていると、控えベンチから部員の皆とキャプテンと合同チームの代表が走ってくる。


「兄さん! 凄かったです!!」


愛花は興奮気味に賞賛(しょうさん)してくる。


「……まさか、本当に打っちまうなんてな」

「山守さん! すごかったです。あのエースから打ち取るなんて!!」


キャプテンと合同チームの代表も俺を賞賛してくる。

すると、相手の投手も俺に駆け寄ってきた。


「お前、今噂になってる、2年の山守だよな? 俺の球を打ち返すなんて……やるなお前」


そして、会長も俺に向かって声をかけてくる。


「山守さん……まさか本当に打つなんて……でも、結果的にいい方向へ進んだようです」


会長は俺にそう呟くと、野球部キャプテンに向かって話始める。


「田崎さん、約束通りお話を聞いてもらえるでしょうか?」

「あぁ、約束だからな、聞こうじゃないか。おい、皆に集まる様に伝えてくれ!」

「わかりました!」


すると、キャプテンは爽やかな笑顔を浮かべて合同チームの代表に指示を出していた。

俺達は控えベンチに移動して、野球部員が集まるのを待つことにした。


「……集まりましたね。それでは、今日野球部にお邪魔させて頂いた経緯をご説明致します」


野球部員が集まったのを確認した会長は、今までの経緯と何故部活動に顔を出しているのかを説明を行っていく。


「――という事で、皆さんがお聞きになっていた山守さんの噂は全て嘘で、現PTAの会長が後ろで糸を引いているんです」

「……なるほどな、俺も問題を起こした生徒がいるとは聞いていたが、嘘っぱちだったって事か」

「すみません……先ほどは失礼な物言いをしてしまって……」


合同チームの代表の方も俺に謝罪をしてくる。


「い、いえ。誤解が解けたようで何よりです!」


両手を左右に振りながら俺は謙遜(けんそん)をする。

野球部での汚名返上ができたようで俺は安心していると、キャプテンが元気よく話だす。


「よし、それじゃお前達! 練習のお手伝いもしてくれるんだろ? さっそく、お願いできるか?」


野球部キャプテンは屈託のない笑みを浮かべて俺達に尋ねてきた。

「面白かった!  続きが見たい!」

と思っていただけましたら小説投稿のモチベーションになりますので、

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