■83 部活参観
「……え?」
高橋先生は芳樹おじさんの質問に一瞬ポカン、とした顔をする。
……が、すぐに我に返って返答をしてくる。
「……あ、はい! 全然構いませんよ! 是非ご見学くださいませ」
「ありがとうございます。それでは少し見学させて頂こうと思います」
芳樹おじさんは俺に視線を向ける。
「それじゃ、和樹君の作った部活ってものを見学させて貰おうかな」
「……わ、わかりました! ……なんか、少し照れますね」
俺は頬をポリポリとかきながら、高橋先生に視線を向ける。
「高橋先生、部員の皆にも今回の3者面談で決まった事を共有しておきます。それで、何か俺達でも出来る事がないか一度話してみますね」
「えぇ、お願いね。和樹君」
「……あの、ずっと気になっていたんですが……なんか、高橋先生から和樹君って言われるの少し新鮮ですね」
「あら……ふふ、まぁ今回は親御さんもいたからね。……よかったらこれからも同じように呼んであげましょうか?」
「……以前みたいに苗字で呼んでもらってもいいですが、愛花もいるので名前で呼んで貰えたら嬉しいです」
「わかったわ。それならこれからは名前で呼ばせてもらうわね、和樹君」
「はい! それじゃ、PTAの臨時集会の準備、お願いします!」
「えぇ、まかせて頂戴!」
俺は芳樹おじさんに視線を戻す。
「お待たせしました! それじゃ、部室にいきましょう!」
「うん! ……案内してくれるかな、和樹君」
それから俺は芳樹おじさんを部室へと案内した。
3階に上がり、部室の前に到着する。
「ここが俺達が活動している学園生活奉仕部の部室になります!」
俺は部室の入り口を両手で指し示すながら芳樹おじさんに伝える。
「なるほど……しっかりとした部室も用意してもらっているんだね」
芳樹おじさんはそう言いながら、部室の中を覗き込む。
すると――
「……えっ! 芳樹おじさん!?」
部室の中から愛花の声が聞こえてくる。
愛花はすぐに部室の入り口まで駆けてくる。
「やぁ、愛花ちゃん。3者面談のついてに部活動の見学をさせて貰おうかと思ってね」
「えぇ! そうなんですね! 嬉しいです!! さ、こちらに来てください!」
テンションが一気にあがる愛花は芳樹おじさんの手を引いてソファーの方へと向かっていく。
俺も部室に入ると、室内には既に皆が到着しており、会長もソファーに座って皆と何かを話していたようだ。
「山守さん、3者面談お疲れ様でした」
「会長! すみません。バタバタしちゃってて」
「いえ、構いませんよ」
そう会長は言い、愛花の方を向いて微笑む。
愛花は芳樹おじさんの手を引いて、ソファーまで誘導する。
「さ、座ってください!」
「はは、ありがとう愛花ちゃん」
芳樹おじさんは愛花に言われるがままソファーに座り込む。
そして、近くに座っていた梓ちゃん達に視線を向ける。
「確か、小泉梓ちゃんに橘アリサちゃんだよね。いつも愛花と仲良くしてくれてありがとう」
「……あ、はい! ……私こそ、いつも愛花ちゃんには仲良くさせてもらっています」
「こんばんは! 私も楽しから愛花とはいっつも一緒にいます!」
「はは、ありがとう2人とも。……えっと、君は初めましてかな?」
芳樹おじさんは神崎さんの方を見て話しかける。
「……あ、はい! 愛花と同じクラスの神崎麗子と申します! 愛花には皆さんと知り合うキッカケを頂き、とても感謝してもしきれないぐらいです!」
「これはこれは……。初めまして、私は山守芳樹って言うんだ。これからも愛花と仲良くしてくれると嬉しいよ」
芳樹おじさんは神崎さんに仏のような笑顔を向けると、神崎さんはほわ~んとした表情になっていた。
俺は1年生組と芳樹おじさんの絡みを横目にソファーに座り込む。
「……ふぅ」
すると、樹が話しかけてくる。
「和樹、まさか親を部室に連れて来るなんて驚きだぞ」
「……あぁ、実は少し恥ずかしい」
「ふふ……でも、すごく優しそうな人なのね」
「それはもう……仏様みたいな人だぞ?」
「なによそれ、大袈裟ね」
俺達が話していると、会長が小さく咳払いをする。
「……あ、すみません! ……そういえば会長、俺が来るまで皆と何を話していたんですか?」
「はい、山守さんの事についていろいろお話を伺っていました。皆さんのお話を伺っているだけで山守さんの人柄が伝わってきましたよ」
会長は微笑みながら話す。
そんな会長を横目に、俺は樹達に視線を向けて問いただす。
「……おい、俺が来るまでに何を話していたんだよ」
「ふふ、それは秘密さ」
「そうね。和樹君には内緒にしておくわ」
俺は釈然としない気持ちになったが、諦めて会長に視線を戻す。
「まぁ、いいか。……会長、一応先ほど行ってきた3者面談で話した内容を共有しておきます」
「えぇ、お願い致します」
それから俺は先ほど高橋先生と話した内容を皆へ伝える。
「――それで、今高橋先生はPTAの臨時集会を開く為に準備をしてもらっているって感じです」
会長は顎に親指を添えて考え込む。
「……なるほど。そういった手もありますね。……素晴らしいアイデアだと思います」
会長は芳樹おじさんに視線を向けると賞賛する。
「まだ立候補するだけで、会長の座を変わってくれるかどうかはわからないけどね。……でも、和樹君から話を聞く限り、このまま野放しにはできないよ」
「それなら……その成功確率を出来る限り上げる為に私達は出来る事を行っていく必要がありそうですね」
「できる事……ですか?」
俺は会長に疑問をぶつける。
「えぇ、これをみてください」
すると、会長はポケットから折りたたんだA4用紙を取り出し、テーブルの上に広げる。
「中心にいるのが昨日山守さんが手を下し、顎に怪我を負った武島鉄也さんです。そして、周りに広がる方達が各クラスでの友好関係を示した図となります」
A4用紙には、武島鉄也を中心に複数の枝が伸び、関連がある人物をリストアップしているもので、各生徒にはバストアップの写真とクラス、名前が記載されていた。
その中には、リサや学食で俺に難癖をつけてきた男子生徒も含まれていた。
「会長……これってまさか」
「はい、武島さんの親御さん。つまり、現PTA会長が手を回すことが出来る生徒の一覧となります。断定することはできませんが、おそらく噂の発生源となっている可能性は高いでしょう。生徒会としても、以前から素行の悪い生徒はリスト化していましたから、すぐに調べる事ができました」
「……すごいな」
俺はボソッと呟くと、樹が勢いよく話始める。
「なら、この生徒達を一網打尽にすればいいではないか!」
「……いや樹、力で対抗したらまた学食で起きた喧嘩に発展する可能性が高い。……相手の思うつぼだ」
「えぇ、山守さんのおっしゃる通りです。……なので、私達は別の方法でこの方たちに対抗する必要があります」
「それなら……体育館に生徒を集めて会長がPTA会長の悪事を暴露すればいいのではないか?」
樹は負けじと対策法を提案してくる。
「出来ると思いますが、あまり効果は望めないでしょう……。人は自分と関係のない事をあまり聞こうとしません。私が全校生徒の前で話したとしても、話は半分も伝わらないでしょう」
「……なら、どうすればいいのよ!」
痺れを切らした恵が会長に問いかける。
「ふふ、それは簡単です。それは、部活動……ですよ」
「部活動……って言っても。それってどういう事だ?」
俺はいまいち理解できず、会長に質問を投げかける
すると、会長はA4用紙を指さして話始める。
「……調べた結果、ここにリスト化された生徒は皆、帰宅部です。……誰1人、部活動に所属していないんです」
「……それって……つまり!」
「はい、部活動をしている方たちを味方に付けるんです」
「なるほど……っ! 確かに!」
「えぇ、部活動の手助けを山守さんがする事で山守さんの人柄を部員の方たちに知って貰い、今広まっている悪い噂の誤解を解く事ができます」
そして、会長は皆を見回しながら話を続ける。
「……更に、人は親切を受けると相手の話を聞いてくれるものです。その原理を活用させてPTA会長の悪事も広めていきましょう!」
俺は会長の話を聞きながら、全身がビリビリと痺れる感覚に襲われる。
……改めて、会長が力を貸してくれる心強さを全身で感じていた。
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