■82 3者面談
芳樹おじさんは俺の呼びかけに気付いて振り返ってくる。
「あ、和樹君! ……そんな、走ってこなくてもいいのに」
芳樹おじさんは苦笑しながら答えてくる。
「いえ、今回は仕事で忙しいのに迷惑をかけているので……今日は俺のせいで呼び出すような事になってごめんなさい!」
「気にしなくていいよ和樹君。いい機会だったし、私も和樹君が通う学校の状況をしっかり把握しておきたかったんだ」
芳樹おじさんは仏のような笑顔を俺に向けて答える。
「ありがとうございます! さ、先生が待っています。付いてきてください!」
それから俺は芳樹おじさんを高橋先生が待っている生徒指導室へと誘導した。
「えっと……確か、ここですね」
俺は自分の記憶を頼りにしつつ扉をノックする。
「どうぞー」
すると、中から高橋先生の声が聞こえてきたので、俺は扉を開けて芳樹おじさんと一緒に中へと入る。
「失礼します」
俺はそう言いながら中に入ると、高橋先生が立ち上がる。
「初めまして、私は山守和樹君の担任をしている高橋香苗と申します。本日はお忙しい中、お越しくださりありがとうございます」
高橋先生は芳樹おじさんに向かって、深いお辞儀をする。
「これはご丁寧に、こちらこそ和樹君の保護者をしております山守芳樹と申します。本日はよろしくお願い致します」
お互いに挨拶を交わした後、用意していた椅子に高橋先生が手を添える。
「どうぞ、お座りください」
俺と芳樹おじさんは言われるがまま用意されていた椅子に座る。
高橋先生も席に座り、ファイルを取り出すと俺達に視線を向ける。
「まず、今回お呼びさせて頂いた理由について改めてご説明させて頂きます」
「……はい、お願い致します」
芳樹おじさんは短く答える。
それから高橋先生は昨日の問題が起きるまでのことを芳樹おじさんに共有していく。
「――そして昨日、その鬼島リサと3年の男子生徒3人が園田瞳さんを人質に取り、豊崎恵さんを体育倉庫に呼び出し性的暴行を企てた事が今回の問題点となります」
「……はい」
「豊崎恵さんに対しての性的暴行は和樹君の活躍によって防ぐことができたのですが、その際に相手の男子生徒の1人、武島鉄也君の顎に怪我を負わせた事がキッカケとなり、今回……学校側に抗議が入っている、という状況となります」
「……そうでしたか」
芳樹おじさんは短く返答していく。
「はい。初めは犯行を行った鬼島リサと男子生徒3人の計4名を停学処分を行う予定だったのですが、武島鉄也君の親御さんはこの学校のPTA会長でして、学校側も……その、あまり抗議に対して異議を出せない状態となっておりまして……既に、男子生徒達の停学処分も免除しようという話になっております」
「……そのPTAの会長にそこまでの発言力がある理由としては、いままで資金援助を受けているから、でしょうか?」
俺からNINEで事情を予め知っている芳樹おじさんは、高橋先生に鋭い質問を突きつける。
「……そうなりますね。私も今回の抗議に対して正直、納得していません。明らかに悪いのは相手側です。……ですが、学校側は3年生という大切な時期に停学処分をするのも今後に関わってくると最もらしい理由を付けて、抗議を受け入れようとしているんです」
高橋先生は歯を食いしばりながら思いを吐き出し、拳を強く握りしめる。
そして、俺に視線を向けてくる。
「……さらに相手は、和樹君に対しても校内に悪い噂を流しているんです」
「……悪い噂……それは一体?」
俺は心配をかけまいと、その事に対して伝えていなかったので芳樹おじさんは少し動揺する。
「……まるで和樹君が一方的に3年の男子生徒に怪我を負わせたと校内に広まっているんです。さらに尾ひれがつき和樹君が問題児だという事が校内に広がっている状態なんです。噂の出所はおそらく……PTA会長の関係者だと私は推測しています」
「……なるほど、抗議だけじゃ飽き足らず……和樹君にも対しても手を出してきている、という事ですか」
芳樹おじさんは若干声に怒りを滲ませながら呟く。
「はい。その影響で一部の生徒が和樹君に喧嘩を仕掛けてくる事もあったようで……私も、非常に不快な気持ちでいっぱいです」
「……そうでしたか。……でも、高橋先生がいい先生で安心しました」
「いえ! ……私は何も」
高橋先生は両手を左右に振りながら少し照れながら答える。
そして、芳樹おじさんは俺の頭に手を乗せて優しく撫でてくる。
「……芳樹おじさん?」
俺は芳樹おじさんに視線を向けると、仏のような笑顔を俺に向けてくる。
そして――
「……よく頑張ったね、和樹君」
芳樹おじさんの優しい言葉を聞くと途端に視界がにじみ、ヤバいと思った俺はすぐに俯き自分の太ももを見つめる。
……今前を向いたら涙がこぼれ落ちてしまいそうで、俺は芳樹おじさんを心配させまいとグッと堪える。
「……高橋先生、私は和樹君のしたことは何一つ間違っていないと断言します。それも踏まえて聞きたい事があります」
「……はい、なんでしょう?」
「――私がPTAの会長に立候補することは出来るでしょうか?」
芳樹おじさんは俺の頭から手を放すと、高橋先生に意外な質問をする。
「えっ! ……それは臨時集会を開けば可能ですが、早くても2週間ほどはかかります。でも、何故……?」
「……こんなふざけた事をしてくる方はPTA会長の座を辞めて頂き、学校から退場してもらうんです」
俺はなんとか涙を引っ込め終えたので、顔を起こして芳樹おじさんに問いかける。
「芳樹おじさん! PTAの会長ってなるって言っても……仕事とかあるんじゃ?」
「なに、和樹君は全く気にしなくていいよ、仕事の量は調整できるからね。それより、こんな環境に和樹君を通わせる方が心配だからね。私が把握できるようにしておきたいと思ったのさ」
「……芳樹おじさんっ!」
芳樹おじさんは笑顔で俺に答えてくれた。
「……分かりました! 私もあなたがPTAの会長になってくれるのは賛成です。すぐに他のPTA役員の方に臨時集会の通知手続きをすぐにさせて頂きますね」
「お願いできますか、高橋先生?」
「はい。早くても1週間、長くても2週間を目途に開催できるように準備を行っておきます。進捗がありましたらご連絡させて頂きますので、連絡先を教えて頂けますか?」
「わかりました」
それから高橋先生と芳樹おじさんは連絡先を交換する。
「それじゃ、後は私が動くから今日の3者面談はこれぐらいにしておきましょうか」
「はい!」
「……和樹君、この後は部室かしら?」
「そうですね、向かおうと思います」
「そう、私は臨時集会の手続きがあるからいけないけど、帰る時は鍵を返しに来なさいよ」
「わかりました!」
すると、芳樹おじさんが高橋先生に尋ねる。
「あの……高橋先生。部活の見学って……しても問題ないでしょうか?」
「面白かった! 続きが見たい!」
と思っていただけましたら小説投稿のモチベーションになりますので、
★評価とブックマーク登録をよろしくお願い致します。













