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■81 家族の温もり

俺は急いで昇降口に向かいながら、ふと芳樹おじさんに迷惑をかけるのはいつぶりなのかを思い出していた。


「……もう、そんな昔になるのか」


そうだ、初めて芳樹おじさんと会った時以来だ。

確か、あの時は――




俺が田舎で神楽耶とお別れをしてからしばらくたった後、田舎のおじいちゃんが病気で急死した。

それにより、俺と愛花は一度都心(としん)にある親戚の家に連れ戻される事になったんだ。


「……っ!」

「……お兄ちゃん……」


俺は大人が大勢(おおぜい)いる場に連れ出され、愛花を後ろで守りつつ親戚の大人たちを睨んでいた。


「……おい、次は誰が引き取るんだよ?」

「私は嫌よ。両親の事故死に病気での他界……まるで呪われているみたいじゃない。あなたが引き取りなさいよ」

「俺も嫌だよ! こんな疫病神、引き取って死んだらたまったもんじゃない」


そこでは、次に誰が俺達を引き取るかを話し合っていた。

俺達に向けられた親戚たちのあの視線を……今でも覚えている。


「……うぅ、お兄ちゃんっ!」


愛花は怯えながら俺の服を力強く掴んでくる。

俺も子供ながら意味はよく分からなかったが、あまり良いように言われていない事は理解できていた。

そんな時――


「ふざけないでください!」


奥で座っていた芳樹おじさんは勢いよく立ち上がり、親戚一同を怒鳴(どな)りつける。


「なによ、芳樹。もう勘当(かんどう)しているお前には来て欲しくはなかったが、どうしてもと言うから呼んだのに……なんだ、その口の利き方は!」

「さっきから話を聞いていれば疫病神? 呪われている? ……何故そうだと決めつけるんですか!」


芳樹おじさんは俺達に近づきながら親戚一同に叱咤(しった)する。


「芳樹、そうはいっても立て続けに起きている事なんだぞ?」

「そんなのただ不運だっただけの話で――」


芳樹おじさんは俺達と親戚との間に立ち、俺達を庇うように親戚たちを睨む。


「――子供に罪はないだろう!」


その時、どす黒い空間に光が差し込んだように感じた。


「そこまで言うなら芳樹、お前が子供たちを引き取るのかい?」

「言われずともそうするつもりです」

「そうかい。私達はせいぜいするよ。……ついでさ、あの家も使うと良いわ。呪われている家なんて誰も住みたくないからね」


それから俺達は芳樹おじさんに引き取られる事になり、芳樹おじさんの車に乗って懐かしい家へと向かった。




俺は芳樹おじさんの事をあまり知らず、初めはこの人も俺達をすぐに見捨てるものだと思っていた。

車で懐かしい家に到着した後、車から降りて芳樹おじさんと話す。


「和樹君、私は山守芳樹(やまもりよしき)っていうんだ。芳樹おじさんって呼んでくれるかな?」


俺はどう接していいのか分からず、そっけない態度を取ってしまう。


「……嫌だよ、どうせお前もすぐに僕達から離れていくんだ! ……愛花、向こうにいこうぜ」

「ま、待ってよ、お兄ちゃん!」

「あ! 2人とも、待ってくれ!」


俺は愛花の手を掴んで芳樹おじさんから走って逃げ出した。


「はぁ……はぁ……愛花、転ぶなよ!」

「はぁ……はぁ……うん……お兄ちゃん!」


俺達はしばらく走り続けると、疲れて歩き始める。


――ポツン!

すると、雨が降り始めて瞬く間に勢いは激しくなっていく。


「うわわ!! 愛花、走れ!」

「うわ~ん、濡れちゃう!」


行く(あて)のない道を走り続けていると、広めの公園が視界に入る。


「……公園だ!」


ずぶ濡れになりながらも、俺達は公園の中央にあったタコ型の滑り台の下にある空洞(くうどう)に入り込む。


「うぅ……びっしょりだ」


俺は濡れた体を見回していると、愛花がその場に座り込む。


「お兄ちゃん……何か熱いよ」

「愛花?」


俺は愛花の(そば)近寄(ちかよ)ってしゃがむと愛花の(ひたい)を触る。


「うわっ! 愛花、すごく熱いぞ!」

「うぅ……おにい……ちゃん」


うなだれる愛花を見ながら、俺は後悔の念に(さいな)まれる。

……俺が逃げたせいで愛花をこんな目にあわせてしまったからだ。


「どうしよう……どうすればっ!」


手ぶらで逃げてきた手前何も持っておらず、周りは大雨で動くことすら難しい。

どうしていいか分からなくなった俺は目から涙がこぼれ始めていく。


「うぅ……お父さん……お母さん……うわぁぁぁぁぁぁぁん」


俺も両親がフラッシュバックしてきて、その場で思いっきり泣きだしてしまう。

しばらくその場で泣き続けていると誰かの走る音が雨音に混じって聞こえてくる。


「和樹君!!」

「……えっ」


俺は聞き覚えのある声の方を向くと、息をあげた芳樹おじさんが傘をさして俺達がいる空洞(くうどう)を覗き込んでいた。


「はぁ……はぁ……よかった、見つかったよ」


肩で息をする芳樹おじさんは傘をさしていたが、下半身はずぶ濡れで走りながら探し回っていた事が分かった。

俺は涙拭った後、すがる様に芳樹おじさんの服を掴んで懇願(こんがん)する。


「……芳樹おじさん! お願い、愛花を助けて……すごい熱で――」


――ギュッ!

すると、芳樹おじさんは力強く俺を抱きしめる。


「……当り前じゃないか! ……いままで、寂しい思いをさせてごめんね……和樹君っ!」


抱きしめられた俺は、自然と目から涙がこぼれ落ちていく。

……それはまるで、凍っていた心が芳樹おじさんの温もりで溶けていくようだった。




それからは芳樹おじさんが愛花をおんぶしながら、俺の手を引いて家へと一緒に歩いて帰っていく。

家に到着すると、家の中は両親が亡くなった時のままにされていた。


「さ、体をこれで()こうか」

「うん」


リビングに移動した俺達はずぶ濡れの体をバスタオルで()いて、芳樹おじさんはすぐに別の服に着替えさせてくれる。

ソファーに寝かせた愛花にブランケットをかけた後、温度計で愛花の温度を測定すると38.5度まで上がっていた。


「ちょっと高いね。……和樹君、おじさんこれから愛花ちゃんの薬や料理の具材を買ってくるから、愛花ちゃんの事見ててもらえるかな?」

「わかった!!」


俺は力強く答えると、芳樹おじさんが帰ってくるまで愛花の(そば)から離れずにいた。

愛花の手を握っていると、微かに握り返してくるのが分かった。


「あ、愛花!」

「……ん……お兄ちゃん? ……ここは?」

「ここは家だぞ! ……大丈夫か?」

「……うぅん、まだちょっとぼ~っとする。……でも、懐かしい場所だね」

「うん! 今日からまたここで生活するんだって! 今、芳樹おじさんが愛花の薬や料理の具材を買ってきてくれているからもう少し安静(あんせい)にしててね」

「……うん! ……お兄ちゃん……何か嬉しそうだね!」


愛花は体調が悪いながらも、俺の方を向いて笑いかけてくる。


「……そうかな。でも……芳樹おじさんなら信じてもいいって思えたんだ」

「……お兄ちゃんが信じるなら、私も信じたい」

「うん! 一緒に信じよう!」


俺は愛花と小さな約束を交わした。




しばらくたった後、芳樹おじさんは家に帰ってくる。


「お待たせ和樹君!」

「お帰りなさい!」

「……あ、愛花ちゃん、起きたんだね。すぐ何か作るから待っててね」

「……ありがとうございます、芳樹おじさん!」


愛花がお礼を言うと、芳樹おじさんは非常に嬉しそうな顔をして台所へと消えていく。

それから程なくしておかゆが出来上がり、芳樹おじさんはおかゆの入ったお(わん)を愛花の(そば)に持ってくる。


「……ほら、熱いから冷ましてあげるね」


芳樹おじさんは、お(わん)からレンゲですくったおかゆをフーフーして冷ます。


「ほら、あ~んして」

「……あ~ん」


愛花は精一杯口を開けておかゆを食べていく。

……だが、見るからに美味しくなさそうな顔をしている愛花。


「芳樹おじさん! 僕も食べてみたい!」

「……そ、そうかい? それじゃ用意するから待っててね」


それから芳樹おじさんは、台所から小さなお(わん)におかゆを入れて持ってくる。


「はい、和樹君」


俺はお(わん)とスプーンを受け取り、スプーンでおかゆをすくいフーフーしてから口に運ぶ。


「……うぅ……あまり美味しくなぁい」


予想通りの出来栄(できば)えに、俺はつい声に出してしまう。

すると、芳樹おじさんは頭をかきながら苦笑いする。


「あはは……やっぱりか。……ごめんね。あまり料理、得意じゃなくて……」

「……ご、ごめんなさい。せっかく作ってくれたのに」


俺はすぐに謝罪をすると、愛花が話始める。


「……でも、私の為に作ってくれたおかゆなので……全部食べたいです」

「愛花ちゃん……っ!」


芳樹おじさんは目を潤ませながら答える。

それから愛花はお(わん)にあるおかゆを全部食べ終わる。


「ご馳走様でした。芳樹おじさん!」

「……本当に全部食べてくれるなんて……おじさん嬉しいよ!」

「いえ……でも私、料理覚えてみようと思います」

「……えっ! そんな……いいよ。私がもっと練習すれば……」

「違うんです。……私が作ってみたくなったんです。芳樹おじさんが一生懸命作ってくれる料理がこんなに暖かいなんて思わなくて、私もそんな料理を作ってみたいなって……」

「……そっか。うん……わかったよ、愛花ちゃん」


それから体調を回復させた愛花は料理を作り始め、徐々に上達していき超絶美味い料理を量産していくようになる。

そんな愛花の料理に俺と芳樹おじさんは徐々に(とりこ)になっていくのだった。




――俺は芳樹おじさんと出会った時の事を思い出しながら呟く。


「……8年ぐらい前か、あっという間だったな」


俺はそう呟きながら昇降口へと到着すると、靴を履き替えて校門へと向かう。

校門には見慣れた背中姿があった。


「芳樹おじさ~ん!」


俺は大好きなその人の背中に向かって大声で呼びかけた。

「面白かった!  続きが見たい!」

と思っていただけましたら小説投稿のモチベーションになりますので、

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