■78 学食の乱
3年男子を殴り飛ばした樹はすぐさま地面に転がる弁当箱に駆け寄る。
「……これはひどい」
樹はそう言いながら弁当箱と弁当の蓋を拾いあげる。
シーンと静まり返る中、俺は痛む右手を庇いながら立ち上がった。
「和樹、まだ半分ぐらいは地面に落ちずに残っていたぞ」
俺に近づいて来ていた樹は、そう言いながら俺に弁当箱を渡す。
「あ、あぁ……ありが――」
俺は弁当箱を受け取ってお礼を言おうとした、その瞬間――
「このクソガキが!!!」
もう片方の3年男子が思いっきり樹の後頭部を後ろから殴りかかろうとしていた。
「樹!」
――ドンッ!
俺はすぐさま樹を左にずらして避けさせる。
「――うわっ! な、なんだ和樹!」
すると、当然ながら3年男子の拳は俺に向かってくる。
「兄さん、危ない!」
「……っ!」
『和樹君! お邪魔します!』
――シュッ!
神楽耶が入ってくると、相手の拳を数ミリレベルの差で避ける。
そして、すぐさま後ろに飛んで相手と距離を取る。
『あっぶねぇ……いつもすまんな神楽耶』
『いえ……でも、この状況……どうしましょう』
樹も殴りかかってきた相手の存在に気付き、俺の方へ近づいて相手と距離を取っていた。
『……神楽耶、今はこの手を使う事はできない……その代わりに、足を使う事ってできないか?』
『足……ですか? はい、手と同じ要領で動かす事はできますが』
『よし……それじゃ全力で頼めるか』
『分かりました!』
俺は3年男子と対峙しながら樹に視線を向ける。
「樹……」
樹も俺の視線に気づくとニカっと笑う。
「はは、すまなかったな。体が勝手に動いたのだ」
「いや、スカッとしたよ。……ありがとう、樹」
俺は樹に向かって感謝を伝える。
すると、樹が殴り飛ばした相手が顔に手を置きながら起き上がる。
「痛つつ……くそ、痛てぇ」
「……おい、大丈夫か?」
「あぁ、あのやろう……ぶっ飛ばしてやる!!」
男は顔から手を外し、俺達を睨みつけてくる。
「……被害者面してるが、やってきたのはお前達だからな、後悔するなよ」
俺も負けじと睨み返す。
「愛花! ! これを持って下がっていてくれ」
俺は振り返って愛花に弁当を突き出すと、愛花は近づいてくる。
「わ、わかりました! ……き、気を付けてください、兄さん」
俺から弁当を受け取った愛花は俺達から距離を取る。
愛花に心配をさせている事に心臓が鷲掴みされているような苦しい気持ちになってしまう。
「……っ!」
歯を食いしばって耐えた後、俺は前の3年男子に視線を戻す。
「樹……片方、任せても大丈夫か?」
「あぁ、了解した!」
樹と話していると、相手は痺れを切らして殴りかかってくる。
「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇ!!」
『……させません!』
神楽耶は相手の攻撃を避けた後――
――バコンッ!
勢いよく相手の背中に回し蹴りを食らわす。
「グハッ!!!」
相手は前のめりになり、地面に手を着く。
俺はもう片方に視線を向けると、樹との戦闘が始まっていた。
「……樹っ!」
だが、明らかに押されている。
……当然だ、樹は俺と違って神楽耶がいない。
「……っ! ……痛ってぇな!!!」
樹に気を取られていると、俺が回し蹴りを食らわした相手も起き上がって俺に反撃をしてくる。
だが、神楽耶は呼吸をするように避けて、すぐさま相手の腰にタイキックを入れる。
「グフッ!」
相手はよろけて隙ができる。
『……終わりです』
すると、神楽耶はその隙を突いて相手のこめかみに向かって続けざまにハイキックを入れる。
――ドサッ!
すると、相手は地面に倒れ込み意識を失った。
「……ふぅ」
倒した相手を見下ろしながら俺は息を落ち着かせる。
『……神楽耶、足って結構使えるもんだな』
『ですね! 私もそう思いました』
『……うん、特に足の痛みはない……か』
『それは良かったです! 私も和樹君の反動を気にせずに済んだので動かしやすかったです!』
『……足ってすごいんだな』
俺は神楽耶と戦果報告をしていると、恵は樹に向かって叫ぶ。
「……斎藤君!」
俺もすかさず樹の方に視線を向ける。
「……は、雑魚が!」
「……グッ」
そこには、倒れている樹の頭を踏みつける3年男子がいた。
「……樹!」
すると、樹の頭を踏みつける相手に笑いながら3年男子の2人が近づいて来る。
「面白そうな事してんじゃねぇか。俺達も混ぜろよ」
「あぁ、良いぜ。丁度1人潰したところだ」
そう言いながら、樹の顔面を蹴り飛ばす。
「樹!!!!」
顔面に蹴りを食らった樹はグッタリとして意識を失う。
「……嫌だねぇ、問題児と一緒にいるからこうなるんだよ」
「樹から離れろぉぉ!!」
俺は感情に任せて痛む右手で殴りかかる。
「おっと、……怖い怖い」
すると、3年男子は樹から離れて俺と距離を取る。
「……樹!」
俺は樹を抱き上げると、眼鏡は割れていて目を瞑ったまま意識を失っている。
「恵!!」
俺は恵に視線を送ると、すぐさま駆けつけてくる。
「……樹を頼む」
「……えぇ、わかったわ」
俺は静かに立ち上がり、血管がブチぎれそうになるのを我慢しつつ3人に視線を向ける。
「……よくも、やってくれたな」
樹の頭を蹴り飛ばした相手は笑いながら話し出す。
「はは!! 無様だったぜ? 弱いくせに俺も殴りかかってきてよ。馬鹿にも程があるぜ!」
――プツンッ
俺の為に動いてくれた樹が侮辱され、俺はとうとう血管がブチギれる。
『……いくぞ、神楽耶』
『はい、和樹君!』
すると、相手は勢いよく殴りかかってくる。
「……すぐにお前も同じようにしてやるぜ!!」
俺は相手から視線を逸らさずに見据える。
そして、神楽耶は相手の攻撃を避け、すぐさま相手のこめかみにハイキックをぶつけようとする。
……その瞬間、俺も自身の足に思いっきり力を込めた。
――ズバァンッ!
すると足の勢いが増し、超強力なハイキックが相手のこめかみにクリーンヒットする。
「ガ……ハッ……」
――ドサッ
殴りかかってきた相手は、俺の一発でその場に沈む。
「……な、なんだよ、こいつ」
残っている3年男子達は後ずさりしながら俺に向かって呟いてくる。
俺は無視して倒れた相手を見下ろした。
「……樹、敵は打ったぞ」
すると、学食の入り口から女性の声が響き渡る――
「そこまでです!!」
――学食の入り口には、生徒会長の九条先輩と国枝さんが立っていた。
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