■77 無言の圧力
俺は教室に戻った後、席に戻ると樹達が集まってくる。
「和樹、何か言われたのか?」
「あぁ、どうやらこの騒動は昨日俺が顎に怪我を負わせた3年の親御さんが関係しているみたいだ」
「……なによそれ、そんなの逆恨みじゃない!! ……悪いのはあいつらなのにっ!」
力強く拳を握りしめながら恵は吐き出す。
恵がまるで自分の事のように怒ってくれて、俺は冷静さを保つことが出来ていた。
「さっきクラスの皆に確認して分かった事だけど、事実とは違う……まるで、俺が一方的に怪我を負わせたような噂を流しているのは、恐らくその関係者だと高橋先生も話していたんだ」
「……つまり、都合の悪い事実を隠ぺいしているって事か」
樹は腕を組みながら問いかける。
「そうなるな。でも、相手に怪我をさせたのは事実だし、高橋先生から三者面談をするって話になったから今からちょっと親に連絡しておこうと思う」
「……わかったわ。また後でね」
「了解した。それじゃ私も席に戻ろう」
「あぁ」
俺は2人からスマホに視線を移し、芳樹おじさんにNINEで事情を説明することにした。
右手は使えないので、痛みが我慢できる左手を使って三者面談に来てほしい旨を長文で送った。
……すると、すぐに既読が付く。
「……えっ!」
あまりの速さに俺はつい声が漏れてしまう。
そして、すぐさま返答が帰ってくる
――――――――――――――――
『わかったよ和樹君。三者面談だけど、今日の夕方でも大丈夫かな?』
『……え! 仕事とかあるんじゃ……』
『そうだね。でも、仕事より大事な事だと思ったからね。……ダメかな?』
『全然! むしろ、嬉しいです! あ、嬉しいってのは仕事より優先してくれた事に対してで、忙しいのに俺のせいで迷惑をかけてしまった事は申し訳ない気持ちでいっぱいです……』
『はは、気にしなくていいよ。それじゃ夕方に学校に寄らせてもらうね』
『はい! わかりました!』
――――――――――――――――
俺は芳樹おじさんとのやり取りを終え、申し訳ない気持ちの他に、暖かいものが心に広がる。
すると、1限目の教師が教室に入ってきたので、俺は急いでスマホを仕舞い授業を受ける準備を始めた。
1限が終わると、樹達が俺の席に集まる。
「和樹、親に連絡着いたのか?」
「あぁ、今日の放課後には来てくれるらしい」
「おぉ……いつも思うが和樹の親って対応早いよな」
「俺もそう思うよ。……嬉しいけどな。それで、その事を今から高橋先生に伝えに行こうと思う」
「……それなら、私も付き添うわ」
「よし! なら、私も同行しようじゃないか」
「……ありがとう、2人とも」
俺は立ち上がり、職員室に向けて教室を出る。
職員室に向かう道中、すれ違う生徒からは必要以上に視線を向けられる。
「……何見てんのよ!」
恵は見てくる生徒に対して必要以上に突っかかっていく。
こちらを見ていた生徒は、すぐさま逃げていく
「……恵、俺の事はいいから」
「……何よ、これじゃ和樹君が悪いみたいじゃない!」
恵は目を潤ませながら吐き出す。
俺は怒ってくれる恵の肩に手を置く。
「……ありがとう、恵。……俺の為に怒ってくれて」
「……うぅ」
恵は俯きながら体を震わせていた。
そんなやり取りを見ていた樹は、腕を組みながら話し出す。
「……しかし、こう見られてばかりじゃ落ち着いて学校内を移動するのも一苦労だな」
「だな。俺達のクラスみたいに事情を説明できればいいんだけど……」
「そうだな。全校生徒にズバッと言ってくれる人がいればいいのだが……噂はきっかけにしか過ぎない。おそらく、面白半分で和樹の噂を広めているやつもいるんだろう」
「ま、考えてもしょうがないから急いで職員室に向かおう」
「了解した」
「……えぇ」
俺達は話を中断して職員室へと向かった。
職員室に入ると、俺達は高橋先生の机まで急いで向かう。
「高橋先生!」
「あら、あなた達……次の授業がすぐ始まるわよ?」
高橋先生は俺達の登場に少し驚く。
「はい。朝礼の後に伝えられていた三者面談を親に相談したのですが、今日の夕方には学校に来れるそうです」
「え、今日!? 驚くぐらい早いわね。……わかったわ。私も用意しておくから、放課後はこの前教えた生徒指導室に来なさい」
「分かりました」
俺達は要件を伝え終わると、すぐさま職員室を出て教室へと戻っていった。
教室に戻った後、すぐに2限の教師が入ってきたので俺達はすぐに授業の用意を始めた。
3限、4限と終わり、昼休みとなる。
「あ~……気が重い」
俺は鞄からお弁当を机に取り出してうなだれる。
「和樹、お昼は学食か?」
樹達はそんな俺の席に集まってくる。
「あぁ、愛花と約束したからな。行く予定だが……周りの無言の圧力に勝てる気がしない」
「なーに。そんな時は開き直ればいい。気にしないのが一番だ!」
「そうよ!! 何か言ってきたら私がコテンパンに叩きのめすわ!」
「……はは、心強いな」
俺は笑いながら重かった腰が嘘のように軽くなり、すぐさま立ち上がった俺は学食へ向かう事にした。
学食には愛花達が既に待っていた。
「愛花―おまたせー!」
「にいさーん!」
愛花も俺に気付いて手を振り返してくる。
「……愛花、大丈夫だったか?」
「それが……兄さんについてクラスメイトからいろいろ聞かれちゃいました」
「そうそう! みんな勘違いしてたから私たちがぜ~んぶ説明したんだ!」
アリサちゃんは両手を広げて説明してくる。
「……でも、なかなか信じてくれなくて」
そう言いながら悲しそうに俯く梓ちゃん。
「……そっか」
俺達のクラスには近藤さんや園田さんなど当事者がいたからこそ説得力があったものの、そういった人がいない場では納得してくれないのだろう。
「師匠……大丈夫ですか? ……こういった視線には嫌な記憶しかありません」
神崎さんは今の俺が受けているような視線を小学校から中学まで受け続けてきたんだ。
……1日で弱音を吐いてちゃいけないよな。
「心配してくれてありがとう、神崎さん。皆がいるから俺は全然大丈夫だよ!」
俺は出来る限りの笑顔を神崎さんに向けて安心させる。
「……良かったです! 私も微量ながら一緒にいますね!」
「あぁ! それじゃ席もなくなるし、中に入ろう」
学食の中に入り、座れるテーブルを見つける。
「よし、あのテーブルが空いてるからあそこにしよう!」
皆は頷き、テーブルへ移動していると――
――ガッ!
すれ違いざまに2人組の3年男子の1人から足を引っかけられる。
「うわっ!」
『和樹君!』
――バタンッ!
俺はバランスを崩し、前のめりになって地面に倒れる。
その弾みで手に持っていた弁当を地面に落としてしまう。
「兄さん!! 大丈夫ですか?」
「痛つつ……」
愛花は慌てて駆け寄ってくる。
俺は受け身をとった右手の激しい痛みに襲われていた。
『ごめんなさい和樹君! 油断していました!』
『いや……いいよ。それより、弁当が』
俺は落とした弁当に視線を送ると、先ほど俺に足を引っかけた3年男子が風呂敷に入った弁当を拾い上げる。
「おい、問題児が学食で呑気に飯かよ。良い御身分だな」
「……返せよ」
俺は3年男子を睨みながら呟くと、相手は風呂敷を開けてお弁当箱を取り出す。
「はっ、可愛らしい弁当だな。……こんなもん!」
すると、3年男子は俺の弁当を思いっきり地面に叩きつける。
「……なっ!」
地面に叩きつけられたお弁当は蓋が開き、中身が地面に飛び散る。
「はは、お前なんて1人寂しくこれを便所で食ってるのがお似合いだぜ」
「この――」
俺が言い返そうとした、その瞬間――
――ドゴンッ!
後ろから樹が勢いよく走りだし、3年男子の顔面を思いっきり殴り飛ばしていた。
勢いよく後ろに倒れ込んだ3年男子に向かって樹は大声で叫ぶ。
「食べ物を粗末に扱うな!!!! 」
樹は学食に響き渡る声で怒りをあらわにした。
「面白かった! 続きが見たい!」
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