■76 噂話
朝、俺は気持ちよく寝ていると脳裏に声が響き渡る。
『おっはようございま~す! 和樹君、朝ですよ~~!』
元気でハキハキとした神楽耶の声が俺を夢の世界から連れ出す。
次の瞬間、右手の痛みで目を覚ました。
「……痛つつ」
体を起こし自身の右手に視線を向ける。
『……あの~……思念で起こしてみたのですが……いかがでしたか?』
俺は右手から尋ねてくる神楽耶に視線を移す。
『……おはよう神楽耶。うん、結構よかったよ。明日もお願いできるか?』
『はい! それじゃ明日もやってみますね!』
再び右手に視線を落とす。
『……それにしても、体の疲れは解消してるし左手もなんとか動かせるが……う~ん、この右手じゃ寝返りも一苦労だな』
『……早く痛みが消えるといいですね』
『あぁ』
俺はベットから立ち上がり背伸びをする。
時計を見た後、喉の渇きを感じたのでリビングに向かう事にした。
「ふぁ~あぁ……」
部屋から出ると欠伸を漏らす。
『……最近は早めに学校にいってたから、今日はちょっと余裕があるな』
『ですね! 今日はゆっくり過ごしましょう!』
俺は神楽耶と思念でやり取りをしながらリビングへと足を進める。
「おはよう愛花」
「あ、兄さん! おはようございます。……手の方はどうですか?」
「右手がまだちょっとダメそうだな。……ま、すぐに良くなるだろう」
「……そうですか」
不安そうな愛花の顔を横目に俺は冷蔵庫から麦茶をコップに入れて一気に飲む。
「……ふぅ」
「兄さん、朝食すぐに用意するので待っててくださいね」
「あぁ」
それから愛花はすぐに朝食を用意してくれたので、俺は味わいながら一気に腹の中に詰め込んだ。
片づけをしていると立ち上がるが、昨日と同様に手の事を思い出して愛花に片づけを頼むことにした。
「……せめて水に濡れても問題ないぐらいには回復してほしいもんだ」
俺は座りながら片づけをする愛花に向かって呟く。
「あはは、この機会に兄さんは私達にもっと頼ってくださいね」
「あぁ……そうさせて貰うよ」
程なくして片付けも終わり、家を出る時間が近づいていく。
「兄さん、はいこれお弁当です!」
「ありがとう、愛花! ……すっかり弁当を作ってもらうのにも慣れてきたな」
「ふふ、そうですね!」
それから俺達は家を出ると梓ちゃん達と合流して学校へと向かった。
桜並木に入った辺りで、異様に周りから視線を感じるようになる。
「……ん?」
「兄さん。何か周りから見られている気がするのですが……」
「……何でしょうか、和樹さん」
愛花と梓ちゃんも疑問に感じているようだ。
「それじゃ何で見てるのか私、確認してくるねー!」
「え、ちょ!」
俺が制止する前にアリサちゃんはこっちを見ていた女子生徒に確認しにいく。
だが、女子生徒は両手を振りながら急ぎ足で校門へと向かっていった。
「う~ん。な~んにも言ってくれなかったよ」
「……アリサちゃんのその行動力には関心しちゃうよ」
「えっへへ~、そっかな?」
アリサちゃんは屈託のない笑顔を浮かべる。
「ま、考えても仕方ないし、早く学校に向かおう」
俺はアリサちゃんの笑顔を横目に校門へと歩みを再開させた。
校門に到着して昇降口で靴を履き替えると、より一層視線が気になり始める。
「……落ち着かないな。なんだよ一体」
「そうですね。兄さん、気を付けてくださいね」
「……和樹さん、もしかして昨日の事が噂で広がっているんじゃ……」
「そうだとしても、こんなに見られるもんかな?」
すると、アリサちゃんはこちらを見ていた女子生徒達に駆け寄っていく。
「あ!」
今度は静止する暇もなく、駆け出すアリサちゃん。
女子生徒達はアリサちゃんに何かを話すがアリサちゃんが何かを叫ぶと生徒達は離れていった。
「……?」
アリサちゃんは俯きながら戻ってくる。
「……アリサちゃん、どうだった?」
「……何か変な噂が流れてるみたい。愛花のお兄さんが学校で暴れたとか」
「なんだよ……それ」
俺は愛花に視線を移す。
「愛花、何かあったらすぐに教えてくれ。……何か嫌な予感がする」
「わかりました兄さん。何かあったらすぐに連絡します!」
俺は梓ちゃん達にも視線を送る。
「愛花の事、頼むね」
2人も力強く頷くのを確認した後、俺達はお昼休みの学食で落ち合う約束をして別れる。
別れた後、俺は自分の教室へと向かった。
教室に入った後でも俺を見てくる視線はなくならなかった。
「和樹君!」
「和樹!」
恵と樹は俺を見るや否や駆け寄ってくる。
「おはよう2人とも、何かおかしい事になってるな」
「……えぇ、昨日の上級生との喧嘩が良くない方向で噂話になってるみたい」
「あぁ、質の悪い悪戯だな。噂が噂を呼び、根も葉もない事まで和樹がしたことになっているようだ」
「……はぁ」
俺は深いため息をする。
すると、クラスの女子生徒が俺に近寄ってくる。
「ねぇねぇ、昨日学校で暴れたんだって? ガラスを思いっきり割ったりして3年を病院送りにしたって聞いたけど」
「……っ! 和樹君は私を助ける為にしてくれたのよ! いい加減こと言わないで!」
俺は動揺していたが、俺の代わりに恵が弁明をしてくれた。
「……え、でも噂じゃ……」
――ガタッ
すると、リサの机の近くに座っていた近藤さんが立ち上がる。
「……本当よ。私もその場にいたもの」
更に園田さんも立ち上がって声をあげる。
「……私もその場にいました! ……気絶してましたけど」
それから近藤さんや園田さんや恵達は、昨日起きたことをクラスの皆に説明を始める。
――説明し終えると、教室はシーンと静まり返る。
「……え? ……噂と全然違くないか?」
「……むしろ、すごくね? そんな状況で3年に勝つなんて」
クラスの皆は思い思いの事を話始める。
俺は皆の誤解が解けたようで安心した俺は、皆に尋ねる。
「今広がってる噂話って誰から聞いたんだ?」
すると、皆考え込む。
「えっと~……先輩が言ってたかな?」
「私も他のクラスの生徒から聞いたかな」
それからも生徒に話を聞くが、残念ながら噂の出所を掴めづにいた。
――ガラッ
すると、教室に高橋先生が入ってくる。
「――さ、みんなー座りなさい! HR始めるわよ」
高橋先生が入ってくると俺も含めて生徒は自分の席に急いで戻る。
それからいつも通りの朝礼が進み、終わり際に高橋先生から視線を向けられる。
「――山守、この後ちょっとついて来なさい」
「……あ、はい!」
俺はすぐに席を立ちあがり、高橋先生と廊下に出る。
「……それで、高橋先生。何でしょうか?」
高橋先生は振り返って話始める。
「……厄介なことになっているわ山守」
「もしかして、今学校で流れている俺の噂と関係してます?」
「……えぇ、恐らくね」
「それで一体何が起きているんですか?」
「……山守が顎を殴って気絶させた男子生徒、覚えてる?」
おそらく、初めに俺が気絶させた金髪の男子学生のことだろう。
「……はい、覚えてます」
「あの子の顎にひびが入っているらしくてね。運の悪い事にその親がPTAの会長なの」
「……えっ!」
「……学校側に資金援助もしてきている家庭で、今回の件で学校側に抗議が入っているの……いや、厳密にいえば山守に対して……かしら」
「そんな……それじゃこのよくわからない噂も」
「おそらく……関係者が流しているでしょうね。事実を捻じ曲げようとしてるとしか思えないわ」
「……っ!」
「それで、一度山守の親御さんと三者面談をしたいんだけど、都合のいい日はあるかしら」
「……三者面談ですか」
芳樹おじさんに迷惑をかけてしまう事になり、軽く眩暈がする。
「……一度、確認してみます。放課後に都合のいい日を報告しますね」
「えぇ、お願いね。私も出来る限りの対処はするわ。……山守、今は耐える時よ。頑張りなさい!」
「は、はい!」
俯いていると高橋先生から喝を入れて貰った。
「……どうすれば」
予想以上の事態に俺は混乱しつつも呟くのであった。
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