■72 和解とそれから
教室へ到着すると、まずリサ達が登校している事を確認する。
「(よかった、ちゃんといるな。これでリサ達がズル休みしてたら意味ないもんな)」
俺は恵に聞こえるような小声で話しかける。
「(確かに。……あ、瞳ちゃんも来てるわね)」
恵に言われて園田さんも来ている事が分かった。
「(……2人とも、あまりひそひそ話していても怪しまれるだけだぞ。早く席に着こうじゃないか)」
「(だな)」
「(そ、そうね)」
「それじゃまたあとで」
俺は声のボリュームを元に戻して2人に伝えて席に向かう。
席に着くと俺は鞄から教材などを机に仕舞う。
――ガラッ
すると、教室に高橋先生が入ってきた。
「皆さん、おはようございます。楽しい週末は過ごせたかしら」
それからHRはいつも通り始まり、連絡事項なども伝え終わる。
最後に――
「――それから、鬼島リサ、島塚カナミ、近藤ジュリ、ちょっと話があるから付いて来なさい」
――高橋先生はリサ達を名指しで呼び出した。
「……は? なんで付いていかないといけないの?」
当然ながらリサは反発をする。
すると、教室はざわめき始める。
「――その理由も含めて話すから付いて来なさい」
高橋先生は一切動揺せずに冷静に話す。
「……チッ。面倒くさいわね」
リサが立ち上がると、他の取り巻き2人も立ち上がって高橋先生と一緒に教室から出ていく。
「……なんだろうな?」
「わかんない、何かしたんじゃない?」
教室では生徒が思い思いの事を周りと話してざわつく。
俺は園田さんと視線が合い、頷いておいた。
それからすぐに1限の教師が教室に入ってくると、ざわつく教室が一気に静まり返りいつも通りの授業が始まっていく。
1限が終わった後、園田さん達は俺の席に集まってきた。
「……山守君、まだリサ達帰ってこないみたいですね」
園田さんは不安そうな顔で聞いてくる。
「そうだね。俺達も高橋先生からは生活指導室で森田先生が指導するって聞いてるだけで、どんな事をしているかよく知らないんだ」
「……そうなんですね」
すると、不安そうな園田さんの肩に恵が手を置く。
「大丈夫よ、瞳ちゃん。何かあったら私たちが守るから!」
「……どちらにしても私たちは待つことしかできないって事だな。和樹、昼休みに様子を見に行った方が良いのではないか?」
樹が提案してくる。
「……それもそうだな。お昼までにリサ達が帰って来なかったら一旦職員室によって様子をみてくるよ」
「それなら私も一緒に行くわ」
「あぁ、わかった」
恵も同行してくれることが決まる。
「あと、このままじゃ状況が分からないから、今日もお昼は俺達4人で食べるようにしよう」
「そうね。私も瞳ちゃんと一緒にいた方が安心だし」
「……そうですね。よろしくお願いします」
俺は昼飯の事を愛花達にNINEで連絡をしておいた。
それから俺は樹に視線を移す。
「……それで樹、今日は弁当は持ってきたか?」
「ふ、今日は予めコンビニで調達済みさ」
「よし! それじゃお昼まで様子見ってことでよろしく」
皆は頷き、自席へと戻っていく。
それからも2限、3限といつも通り授業は進んでいった。
4限の授業が終わり、とうとうリサ達は教室には戻ってこなかった。
「和樹君、結局リサ達戻って来なかったわね」
「う~ん……。そうだな。指導が続いているのか、終わってサボっているのか全く分からない状態だな。……ちょっと職員室によってみようか」
「そうね。私も気になるし、行きましょう」
「樹。その間、園田さんの護衛を頼む。中庭に先に行っておいてくれ」
「中庭か……り、了解した! それまで園田さんを守っておくぞ!」
「それじゃ恵、職員室に行ってみよう」
「えぇ」
俺達は樹達と別れて職員室へと向かった。
職員室に到着して中に入ると、立ち上がる高橋先生と目が合う。
「お、丁度いいところに」
俺達は小走りで高橋先生の方へ近づく。
「先生、……あのリサの件なんですけど」
「私もその件で山守達に伝えようとしていたのよ」
俺と恵は視線を交わした後、高橋先生に視線を戻す。
「な、何でしょうか」
「森田先生から生活指導室に来てほしいみたいよ。この後すぐに向かいなさい」
「わ、わかりました! ……えっと、生活指導室ってどこでしたっけ?」
「あぁ、職員室から出て――」
それから高橋先生から教えて貰った場所へ恵と向かう。
生活指導室の前に到着すると、俺はドアをノックする。
――コンコン
唾をゴクンと飲み込み反応を待つと、中から低音の声が響き渡る。
「はい。どうぞ」
体育教師の森田先生の声だ。
「失礼します」
中に入ると、面倒くさそうにリサと取り巻きの2人が席に座っていた。
俺は少し驚きながら室内に入る。
「高橋先生から言われてきました。何でしょうか」
俺は筋肉質でショート髪の森田先生に問いかける。
「あぁ、高橋先生から事情は聞いている。こいつらに洗いざらい話して貰ったところだ」
「はぁ……そうだったんですね」
「それで……私たちが呼ばれた理由って何でしょうか?」
恵は森田先生に質問をする。
「簡単なことだ。こいつらに謝罪をさせる為に呼んだんだ。……鬼島、いままでやってきたことを全て豊崎に謝罪するんだ」
森田先生はリサに向かって言うが、リサはそっぽを向いて反応しない。
「鬼島ァ!!」
俺はリサを怒鳴りつける森田先生に軽くビビる。
「……ッチ」
リサは舌打ちをしながら面倒くさそうに立ち上がる。
釣られて取り巻きの2人も立ち上がる。
「……はぁ……いままですみませんでした」
リサ達は全く感情が入っていない謝罪を恵にする。
「豊崎だけじゃないだろう! 山守にもやった事を謝罪するんだ」
「……俺にも、ですか?」
「あぁ、高橋先生から聞いている。山守も鬼島に捕まってひどい目に会いそうになったそうじゃないか」
「……え」
森田先生は恵に隠していた事を恵の目の前で話し出す。
……この先生、ダメかもしれない。
「あはは……俺は良いですよ、実際に被害を受ける前に逃げましたし」
「……そうか。まぁいい。鬼島、島塚、近藤! 今回に懲りて2度と豊崎達に悪さをするんじゃないぞ! 次、同じような事をしたら今回のような指導では済まさないからな!」
ピシっとリサ達に忠告をする森田先生は俺達に視線を移す。
「よし、豊崎と山守は出て行ってよろしい。鬼島達もう少し残りなさい」
「……まだ続くのかよ」
リサの小言を聞きながら俺達は失礼します、と言って生活指導室から出て行った。
「……ふぅ……とりあえず、教室に弁当を取りに戻るか」
「……えぇ」
力なく返事をする恵。
教室に向かう道中、恵が話しかけてくる。
「……和樹君。さっき、森田先生が言ってた事だけど……」
「あぁ……ごめんな、黙ってて。恵に心配かけたくなかったんだ」
「そう……なんだ。……ひどい事されたりしなかった?」
俺は捕まった時の事を思い出す。
……神楽耶がいなかったらヤバかっただろうな。
「あぁ。さっきも言った通り、やられる前に逃げたからな」
「……そっか。ごめんね」
俺が心配していた通り、酷く落ち込んでいる様子の恵。
「大丈夫だって!! 森田先生はちょっと強引だったかもしれないけど、リサ達も謝ってきた事だし。これで解決って感じじゃないかな」
「……そうだといいけどね」
歯切れの悪い恵だった。
「それに……ほら。また何かしてきたらすぐに相談してくれよ! 俺達が全力で協力するからさ!」
「……ふふ、そうね。その時はまたお願いしようかしら」
少し元気を取り戻す恵を横目に俺達は教室へと急いだ。
教室に戻った俺達は弁当を持って中庭へと向かう。
中庭では以前と同様に、カップルのたまり場となっていた。
「お待たせ、樹」
「……お、遅かったじゃないか和樹」
「……ちょっとな」
俺は園田さんに視線を移し芝生に座り込む。
「園田さん、さっき俺達はリサ達から謝罪してもらったところなんだ」
「……え! どういう事ですか?」
「高橋先生から生活指導室に向かうように言われてね。そこに行ったら森田先生とリサ達がいたのよ。そこで謝られたって感じ」
「……まぁ、無理やり謝罪させられてるって感じで全く気持ちが入っていなかったけどな」
俺は思い出しながら不安要素を吐き出す。
「まぁでも、これでリサ達の件は解決って感じかな。……でも園田さん、何かあったらすぐに俺達に相談してね」
「……はい! ……いろいろお世話になりました」
園田さんは深々とお辞儀をしてくる。
「それじゃ時間もないし、早く食べようか」
「えぇ、そうね和樹君」
それから俺達は昼休み一杯中庭で過ごした。
昼休みが終わり、教室に戻るとリサ達も教室に戻っており非常に不機嫌そうな顔をしていた。
「(いるし……視線を合わせない様にしておこう)」
「(その方がいいだろうな)」
俺は樹と小声で言葉を交わし、恵と園田さんともアイコンタクトで頷く。
5限が終わると、リサ達は教室から出て行った。
「和樹君……」
「あぁ……」
結局、6限に入ってもリサ達は戻ってこなかった。
放課後となると、俺達は鞄を持って園田さんの席に近づく。
「園田さん、それじゃ今日から俺達も通常の部活動に戻るね。……でも、6限からリサ達もいなくなってるから園田さんも気を付けて帰ってね」
「それではな!」
「瞳ちゃん。また、NINEで連絡するね」
「……はい! ありがとうございました」
俺達は笑顔で園田さんと軽く別れの挨拶を交わし、部室へと向かった。
部室に到着すると、1年生組も部室前で待機していた。
「おまたせ皆!」
「愛花のお兄さんだ! 早く開けてよー!」
「はいはい、今開けるから待ってくれ」
「兄さん……最近お昼一緒に食べてないので寂しいです」
寂しがる愛花に俺は少し癒される。
「まぁ、今回の問題も解決した事だし、明日からお昼は一緒に食べような!」
「はい!」
俺は愛花を横目に部室の鍵を開ける。
「よし! 一先ず、お昼に起きた事を共有しておくよ――」
それから1年生組にお昼休みに起きた事を伝える。
「――って具合でひとまずは解決って感じかな」
1年生組は頷きながら聞いていた。
「わかりました兄さん! それじゃ解決って事ですね」
「あぁ、ちょっと心残りはあるけどな」
「……みんなありがとうね。私の問題に付き合ってもらって」
恵は苦笑しながら1年生組に伝える。
「いえいえ! 豊崎先輩の役に立ててなによりです!」
恵は愛花の頭を撫でる。
「ありがとね、愛花ちゃん」
「えへへ……」
恵と愛花の戯れを横目に、俺は奥にある椅子に座りパソコンを起動する。
「さて、何か相談事は届いてないかなー……っと」
パソコンが立ち上がるのを待っていると、恵は何か通知が来たのかスマホを取り出していた。
「そんな……っ!」
――バタンッ
スマホを見た恵は、スマホを放り出してそのまま部室の扉を勢いよく開けて飛び出して行った。
「……おい! 待てよ恵!!」
俺はすぐさま椅子から立ち上がり、恵に問いかけるが恵にはもう届かなかった。
愛花は放り出されたスマホを拾い上げると手で口を覆い、俺に見せてくる。
「兄さん、見てください!」
俺は愛花からスマホを受け取る。
「……なんだよ、これ……」
そこには園田さんが気絶して薄暗い場所で縛られている写真と【体育倉庫に来い】と表示されていた。
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