■71 状況報告
「……さん……兄さーん! 起きてくださーい!」
朝、俺は布団の中で愛花の声で目が覚める。
だが、週末動き回ったこともあり、体はまだ布団から出たくない様子だ。
「……ん……あと2時間ぐらい」
「そんなに寝ていたら遅刻してしまいますよ!」
「……それじゃあと30分ぐらい」
「それだと、ご飯を食べる時間が無くなってしまいます!」
俺は布団の中から愛花の反応を楽しんでいた。
――モゾッ
その時、愛花は布団の中に手を入れ俺の足裏をくすぐってきた。
「……早く起きてくださ~い」
「うわっ! あはは、……やめてくれ、足は弱いんだ!!」
俺は観念して布団をどかして足を避難させる。
「……ふぅ、やっと起きましたか兄さん」
「参ったよ……。おはよう、愛花」
「はい、おはようございます兄さん。もう時間もないので早く降りてご飯食べちゃってくださいね」
「わかったよ」
俺が返事をすると愛花は部屋から出て行った。
『おはようございますー!』
『おはよー』
俺はベットから立ち上がり目覚まし時計を手に取ると、気づかない間に止めていた事に気付く。
『目覚まし時計って勝手に止まるもんなのか?』
『……あの、思いっきり和樹君が起きて止めていましたけど?』
『マジかよ、全然記憶にないぞ』
『……眠そうでしたからねぇ』
『うむ…………あ、そうだ! 神楽耶って俺を起こしたり出来るのか?』』
『え? ……どうでしょうか。やった事ないのでわかりませんが、今度試しに寝ている和樹君に思念を送ってみますね』
『あぁ、試してみてくれ』
俺は神楽耶とのやり取りを終えた後、部屋から出てリビングへと向かった。
「お待たせ」
「あ、兄さん。もう用意できているので早く食べちゃってくださいね。それに……お弁当もここ置いておくので、後で鞄に入れておいてください」
「ありがとう愛花、何から何まですまんな」
「ふふん! 兄さんが朝弱いのは知っていますからその分、私がしっかりしなくちゃダメなんです!」
愛花は胸を張って主張してくる。
「心強い妹を持って俺は嬉しいよ。あと、朝飯も美味いし」
俺はそう言いながら朝食をものすごい速さで胃にしまい込み、お弁当を持って部屋に戻る。
『慌ただしいですね和樹君』
『あぁ、なんたってあと、5分で出かけないと間に合わないからな! 着替えるから神楽耶も向こうを見ていてくれ!』
『あ、はい!』
俺は瞬時に学生服に着替え、弁当を鞄に入れて俊足で階段を下りる。
「間に合った! 早くいこう愛花!」
「はい! ギリギリなので、ちょっと走りましょうか」
家から出た後、愛花が急いで家に鍵をかける。
「お待たせしました。それじゃ急いで向かいましょう!」
「おぅ!」
俺達は小走りで梓ちゃん達との合流場所まで移動する。
「梓ちゃ~ん、アリサちゃ~ん」
愛花は梓ちゃん達が視界に入ると手を振りながら声をかける。
「……愛花ちゃん、それに和樹さんもおはようございます!」
「おっはよー! 愛花に愛花のお兄さん!」
「おはよう2人とも。……ギリギリだったから走ってきちゃったよ」
「……ふふ、それでは和樹さん行きましょう!」
俺達は頷いて学校へと向かう。
桜並木を通り校門に入るとまだ学生が少ない昇降口を抜ける。
「それじゃ俺、部室の鍵持ってくるから先に部室に向かっておいてくれ」
「わかりました」
愛花達は頷き、階段を上がっていく。
別れた後、俺は職員室に入り高橋先生の机に向かった。
「おはようございます先生」
「おはよう山守、週末はどうだった?」
「はい。遠出していたので特にリサからの接触はありませんでした」
「そう、良かったわ。……あの子たちも遠くに行かれちゃうと手の出しようがないって事ね。よくやったわ山守」
「まぁ……護衛半分、遊び半分って感じでしたけどね」
俺は苦笑しながら答える。
「問題ないんじゃない。楽しく過ごせて園田を守る事が出来たって事でしょ?」
「……確かにそうですね」
「それはそうと、部室の鍵よね? 時間もないし早くいきましょう」
「わかりました!」
俺は高橋先生と部室の鍵を借り、職員室を出て部室へと向かった。
部室へ到着すると、他の部員が待機していた。
「お、和樹! おはよう、楽しい週末だったな!」
「おはよう和樹君」
「おはよう2人とも!」
樹達に挨拶をしていると、愛花達と話していた神崎さんも俺の方に近づいてくる。
「おはようございます和樹さん! 週末は楽しかったですね」
「おはよう神崎さん! 思い出話をしたいのも山々なんだけど、時間もないから早く部室の鍵を開けるね!」
「わかりました!」
俺は皆に挨拶をし終えた後、急いで部室の鍵を開ける。
「皆、一先ずソファーに座ってくれ」
そう言うと俺は部室の空気が少し淀んでいたので、窓を開けて換気をする。
「……よし、準備完了だな」
俺はソファーに座っている皆を見回した後、立っている高橋先生に視線を向けた。
「……準備ができました。高橋先生、お願いします」
「えぇ、わかったわ」
それから高橋先生から今日リサに対して行われる指導内容について共有してもらう事になる。
「――まず先週、山守達が用意してくれた物的証拠を元に理事長に問題提起させてもらったわ」
「……それで、どうなりましたか?」
「えぇ、理事長も納得してくれたようで、私の方からリサ達の親御さんにも話はもう通してあるから、私たちがリサ達に指導しても問題にはならない状態よ」
「おぉ、いいですね! それで、実際にリサ達にどういった指導が行われるんですか?」
高橋先生は俺達を見回してから話続ける。
「……まず、HR後に生活指導室にあの子たちを呼び出して生活指導の森田先生から指導してもらいます」
「森田先生って確か、体育教師の方でしたよね? あの……俺、リサ達と少し話した事があるんですが……あいつらって話しても分かって貰えない感じの人達でしたよ?」
すると恵も思い当たる事があり、俺の意見に共感してくる。
「それは私も同感ね。前に私が直談判しに行った時もとぼけて相手にしてくれなかったもの」
「なるほど……。でも、だからこそ客観的な事実をあの子たちに伝えた後、自分たちがしてきた悪い事を自覚してもらうわ。それから何故、犯行を続けていったのかも明確にして根本的な原因を解消させるわ」
「確か前にリサと話した時には楽しいから。って言っていたと思います。……そういった曖昧な理由の場合はどうなるんですか?」
俺がそう言うと、恵は首を振りながら深いため息をしていた。
「……そんな理由でやっていたのならますます厄介ね。その価値観も含めて指導させてもらうから一先ずは私たちに任せて頂戴」
「わかりました。……話を整理すると、この後授業が始まる前にリサ達を生活指導室に呼び出して指導を行うって事ですね」
「簡単に言えばそうね。だから、あなた達は通常通り授業を受けておけばいいわ。結果が分かり次第、連絡するわね」
「了解です! 時間もないですし、俺達は教室に移動しますね」
「えぇ、部室の鍵はそのまま持ってなさい。この部室、放課後も使うでしょ?」
「はい!」
「なら、私はHRも準備もあるから先に失礼するわね」
「わかりました。ありがとうございます!」
高橋先生は軽く微笑むと部室から出ていった。
「それじゃ、そろそろHRも始まるから俺達も教室に移動しよう!」
皆が頷くのを確認して俺達は部室から出る。
部室に鍵をかけた後、1年生組と別れて俺達は教室へと向かった。
「……大丈夫かしら、和樹君」
移動している途中、恵が不安なのか話しかけてくる。
「俺達が出来る事はやったし、あとはなるようになるだけだよ。大丈夫! 絶対にいい結果になるって」
「そうだといいけど……ね」
少し不安そうに苦笑する恵。
「心配性だな豊崎は! 何かあればまた私たちが協力するまでさ。どんと大船に乗った気持ちで過ごせばいいだろう」
樹も俺と同様に不安な恵を元気づけていた。
「あぁ、樹の言う通りだな。何かあったらまた俺達が協力するよ」
「うん……そうね」
苦笑する恵を横目に俺達は教室へと急いだ。
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