■69 お菓子と神楽耶
俺はワクワクしながら愛花に尋ねる。
「それで愛花、何を作ってくれるんだ?」
「あはは、慌てないでください兄さん。何か希望とかってありますか?」
「……そうだなぁ。やっぱり王道なのはクッキーだよな。……あとちょっと欲を言うとケーキ系も食べてみたいかも。正直、甘かったら何でもいいかな!」
「ふふ、わかりました! ……園田先輩、材料見せて貰えますか?」
「……はい!」
それから愛花と園田さんは台所へ移動して、材料を確認してテーブルに戻ってくる。
「兄さん! 決まりました。クッキーは作れそうなので作りますね。あとパンケーキの元があったのでパンケーキも作りたいと思います! あとは別で甘いものを何か作ってみますので楽しみに待っててくださいね!」
「おぉ! 俺の希望がほとんど作れるってことか! 園田さん、ありがとう!」
「……いえいえ、私もお菓子大好きなので、美味しく作れるように頑張りますね」
「……瞳ちゃん! 私も一緒に作っていいかしら!」
愛花と園田さんがエプロンを付けていると恵も参加したそうに手をあげる。
「……是非、恵ちゃんも手伝ってくれると嬉しいです!」
「お、恵も作ってくれるんだな! 楽しみにしてるよ」
「まっかせなさい!」
恵は俺に向けてはにかみながらテーブルから立ち上がり、エプロンを付け始める。
「それじゃ和樹君、出来るまで待っててね!」
「おぅ!」
それから愛花達のお菓子作りが始まった。
3人は台所で和気あいあいとお菓子作りを行っている。
楽しそうなので俺も加わろうと思ったが、さすがに台所に4人も入るスペースはなく渋々見守っていた。
『ふふ、お菓子ですか! 楽しみですね』
『だな。……ってか、神楽耶も食べれるもんなのか?』
『直接食べる事は出来ないですが、和樹君を通じて味わう事はできますよ』
『へぇ……便利な体だな。……って事は、愛花とかの料理も日ごろから俺を介して味わってるってことか』
「はい! 愛花ちゃんの料理は私も大好きですから」
手持ち無沙汰な俺を気遣い、話しかけてくる神楽耶。
俺も暇なので神楽耶と思念で暇つぶしをすることにした。
『そういえば、俺と神楽耶みたいな関係の人って俺以外にもいるのか?』
『いや、いないと思いますよ? 私が和樹君の守護霊の方にお願いしたのが初めてだったみたいですから』
『へぇ……そう考えると、俺も神楽耶も他の人が体験しないような事を経験出来てるって事だよな』
『そうなりますね! 私も和樹君が話しかけてくるなんて思わなかったので、今こうして意思疎通できている事がとても嬉しいんです!』
『……あはは……初めはお化けかと思ってめちゃくちゃ驚いたけどな』
『ふふ、確かにすごく驚いていましたもんね! ……もう慣れましたか?』
『……まぁ、さすがの俺も慣れたよ』
俺は聞きたかった事を神楽耶に確認することにした。
『昨日もだけど、俺の体って神楽耶に憑依してもらって神楽耶の意志で俺の体を動かせるじゃないか』
『はい、最近よくお邪魔させて貰ってますね』
『この前のリサに捕まった時はめちゃくちゃ助かったけど、あれって俺が神楽耶を認識する前からしていたのか?』
『あ~……はい。和樹君が私を認識した日にも少し話しましたが、和樹君の身に危ない事が起きる緊急時などにはお邪魔させて頂いていましたね』
『なるほどなぁ……俺はてっきり体が反射で動いているもんだと思っていたよ』
『あはは……既にご存じだと思いますが、私が和樹君に憑依すると和樹君の消耗が激しいのであまりしたくないんですよね……』
『それは……その通りだな。お願いする時はしっかり判断してさせてもらうよ。……それと今まで同様に緊急時は俺の体を好きにしてもらって構わないからな』
『はい! まっかせてください!』
それからしばらく、俺はお菓子が出来るまで神楽耶と他愛もないやり取りをして過ごした。
神楽耶とやり取りをしていると、台所から美味しそうな匂いが漂い始める。
「兄さーん。もう少しで出来ますよ~」
「お! わかった!」
俺は神楽耶との思念を一旦中断し、愛花がいる台所に視線を向ける。
台所からは恵がクッキーを敷き詰めた大きな皿を持ってくる。
「おまたせ、和樹君。まずはクッキーよ!」
テーブルに置かれた皿に俺は視線を向ける。
「おぉ、動物の形に型抜きしてるんだな! ……色が違うみたいだけど?」
「えぇ、ココアパウダーを使ってるから色の違うクッキーはココア風味が楽しめるわ」
「へぇ……いいじゃん」
俺が恵と話していると、園田さんも人数分のパンケーキを持ってくる。
「これはまた……美味しそうなパンケーキだな」
「……はい。バターとメイプルシロップをたっぷりかけているので、とても甘くて美味しいと思いますよ」
油断すると涎が出てきそうなので、俺はグッと我慢する。
「……あと兄さん、こんなのも作ってみました」
愛花も台所から大きいボールに小粒のお菓子を敷き詰めたものを持ってくる。
「これって……たまごボーロか!」
「はい、口の中に入れたらシュワっと溶けてなくなってしまうあのたまごボーロです!」
「おぉ……これ甘くて好きなんだよ! でかした愛花!」
「作るのも簡単なので、多めに作っちゃいましたのでたっぷり召し上がってくださいね!」
「……それじゃ、紅茶も入れてくるので、少し待っててくださいね」
園田さんはそう言うと、台所へと消えていく。
目の前にはクッキーやパンケーキ、たまごボーロが手の届く場所にあるので、俺はお預けを食らった状態となる。
「……兄さん、こういった甘い食べ物は暖かい飲み物と一緒に食べる事でより一層美味しく頂けるので我慢ですよ?」
「……おぅ……そうだな」
愛花は今にも手に取って食べてしまいそうな俺に釘を刺してくる。
程なくして、園田さんは人数分の紅茶を持ってきた。
「……お待たせしました。それじゃ頂きましょうか!」
「おう!」
俺はまずクッキーに手を伸ばす。
――サクッ
口の中に入れて噛むと、香ばしいシナモンの香りと心地よい歯ごたえを味わう。
「……うん、美味い! 絶妙な甘さに丁度いい硬さ。さすがだよ皆!」
「面白いぐらい美味しそうに食べるわね和樹君」
「美味いからな、仕方ない!」
「そう言って貰えると、作ったかいがあるってものよ。ね、愛花ちゃん?」
恵は愛花の方を見て呟く。
「はい! 兄さんの味覚は私が熟知しているので甘さ加減はしっかり調整させて頂きました!」
愛花はエッヘンと胸を張って答える。さすが我が妹。
「……愛花ちゃん、とても手慣れていて驚きました。家でよくお菓子を作っているんですか?」
「あ~……いえ、バレンタインやお誕生日に作る程度ですね。一回作ると覚えちゃうんです!」
「……一回で覚えちゃうんですか、凄いですね!」
「えへへ……」
俺は女性陣のやり取りを聞きながら、パンケーキにフォークを入れる。
「このパンケーキも硬すぎず、絶妙な柔らかさだな」
俺はフォークで切ったパンケーキに溜まったメイプルシロップをたくさんつけて口の中へ運ぶ。
――ふわッ
口の中にはしっとりと柔らかい生地と甘いシロップが混ざりあい、最高のハーモニーを醸し出していた。
「うま!」
俺は止まらずに何度もパンケーキを口へと運ぶ。
「……いい食べっぷりねぇ」
「んっ……んっ……! ……ふぅ、……パンケーキってこんなに美味かったんだな」
「……ふふ、パンケーキ美味しいですよね!」
他の女性陣にもパンケーキは好評の様子だ。
続けて、俺は愛花の用意してくれたたまごボーロにも手を伸ばす。
――カリッ
小さな粒を口の中に入れると、唾液で瞬時に溶けて甘さが口全体に広がる。
「……うん、これだよこれ! この溶けていく感じ」
「私もこのお菓子好きなんですよね」
愛花はそう言いながらたまごボーロを摘まんで食べていた。
子供の頃に食べた懐かしい甘さがそこにはあった。
「全部美味しいよ! ありがとう3人とも」
「美味しそうに食べて貰って私たちも作ったかいがあったわ」
「……えぇ、まだまだありますから食べてくださいね」
それからしばらく俺達はお菓子を食べながら談笑をして過ごしていった。
お菓子を食べ終えた後、俺は深々と女性陣にお辞儀をした。
「最高でした。ありがとうございます!」
「そんな、大袈裟ねぇ」
「……そうですよ、私たちも美味しく食べて貰えて嬉しかったです!」
「頻繁に作るのは良くないですが、また機会を見て作ってあげますね兄さん!」
「おぉ……本当か愛花! その時は頼む!」
俺は空いた食器に視線を向ける。
「……それじゃ、お礼に俺が片づけをしておくよ! 皆は寛いでいてくれ!」
俺は食器を台所に持っていき、溜まっている洗い物を洗い始める。
食器などを洗いっていると放心状態の神楽耶に気付く。
『神楽耶、大丈夫か?』
『はい~……最高でしたぁ……』
『はは、そんなに美味かったんだな』
俺は微笑みながら放心状態の神楽耶を横目に片づけを続けるのであった。
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