■68 園田さんの家
俺達が園田さんを待っている間、神楽耶が部屋を興味津々に見回していた。
『……神楽耶、あまりキョロキョロするなよ?』
ただでさえ緊張しているのに、目の前で動き回れると嫌でも気になってしまう。
『あ、すみません。可愛らしい部屋だったものでつい……』
『……確かに、俺の部屋と比べて女の子の部屋って感じだもんな』
俺はそう思いながら園田さんの部屋を見回す。
部屋には可愛らしい模様の絨毯にベットの上には可愛いぬいぐるみが数体設置されていた。
「何よ和樹君、そんなにキョロキョロしちゃって」
「あ、いや、可愛いらしい部屋だなって思ってな」
俺は神楽耶にしたやり取りを恵ともしてしまう。
「女の子の部屋なんてこんなものよ」
「……恵の部屋も同じ感じなのか?」
「えぇ、そうよ」
「へぇ……。そういえば、俺って愛花の部屋に入った事なかったよな?」
俺は愛花に視線を移して話しかける。
「……確かに、私は兄さんを起こしに行くことがあるのでお邪魔したことはありますが……その逆はないですもんね」
「愛花は朝強いもんな、起こしに行った記憶が微塵もないや」
……今度チラっと覗いてみよう。
そんなやり取りをしていると、園田さんが飲み物を持って部屋に戻ってきた。
「……お待たせしました。どうぞ」
「さんきゅー!」
「ありがとうございます!」
「いただくわね」
俺達はお礼を言いながらトレーに乗っている飲み物を手に取り一口飲む。
「……ふぅ」
俺はお茶が半分ぐらいに減ったコップを置いた後、皆が一口飲み終えるのを待ってから話始める。
「園田さん、今日で俺達の護衛は終わるけど、なんか週末あっという間だったね」
「……確かにあっという間でしたね。……でも、すごく楽しかったです!」
「園田さん、夢中でアトラクション選びしてたもんね。見ていて微笑ましかったよ」
「……お、お恥ずかしい限りです」
園田さんは思い出しながら少し照れていた。
「あと、旅館では恵ちゃんと山守君の卓球対戦も熱かったですよね」
「本当ねぇ……まさか和樹君があんなに強いなんて想像してなかったもの」
「あはは、私もビックリしちゃいました。意外な兄さんの一面が見れて楽しかったですよ?」
「まぁ……あれは。あはは……」
俺は神楽耶に視線を移して笑って誤魔化す。
それからも楽しく旅行を振り返っていると、部屋の時計がお昼時をさしていた。
「――そろそろお昼時ですね」
「だな。お昼どうしようか?」
俺は愛花の方を見て問いかける。
「そうですねー……」
「……それなら護衛のお礼に私がお昼ご飯を作りますね!」
すると、園田さんが提案をしてくる。
「え、いいの? ありがとう!」
「……それなら、私も手伝うわ」
「うん。お願いね恵ちゃん!」
それから俺達は部屋から出て台所があるリビングへと移動する。
リビングに到着した後、園田さんはソファーのある方を指さして俺達に話始める。
「山守君達はテレビでも見て寛いでいてくださいね」
園田さんはそう言うとエプロンを付けながら台所へ向かう。
「なんか悪いな」
「いいのよ、ゆっくり待っててね」
恵も俺と言葉を交わした後、台所の方へと消えていった。
俺達はソファーに座り、テレビを付けながら愛花へ視線を向ける。
「……何か、愛花が料理していないってのも新鮮だな」
「ふふ、そうですね。今日は甘えようかと思います」
愛花は笑顔で答える。
「だな。……2人が普通だったら当たり前に出来ていた事を、今は出来るんだからな」
俺は台所にいる2人を見ながら自然と頬が緩んでいくのを感じる。
それから程なくして料理が完成した。
「2人とも、昼食が出来たからテーブルの用意お願いできるかしら」
「おぅ、まかせろ」
「はーい!」
台所から恵の声が聞こえたので俺達はソファーから立ち上がり、テーブルに箸や小皿を設置していく。
すると、台所からシーザーサラダの入った大きなボールを持ってきた恵が思いっきり躓いてしまう。
「――わわっ!」
「……おっと!」
丁度近くにいた俺は、恵の手から離れたシーザーサラダが入ったボールを上手くキャッチする。
――だが、恵が突っ込んでくるのには対応できずにそのままぶつかってしまった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
――ドサッ
俺と恵は地面に倒れ込む形になるが、何とかシーザーサラダの入ったボールはひっくり返さないまま持つことが出来ていた。
「……よ、よかったぁ」
安堵する俺だったが、顔面を柔らかい物体で覆われている感覚に気付く。
「……っ!」
俺の顔面には思いっきり恵の胸が押し付けられていた。
「……いたた……」
「あの……恵、大丈夫か?」
「……ご、ごめんなさい和樹君!」
俺が下敷きになっていた事に気付いた恵は謝罪をしながら勢いよく離れる。
「……いや、サラダひっくり返さなくてよかったよ。……せっかく恵が作ってくれたもんな」
「あ、ありがとう和樹君」
恵は頬を赤く染めながらお礼を言ってくる。
「……だ、大丈夫ですか兄さん!?」
そんな俺の傍に駆け寄ってくる愛花と園田さん。
「おう! なんとかサラダは死守したぞ。さぁ昼食の準備の続きをしよう」
それからテーブルに料理を移動し終え、俺達は昼食を頂きますと言って食べ始める。
当然ながら2人の料理は絶品だった。
「ご馳走様でした! やっぱり2人の料理もめちゃくちゃ美味いな!」
「はい、とても美味しかったです!」
「ありがとう2人とも」
「……ありがとうございます!」
その後、俺と愛花は片づけを担当した。
片付けし終えると俺達はテーブルの方へと戻る。
「おまたせ。食器は水切りカゴに置いてあるから後で仕舞っておいてくれ」
「……ありがとうございます山守君」
椅子に座って、2人に尋ねる。
「……2人で何話してたんだ?」
「……あ、何だか不思議だね。って話していました」
「不思議?」
「……はい。恵ちゃんとは丁度一年前ぐらいにリサ達から助けて貰って遊ぶようになったのですが……」
「確かそうだったよな。俺もその時近くにいたから覚えてるよ」
「……えぇ、でもそれからしばらく経ってから誰もいない場所でリサ達の嫌がらせが始まったんです。――豊崎と付き合うのをやめない限り続けるって言われて……」
俺は前にリサ達に捕まった事を思い出す。
「……あの時、もう少し私に勇気があれば、少し変わっていたはずなのに……ごめんなさい、恵ちゃん」
「あ~……仕方ないよ。世の中には話しても分からない相手ってのは必ずいるもんだし」
「そうよ瞳ちゃん。それに、瞳ちゃんから教えて貰えたからリサ達のやっている事を知ることが出来たし、今こうやって和樹君に相談できているの」
「……はい。山守君達には本当に感謝しています。もうこんな風に恵ちゃんと一緒に過ごせるなんて思ってもいなかったですから」
園田さんは俺に微笑んでくる。
「本当ね。私もこんなに早くリサ達に指導が入るなんて思わなかったもの。すごいわ、和樹君」
「……いや、俺だけじゃないよ。皆が協力してくれたから今の結果があるんだ」
「和樹君……。そうね! また明日、皆にお礼を言わなきゃね」
「あぁ。でも、まだどういった指導が入るかわからないからな、明日朝早く学校に来るように高橋先生から言われているからその時に聞くよ」
「えぇ」
それからしばらく過去話に花が咲いた。
談笑の中で前にリサ達に絡まれたコンビニで見た美味しそうなお菓子を食べたいけど買えない、という話になった。
「……へぇ、和樹君ってあまりコンビニで買い物しないのね」
「まぁな。愛花の料理もあるし、行く機会があまりなかったんだよ」
「はい! 兄さんの健康面もしっかり配慮しながら料理を作っているので、何が使われているかわからないコンビニは使わないように話しているんです!」
「……愛花ちゃん、しっかりしてるのね」
「そのおかげで、コンビニのお菓子とは全く縁のない生活をしている訳なんだけどな!」
「……それなら、お菓子作っちゃいますか?」
園田さんは素晴らしい提案をする。
「……え、いいのか!?」
「……はい! 私もよく作りますし、材料はあると思います!」
俺は嬉しくなり顔がニヤけてしまう。
「愛花……お菓子作ってくれるって」
俺は愛花に許しを得ようと愛花に視線を向ける。
「ん~……わかりました! 私もお菓子作りに参加させてもらえるならいいでしょう!」
「やった! さすが愛花!」
愛花の許しも得たことで、俺達はお菓子作りに取り掛かる事にした。
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