■66 露天風呂からの脱出
ひとまず俺は見つからない為にも岩陰に隠れてじっと息を潜める。
当然2人は何も身にまとっていないので、襲い掛かる煩悩を払いのけるのに一苦労する。
すると、愛花達もかけ湯をして湯船に入ってきた。
「……はぁ……やっぱり気持ちいいですね」
「ほんとねぇ……染みわたるわぁ……」
「……豊崎先輩、皆での旅行も明日で終わりですね」
「そうね。瞳ちゃんも楽しんでいたし、危険な事もなかったから一安心よ」
2人は湯船に漬かりながら雑談をし始める。
ますます出づらい状況だと分かり、一人で勝手に焦る俺。
「……でも、本当にさっきの兄さんとの卓球すごかったですよね!」
「あぁ……私も楽しかったわ。でも……和樹君って昔どこかで卓球をやっていたの?」
「……いや、やっていなかったと思いますよ?」
「そう? ……やけに上手かったのは何だったのかしら……不思議ね」
「……兄さんは元々運動神経が良かったから……じゃないでしょうか?」
「……ふふ……そうなのかもね」
2人はリラックスしているのか、スローペースで話を交わしていく。
「そういえば、前から気になっていたんですが……豊崎先輩って兄さんの事、どう思っているんですか?」
「えっ! どうって……頼りになる人? じゃないかしら」
「……そうではなく、男性としてです」
……待て待て愛花!
なにやら愛花がとんでもない質問をし始める。
俺は話の内容が気になり、岩壁にすり寄って聞き耳を立てていると、濡れた体が夜風で冷えて鼻がムズムズし始める。
「私は……」
(……や、やばい!)
そう思っても生理現状を止める事は出来なかった。
――ハックション!
俺は思いっきりくしゃみをしてしまった。
「――だ、誰!」
恵はあきらかに俺が隠れている岩陰の方に向かって問いかけてくる。
(あぁ……人生……終了か)
俺は観念すると、後ろを向いて両手をあげる。
「ごめん!!! 俺だ! 和樹だ!!!」
俺は覚悟を決めて2人に俺がいる事を伝えた。
「……嘘、和樹君!?」
「……兄さん!?」
2人の顔は見えないが、驚いた声をあげて勢いよく湯船に隠れるように漬かる音が聞こえる。
「……和樹君、なんでここに?」
少し間を開けて、恵が質問してきた。
「本当にごめん!! 露天風呂の入り口に男性入浴中って看板があったから入っていたんだけど、愛花達が入ってきてから混乱してしまって……つい隠れてしまったんだ」
俺は起きた事を包み隠さず2人に伝える。
「……愛花ちゃん、入り口の看板って女性入浴中ってなってたわよね?」
「……えぇ……そのはずですが」
「そんな……確かに俺は見たんだ!」
嘘……だろ? 俺は何かの幻覚を見ていたのか?
「……もしかして、時間的に考えて男女が切り替わる前に和樹君が入って、切り替わった後に私たちが入ってきたって感じじゃない?」
恵に言われて部屋から出た時間帯が22時前だったのを思い出す。
「多分それだ!! 確か樹と初めに露天風呂に来た時に見た説明文だと、20時までは女子専用で2時間の間隔で男女が切り替わるって書いてあったはずだ!」
「……なるほどね……状況は理解したわ。和樹君、タイミング悪かったわね」
「そういう理由だったんですね。兄さんが覗きをしていない事が分かって安心しました!」
なんとか2人に今の状況を理解して貰えて安堵する。
「ありがとう2人とも、それじゃここからすぐに出――」
――ガラッ
風呂場から出ていこうと言うタイミングで、また露天風呂の入り口は開く音が聞こえる。
「ぶーん! 寝る前にもうもう一回入っちゃうもんね~!」
「……あ、アリサちゃん! 走ったら危ないよ」
「園田先輩、やっぱりここの景色っていいですね!」
「……本当ね、神崎さん」
すると、聞き慣れた4人の女性陣の声が聞こえてくる。
次の瞬間、俺の背中は柔らかい物体に押されて俺は前のめりになる。
「(わわ! ……ちょ、ちょっと待て!! なんで2人も隠れてるんだよ!)」
俺は岩陰に押し寄せてきた2人を見ない様に小声で問いかける。
「(つ、つい隠れちゃった……)」
「(あはは、私もです……)」
「(2人は隠れる必要ないだろ! ……でも俺、この後どうやって脱出すればいいんだろ……)」
悲しみが声に漏れ出る。
「(兄さん! 私が皆をサウナの個室に誘導しておくので、その間に脱出してください!)」
「(あ、愛花……! いいのか?)」
「(はい!)」
愛花が心強すぎて涙が出てきそうになる。
すると、愛花は勢いよく岩陰から飛び出していく。
「あ! 皆さんも入ってきていたんですね!」
「……あ、愛花ちゃん! 露天風呂に入っていたんですね」
愛花は飛び出して梓ちゃん達と話始める。
俺はそんな愛花の動向を聞き入っていると、恵は俺の背中に自身の背中を合わせてくる。
「恵!?」
「……ふふ、ちょっとドキドキするわね」
「何かごめんな、こんな事になって」
「……いいのよ、和樹君に悪気があったわけじゃないもの」
「恵……」
「……ねぇ和樹君見て、月が綺麗よ」
ずっと俯いていた俺は、恵に言われて空を見上げると綺麗な月と夜空が広がっていた。
「……本当だな。前にバルコニーで見たのより、何倍も良い景色だ」
「えぇ、そうね。……私、今日和樹君と見たこの景色、忘れないわ」
「……あぁ、俺もだ」
俺は夜空を堪能していると恵が愛花の動向を知らせてくる。
「……和樹君! 愛花ちゃん達がサウナ室に入っていったわ。出るなら今よ!」
「おぉ! 恵もありがとうな、恩に着る!!」
俺は恵にそう伝えると、勢いよく岩陰から抜け出し、脱衣場へと一目散に逃げていった。
無事に露天風呂から脱出を成功させた俺は急いで浴衣に着替えて出口に向かう。
『和樹君! 大丈夫でしたか!? 愛花ちゃん達が途中で入っていったようですが……』
『あぁ、大変だったよ……でも、なんとか出てこれて良かったよ』
俺は神楽耶と合流し、状況報告を済ます。
念の為、入り口の看板を確認する。
「……本当に看板が変わってる……な」
看板はバッチリ女子入浴中に切り替わっていた。
……この状態で入る男子はいないだろう。
「はぁ……なんてタイミングが悪いんだ、俺は」
俺は深いため息をしながら部屋へと帰っていった。
部屋に戻ると、樹は寝ころびながらゲームプレイをしており非常に楽しそうな時間を送っていた。
「ただいま、樹……楽しそうだな」
「おぉ和樹、戻ってきたな! ……なんだ和樹、風呂に行く前より疲れていないか?」
「……何も聞かないでくれ」
俺は体力的にも限界が来ており、そのまま敷かれているベットに倒れ込んで意識を手放した。
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