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■65 運動と露天風呂

俺はラケットと受け取ると、設置された卓球台で恵と向かい合う。


「一応聞いておくけど……恵、卓球の経験は?」

「中学の時に少しだけ……ね」


なるほど、経験者って事だな。

恵は小さい卓球ボールを投げてきたのでキャッチする。


「おっと……サーブは俺からでいいのか?」

「えぇ、構わないわ」


俺は構える。


「いくぞ!」

「えぇ!」

「……それ!」


俺は掛け声と共に持っていた卓球ボールを打ち込んだ。


――スパァン!!

恵は卓球ボールをすさまじい速さで打ち返してくる。


「なっ! ……それっ」


想像していた速度とは違い、ほぼ反射に近い形で俺はボールを打ち返す。

不敵に笑う恵はボールを見据える。


――スパァン!!

恵は再度、俺のいる位置とは逆方向へ卓球ボールをすさまじい速さで打ち返してくる。


「くっ!」


俺は追いつくことは出来ず、ボールは後方へと過ぎ去ってしまった。


「はぁはぁ……って強すぎねぇか?」

「あらそう?」


余裕そうにこちらを見てくる恵。

観戦していた愛花は俺と恵との間に設置されたポイント盤の恵側に1ポイントを追加する。


「兄さん! 頑張ってください!」

「……おぅ、まかせておけ!」


周りとみると、樹VS園田さんにアリサちゃんVS神崎さんの戦いも行われていた。

俺は視線を恵に戻し、ボールを受け取る。


「それじゃ、もう一回いくぞ!」

「来なさい、和樹君!」


俺はコーナーを警戒しつつ、サーブを恵に打ち込む。


――スパァン!!

恵は先ほどと同様に卓球ボールをすさまじい速さで打ち返してくる。


「オラ!」


目が慣れてきたのか、今度は反射ではなく自力でボールを返す。


「……えい!」


――カンッ

恵はボールを弱く打ち込み、ネットすれすれを狙って打ち込んでくる。


「わわ!」


俺は恵のスマッシュを警戒し、離れていたので反応できずにボールはテーブルの上を何度もバウンドしてしまう。


「和樹君、これも戦略よ」

「……強いな、さすが経験者ってところか」


恵のポイントが追加される。


『神楽耶……卓球をしてみたくはないか?』

『……え!? いいんですか和樹君?』

『あぁ、さっき神楽耶を風呂場で結構な時間待たせちゃったしな。それに、恵が強すぎて勝てる気がしない』

『嬉しいですけど……でも和樹君、余程のことがない限り憑依はしないって……』

『まぁまぁ、今日はこの後ご飯を食べて寝るだけだし、問題ないだろう』

『……! そうですね、わかりました! 少し体をお借りしますね』


俺は神楽耶と思念でやり取りをし終えると、体の制御を神楽耶に任せる事にした。

神楽耶はボールを拾うとサーブを打つ構えを行う。


『それじゃ、いきますね!』

「行くぞ!」


俺は神楽耶に変わって恵に向けて言う。


「来なさい!」


それから神楽耶と恵の攻防が始まっていった。

恵は相変わらず戦略と高威力のスマッシュを用いて打ち返してくる。


『そこです!』


神楽耶も恵の打ち込んでくるボールに反応して打ち返していく。

ラリーが続き、根負けした恵がボールを打ち漏らす。


「あぁ! ……和樹君、やるわね!」

『やりました! 和樹君!』

「ふう……」


体は神楽耶が動かしているが、当然疲労感は俺にダイレクトに来るので普通に疲れてしまう。

それからも恵との激戦は続き、いつの間にか周りで戦っていた樹やアリサちゃん達も愛花と一緒に観戦側に加わっていた。


「はぁ……はぁ……、なかなかやるわね……和樹君」


肩で息をする恵は、動きが激しくなってく過程で浴衣が徐々に緩んでいた。


「はぁ……はぁ……恵もな。……あと恵、浴衣……少し緩んでるぞ」


俺は少し目のやりどころに困っていたので指摘する。


「はぁ……はぁ……え? ……わわ!」


恵は自身の胸元を見ると急いで浴衣を締め直す。


「……和樹君のエッチ」

「……いやいや、俺のせいじゃないだろ」


恵は頬を染めながらこちらをジトっとした目線を向けてくる。

それからも気を取り直して戦いを再開するも、恵は浴衣の緩み具合に注意が向いてしまったのか僅差で俺が勝利を勝ち取る。


「……そんな、負けるなんて」


恵は地面に座り込む。


『やりました! 和樹君!』

『おめでとさん』


体の制御を取り戻した俺は地面に座り込む恵に近づく。


「お疲れ、いい勝負だったよ」

「和樹君こそ、強かったわ」


俺は手の差し伸べ、恵は俺の手を掴んで立ち上がる。

すると、周りから絶賛の声が響き渡る。


「凄かったです兄さん! 公式試合を見ているようでした」

「うんうん! 私も自分の試合をそっちのけで見入っちゃったよ!」


愛花とアリサちゃんは興奮気味で話しかけてくる。


「うむ、私たちも同じだ。すごい試合だったな和樹!」

「……えぇ! 恵ちゃん、カッコよかったです!」


樹や園田さんも愛花達と同様に興奮している様子だった。


「あ、ありがとう皆」

「……なんだか照れるわね」


恵と顔を合わせてお互いに笑い合った。

それからしばらく談笑していると、早苗さんが休憩スペースに来て俺達に話始める。


「お楽しみ中、ごめんなさいね。料理の用意が出来たみたいなので大広間に来てほしいようです」

「もうそんな時間なんですね……わかりました!」

「女将さんの配慮で私たちと和樹さんのお料理は近くに置いてくれるみたいですよ」

「いいですね! それじゃお腹も減ってきましたし、大広間にいきましょう」


皆も頷くと、俺達は晩御飯が用意されている大広間へと向かった。




大広間に到着すると、広間には俺達の人数分の料理と、少し間隔をあけて他の宿泊者達の料理も置かれていた。


「へぇ……広いな」

「本当ねー……」


俺と恵は放心状態で大広間を見回していた。


「さ、皆早く座って食べましょう」


早苗さんに言われるがまま俺達は料理が置かれている場所へと移動する。

俺は料理が置かれている台の手前に座る。


「さすがに美味そうだな」

「はい! 私もこれぐらい美味しそうに盛り付ける事が出来ればいいんですけどね」


隣に座っている愛花が旅館の料理に対抗(たいこう)意識を燃やしていた。


「大丈夫だ愛花! 愛花の料理もこの旅館ぐらい色鮮やかに盛り付けられているから」

「……そうでしょうか?」

「あぁ、長年愛花の料理を食べてきた俺が言うんだから安心しろ」

「……ありがとうございます兄さん!」


愛花と微笑み合った後、俺達は頂きますをしてそれぞれ料理を食べ始めた。

料理は見た目通り、めちゃくちゃ上手く一気に食べ終わった。




食後の雑談もほどほどに、俺達は自室へと帰る事にした。

小部屋に帰ると、既に布団が敷かれている事に気付く。


「おぉ、いつの間に……旅館ってこういうところが良いよな和樹」

「だな。でも、まだ寝るには少し早いが……」

「ふ、それでは私は戦場に(おもむ)くとしようかな」


すると、樹は鞄をまさぐり携帯ゲームを取り出す。


「りょーかい。それじゃ、俺はもう一回風呂に入ってくるよ」

「あぁ、行ってくると良い。……だが、食後にはサウナには入らない様がいいぞ? 入ると頭が痛くなるからな」

「お、そうなんだな。わかったよ」


俺は風呂に漬かるだけにしようと思ったので、入浴セットは持って行かずに手ぶらで部屋を出た。

途中、混浴の露天風呂に立ち寄ると看板が男性入浴中に変わっているのに気づく。


「……お! ……入れそうだな」


俺は男性浴場に向かうのを取りやめ、露天風呂の脱衣所へと入っていく。

神楽耶とお別れをした後、着ていた浴衣を脱いでまとめた俺は露天風呂の入り口を開く。


「おぉ!」


そこには露天風呂の湯気が夜空を舞っていて、とても幻想的な景色が広がっていた。


「……いい感じじゃん」


露天風呂には俺しかいないようで、俺はすぐに露天風呂に近づいてかけ湯をしてから中へと入る。


「……はぁ……最高かよ……」


絶妙な湯加減と景色も相まって最強の高揚感に包まれる。


「……幸せってここにあったんだな」


俺は幸せを感じていると、露天風呂の入り口が開く。

樹でも来たのかと思い、俺は視線を入り口へ向けるとそこには恵と愛花が入ってこようとしていた。


「……っ!!」


驚きと共に俺は何故か岩陰に隠れてしまった。

混乱した俺はすかさず神楽耶と相談する。


『看板は男性になってたはずだぞ? なんで愛花と恵が入ってくるんだよ!! 神楽耶、どうすればいい!!』


思念を飛ばすが、今(そば)に神楽耶がいない事を思い出す。


「……どうすれば」


……俺は今、絶対絶命のピンチに立たされていた。

「面白かった!  続きが見たい!」

と思っていただけましたら小説投稿のモチベーションになりますので、

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