■64 旅館とサウナ
日はすっかり沈み、辺りは暗くなり始めた頃に俺達は温泉旅館に到着する。
「着いたわよー」
早苗さんが俺達のいる後部座席に顔を向けるが、ほとんどが寝ており起きているのは俺ぐらいだった。
「わかりました。……おい、愛花。着いたってさ」
俺は隣で俺の肩に頭を預けて寝ている愛花のほっぺをプニプニしながら起こす。
「にゃ……なんですか兄さん……」
「到着だってさ、降りるぞ」
「はぁい……」
眠気眼で荷物の整理を始める愛花を横目に寝ている恵の肩を揺さぶる。
「恵ー、起きろー。もう着いたってさ」
「んん……。何よ、もう……」
微かに目を開ける恵。
「起きたな、もう到着したみたいだから出るぞ。みんなを起こしてくれるか?」
「ふあぁ……えぇ、わかったわ」
恵はすぐに状況を理解すると、隣にいた園田さん達を起こし始める。
目を覚ました愛花は梓ちゃん達を起こしていた。
「……ふぁ……あ、愛花ちゃん? もう着いたんですか?」
「そうみたいです、早く降りましょう!」
俺も寝ている樹の肩を揺らして起こす。
「おい、起きろ。旅館に到着したぞ」
「……ん。……おぉ、そうか。寝ていたようだな」
「あぁ、早く降りる準備をしろよ」
起きた樹は、荷物をまとめ始める。
皆が起きたのを確認した後、俺も荷物を整理して車から降りる。
「ん~!」
俺は思いっきり背伸びをして、程よい疲労感を吹き飛ばす。
「さ、早く中に入って休憩しよう!」
俺達は温泉旅館の入り口へと向かった。
入り口に到着すると、俺達は旅館内へと入っていく。
「いらっしゃいませ。良くお越しくださいました」
中に入ると、着物を着た女将さんが出迎えてくれる。
「すみません。橘という名前で予約していたのですが……」
「はい、橘様でいらっしゃいますね。部屋のご用意は出来ておりますので、こちらへどうぞ」
早苗さんが女将さんとやり取りをし終えると、俺達は靴を抜いで女将さんに付いていく。
「まずはこちらになります」
すると、小さな部屋を案内される。
「和樹さんと、樹さんはこの部屋を使ってくださいね」
「わかりました。早苗さん達は?」
「私たちは別で部屋を取っているので、そちらに泊まる予定です」
「了解です」
俺と樹は部屋へと入り、荷物を置く。
「それではごゆっくりお寛ぎください。20時になりますと、大広間にお食事をご用意しておりますので、お越しくださいませ」
「ありがとうございます」
俺は女将さんにお礼を言う。
「それじゃお2人とも、また後でね」
「また後でね、兄さん!」
「おぅ!」
女性陣とお別れをすると、俺は部屋を見回す。
「いい感じの部屋だな」
「そうだな、これはゆっくりできそうだ!」
樹はそう言いながら、鞄から小型ゲーム機を取り出す。
「おいおい、旅館に来てまでゲームか?」
「ふ、いつでも任務に戻れるようにしておく必要があるからな」
「任務ってなんだ……。それはそうと、まだ晩御飯まで時間あるし、風呂に行かないか?」
「お、いいな! この旅館の温泉とやらを見てみよう!」
「……決まりだな、それじゃ早く行こう」
俺達は、荷物からそれぞれ入浴セットを持って部屋から出る。
「……え~っと、どこにあるんだ?」
俺は通路にあった簡易マップを見て温泉場所を確認する。
すると、男女個別に室内温泉が設置されており、それとは別に混浴の露天風呂もある旅館のようだった。
「へぇ、この旅館って混浴もあるんだ」
「お、今どき珍しいじゃないか。露天風呂か……温泉に入りながら夜空を見上げる……是非入ってみたいものだな」
「でも、この露天風呂の所に注釈で……時間別に解放、って書いてるから自由に入れるって訳でもないみたいだぞ」
「ふむ……一先ず行ってみようじゃないか」
「だな」
俺達はまず混浴である露天風呂の方へと向かった。
到着すると、露天風呂の入り口の手前に分かりやすく女性使用中と書かれた看板が置かれている。
「今は入れないっぽいな……」
看板の裏側には男性使用中と明記されていた。
どうやら、2時間ごとに男女の使用できる時間が切り替わり、その時に看板の向きを180度向きを変える仕組みのようだ。
「それじゃ、室内の方にでも行くか」
「そうだな。入れないのなら仕方ない」
俺達は露天風呂は諦めて、男性用の室内温泉へと向かった。
室内温泉へと到着すると俺達は脱衣所で服を脱ぎ、浴場の中に入る。
「おぉ、ヒノキの香りがしていい感じ!」
室内温泉はヒノキの木で作られており、湯船に入る前から落ち着いてしまった。
「おい和樹! サウナがあるぞ!」
テンション高めな樹がサウナの入り口を見つけてはしゃぎ始める。
「へぇ、サウナもあるんだ。……そういえば、樹ってサウナ好きだよな」
「そりゃもちろん! サウナは体も心も整うからな!」
テンション高く力説する樹だが、俺はいまいちサウナの良さを理解していない。
「サウナってただ熱い空間に半裸の男子が集団でいるイメージしかないんだけど、そんなにいいものなのか?」
「ふふ、実際に体験してみればいいではないか」
「た、確かに」
樹の言う通りだったので、俺は樹のレクチャー付きでサウナを体験することにした。
「では、基本的な流れから説明しよう。まず、このサウナの個室に入って体を温める」
「うん」
「それから出た後、傍にあるこの水風呂で体を冷やす」
「……え、これって水なのか?」
俺はサウナの傍にあった小さい浴槽に手を入れる。
「冷たっ! ……俺、入れる気がしないんだけど」
「大丈夫だ和樹! サウナで暖まった状態だと不思議と入れるようになる」
「そうなのか……」
「そして、水風呂に入った後、下がった体温が元に戻るまで休憩を挟む」
「ふむふむ」
「それを2,3セット繰り返して完了だ!」
腕を組んで話終える樹。
「え、それを2,3回も繰り返すのかよ。結構面倒なんだな」
「まぁまぁ、まずは体を洗ってからサウナに入ろうじゃないか」
それから俺達は備え付けのシャワーの前に座り、体を洗い終えた後でサウナの室内へと入っていく。
サウナ室内の温度計は90度を超えており、めちゃくちゃ熱い空間だった。
「もう暑いな……樹、ここにどれぐらいいればいいんだ?」
「だいたい10分ぐらいだな」
「10分!? ……もう出たいんだけど」
「まぁまぁ、テレビでも見ながら過ごそうじゃないか」
「……わかった」
サウナの個室には小型テレビが設置されていたので、俺は熱さを紛らわせる為にテレビに集中する。
「樹、ここって呼吸しづらいよな、熱い空気が肺に入ってくるっていうか……」
「あぁ、そんな極限状態に体をすることによって、体が全力で熱さに対処をし始める結果、体が良い状態へと向かっていくんだ」
「……そういうものなんだな」
俺は体中から汗が噴き出る感覚を体験する。
「よし。10分たった。出よう和樹!」
「あぁやっとか!」
俺達は急いでサウナから出る。
「それじゃ、水で体の汗を流して入ろう!」
樹はそう言うと水風呂の傍に置かれていた小さい桶で水をすくい上げて体の汗を流す。
「さ、和樹も」
樹は俺に桶を渡すと水風呂に入っていく。
桶を受け取った俺もビビりながらも冷水をすくい上げて汗を流す。
「ひぃっ!」
変な声を出てしまったが、樹に続いて俺も水風呂へと入る。
「うぅっ! ……おぉ……以外に」
最初は冷たいと感じたが、体が暖まっている関係かあまり冷たいと思えなかった。
「樹、水風呂ってどれぐらい入ればいいんだ?」
「だいたい、1分ぐらいでいいぞ」
「……結構短くてもいいんだな」
そうこうしている間に1分は経過して、樹は水風呂から出る。
俺も少ししてから水風呂から出た。
「よし、それで適当な場所で座って休むんだ」
「おう!」
俺達は近くにあった木の椅子に座って休憩を挟む。
「……あ~……なんか、ぽかぽかしてきたんだけど」
休憩をし始めてから、体の内側から込み上げてくる温もりを感じ始める。
「……あぁ、それが整い始めた合図だ」
「あぁ……なるほど。……ポカポカした感じと同時に高揚感にも似た感覚も襲ってくるな」
俺は今体に起こっている事を樹に伝えている間も内側から込み上げてくる快感に打ち震えていた。
「あ~……いいかも。これ」
「だろ? これをあと2,3回繰り返せば完全に整った体の完成だ」
「よし、最後までするぞ樹!」
それから俺達は3回同じ事を繰り返した。
完全に整った俺達は湯船に漬かり、放心状態でグッタリしていた。
「樹、もう俺。部屋に帰って寝れる自信がある」
「それは私も同感だ。……だが、まだ晩御飯があるからな、寝るにはまだ早いだろう」
「……だな。ちょっと長居しちゃったし、ご飯の時間も近いだろうから一旦出るか」
「そうだな」
一通り温泉を堪能した俺達は、浴槽から出て備え付けの浴衣に着替える。
脱衣所から出て少し歩いた場所に広い空間があり、飲み物や卓球台が置かれていた。
「あら、和樹君達もお風呂に入ってたの?」
すると、早苗さん以外の女性陣がその場で遊んでいた。
「恵達も風呂に入ってきたのか?」
皆も俺達と同様に浴衣姿だった。
「まぁね。ここの温泉すごくいいわね!」
「あぁ、それは俺も同感だ!」
お互いに温泉の感想を言い合った後、少し間を開けて恵は続ける。
「ちょうどいいわ和樹君、私と勝負しない?」
恵は卓球のラケットを手渡してくる。
「……望むところだ!」
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