■60 初めて会った頃
俺は風呂の用意をすると急いで1階にあるお風呂場へと急いだ。
脱衣所へ到着し、服を脱ぐ。
『それじゃ行ってくる』
『行ってらっしゃい和樹君!』
神楽耶にお別れを言ってお風呂場へと入る。
「……やっぱり広いな」
俺の家にある風呂場より2倍近く広い、一人で使うのが申し訳ないぐらいだった。
体を洗い、俺は湯船に溜まったお湯に触れるとまだ十分暖かかったので中に入る。
「……ふぅ……やっぱりお風呂に入ると落ち着くな」
風呂に入りながら、俺は恵の事を考える。
「……そっか、まだ恵と出会って1年しか経ってないんだっけ」
出会った頃は……そうだ、丁度1年前の今頃――
俺は新しい高校に入学し、また樹と同じクラスになった事を樹に嘆いていた。
「そんな顔するな和樹、私たちは運命共同体のようなものじゃないか!」
「運命共同体って何だよ。いや、嘆きたくもなるさ。だって小中と同じ顔を見続けてる訳だからな」
「ふふ、これでまた和樹の宿題を写すことが出来て俺は非常に嬉しく思うぞ?」
「……樹、お前よくこの高校に入学できたよな。いつも思うがゲームに向ける情熱を勉強に向ければ樹だって――」
「はは! 私は楽しくない事はしない主義だからな! それに受験なんぞ、1週間もあれば対策は立てられる。いわゆるゲームのボス敵を倒す要領でやれば良いのだよ!」
樹は食い気味で持論を展開していく。
「……常日頃からその意欲を勉強に充てておけよ……」
俺達はいつも通りの軽口を叩きながら、HR前の時間を過ごしていた。
「……ちょっと、そこ邪魔なんだけど」
すると、見覚えのない女子生徒が話しかけてくる。
「おっと、すまない」
俺の机の傍にいた樹は、思いっきり机の間のスペースを占領していたので、女子生徒にすぐ謝る。
その女子生徒は凛とした顔と手入れが行き届いたポニーテールが特徴的な女子生徒だった。
「ごめんな、こいつ話に夢中になると周りが見えなくなるみたいでさ」
「……そう、以後気を付けなさい」
女子生徒はそう言うと先にある自分の席の方へと進んで座る。
「ふむ、触れたら突き刺されそうな眼光を向けられたぞ。私じゃなかったら即死していただろう」
「……ゲームじゃないだから」
それから程なくして先生が教室に入ってきて自己紹介を行い、高橋と名乗る先生の誘導によって入学式を行う為に体育館へと向かう。
入学式はほとんど寝ながら過ごした後、喉が渇いたので途中見かけた自販機で飲み物を買う事にした。
「え~っと……」
何にしようか迷っていると、隣の自販機にHR前に会った女子生徒もジュースを買おうとしていた。
「お、また会ったな。……何飲むんだ?」
「……何だっていいじゃない」
「ツれないな……。そんなんじゃ高校で友達出来ないぞ?」
「ふん、大きなお世話よ」
樹が言っていた突き刺されそうな眼光を向けられ、俺は少しひるんでしまう。
「す、すまん。……あ、でも名前、教えてくれよ。同じクラスなんだし」
「……豊崎よ。豊崎恵。あなたは?」
「お、豊崎っていうだな。俺は山守和樹っていうんだ。よろしくな!」
「なにがよろしくよ。どうせ、あまりクラスで話す機会なんてないだろうし呼び合う事もないでしょうね」
豊崎はそっけない態度をしながら飲み物を買うと、すぐに俺から離れていってしまった。
「……変なやつ」
もっと愛嬌を振りまいてもいいだろうに、俺の妹を見習ってほしいものだ。
教室に帰ると樹が俺の席に近寄ってくる。
「帰ってくるの遅かったな?」
「飲み物買ってたらHR前に会った女子生徒とばったり会ってな。名前は……確か、豊崎って言ってたな」
「ほぅ……あの鋭い眼光の女子か。……よし! そうだ和樹、面白いゲームを思いついたぞ!」
「……なんだよ?」
またしょうもないゲームを思いついたのかと思い、呆れながら確認する。
「豊崎がどこまで平常心を保ってられるかゲームだ!」
予想通り、しょうもないゲームだった。
「……で、具体的にどういうゲームなんだよ」
「それは簡単だ。豊崎の平常心を崩すことが出来たらポイントを獲得して、一定ポイントに到達したらゲームクリア」
「なんだよそれ……」
「ふ、聞くより実際に試した方が早いだろう」
それからは樹の気まぐれもあったが、俺も妙にそっけない豊崎が気になり教室で無駄に絡むようになっていった。
ある日、授業の課題提出が迫っている時の事だ。
「豊崎、今日提出する課題ってやってきたのか?」
「……当り前じゃない」
「おぉ、さすが! ……すまんがこいつが全く課題に手を付けてないみたいでさ、課題を見させてほしいみたいだ。……お願いできるか?」
俺は隣で腕を組んで自信満々に笑顔を豊崎に向けていた樹を指さす。
「……なぜ見せる前提で話を進めてるのよ、見せる訳ないじゃない」
「ふふ……もしや豊崎も課題をし忘れているのではないか?」
不敵な笑みを浮かべる樹、完全にお願いをする人の顔じゃない。
「はぁ? そんな訳ないでしょ! あなたと一緒にしないで!」
「……よし!」
「……?」
不思議そうに樹を見つめる豊崎とポイントが入って嬉しそうにガッツポーズをする樹。
「そっか、すまなかったな。俺もこいつに自分でするように言っておくよ」
「……ふん、そうして頂戴」
そんなゲームの様に楽しむ樹と一緒に豊崎との絡みを続ける日々を過ごしていた。
そしてある日、お昼休み時間の事だ。
教室で樹と俺はコンビニで買った昼飯を食べていると、椅子に座っているクラスの不良3人組と向かい立っている1人の気弱な女子が視界に入る。
「早く学食で3人分のパン買ってこいよ、あとドリンクもな」
「……わ、わかったよ」
どうやら気弱な女子をパシリにしようとする場面の様だ。
「へぇ……このクラスにもあんな不良っているんだな」
「うむ、自分で買いに行けばいいのにな」
「まぁ、あいつらの問題だし、俺達が間に入ってもしょうがないだろ」
俺がそんなことを樹に話していると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「園田さん、買いに行かなくていいわ」
俺は声がした方へ視線を移す。
すると、豊崎が不良女子とパシリにされそうになっていた園田って言う女子生徒の間に割り込んでいた。
「……なんだよ、テメェは? 急に入ってくるんじゃねぇよ!」
不良女子のリーダー格の女子は机を蹴り飛ばし、豊崎に迫っていく。
蹴り倒した机は盛大に倒れ、周りの生徒が一斉に驚く。
「……マジかよ、あいつ」
「おい和樹、なんかやばそうだぞ?」
俺と樹の視線の先には豊崎と不良女子が睨み合っていた。
「なによ、動けるんじゃない。だったら自分で買いに行きなさいよ!」
豊崎も負けじと不良女子に対抗していると、豊崎の背中に園田さんが近づいていく。
「……豊崎さん、いいよ。私……買いに行くから!」
「ダメ。こういったやつを野放しにしていたら余計つけ上がるだけよ!」
豊崎は視線を園田さんから不良女子に戻す。
「はぁ? 何々、正義の味方気分って訳? アホらし、そいつも買いに行くって言ってんじゃん!」
「私が何をしようがあなたに関係ないでしょ! 気に入らないから言ってるだけよ!」
「は? うぜぇな、お呼びじゃねぇんだよ!」
「あなたこそ目障りよ! このクラスから消えなさいよ!」
それからも豊崎とリーダー格の不良女子は口論を続ける。
今にも手が出そうな雰囲気を察した俺は席から立ち上がる。
「……行くぞ、樹」
「あぁ、いくか」
俺は堂々と2人の方へと向かい仲裁に入る。
「まあまあ、抑えて抑えて」
「うるせぇ! お前も入ってくるな!」
不良女子は俺に向けて勢いよくビンタをしてきたが、俺は無意識に避ける。
――パンッッ!
「ブホォ!」
……が、そのビンタは俺の隣にいた樹に思いっきり当たり盛大に転げ落ちる。
俺はそんな樹をスルーして不良女子を見据えた。
「ほら、クラスの皆を見てみなよ。君たち注目の的だよ?」
すると、一発食らった樹を介抱している女子生徒や他の生徒も一層ざわつく。
クラス中から非難的な視線を集中砲火され不良女子達はひるんでいた。
「……ねぇリサ、もうこいつら放っておいて行きましょ」
取り巻きの1人から言われ、リサも冷静さを取り戻したようだ。
「……もうシラケたわ。行きましょ」
すると、リサ達はクラスから逃げるように去っていった。
それを見届けた俺は、頬に手を添えていた樹に向けてグッドサインを向ける。
「樹! お前のお陰でクラスの全員が味方に付いてくれた! ナイスズッコケだったぞ!」
「……うむ、あまり嬉しくないが……一件落着したようで安心した!」
頬を摩る樹を横目に豊崎の方へ視線を向ける。
「……それにしても、すごいなお前。あーいうやつにもズバズバ言うなんてな」
「ただ気に入らなかっただけよ」
「へぇ……でも、なかなか出来る事じゃないよ。すごいな豊崎は」
「……ふん」
そっぽを向いた豊崎にパシリにされそうになっていた園田さんが近寄る。
「……あの! あ、ありがとうございます。えと、豊崎さん……ですよね?」
「えぇ、そうよ。園田さん、もうあいつらの言いなりになるんじゃないわよ?」
「……は、はい! わかりました」
すると、クラスの生徒達が一気に豊崎に周りに集中する。
「豊崎さん、すごくカッコよかった!」
「スカッとしたよ!」
「勇気があるんだね!」
様々な事を矢継ぎ早に言われていた豊崎は複雑な顔をしながら返答をしていた。
それからクラスの人気者になった豊崎と園田さんと俺達は一緒に行動することが増えたが、リサ達の影響で園田さんとは行動しなくなり、豊崎と樹と俺の3人で行動することが多くなったんだ。
――俺は昔の事を思い出していると軽くのぼせてしまったようだ。
「……早く出て寝るか、明日も1日園田さんの護衛は続くんだし」
俺は風呂から出た後、明日に備えてすぐに自室に戻り寝ることにした。
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