■58 合流
この週末は長丁場になる為、大荷物になると動きづらい。
なので、用意といっても着替えや歯ブラシなどで必要最低限のものに済ませる。
「……これぐらいかな……っと」
俺は鞄に必要最低限のものを詰めおわり、自室からリビングの方へと移動する。
リビングにはまだ愛花はおらず、まだ自室で用意をしているようだ。
『……神楽耶、すまん。ちょっと限界だから少し寝るよ。愛花が下りてきたら起こしてくれるか』
『は、はい。わかりました!』
神楽耶にそう言いながらソファーのベットにダイブして仰向けになる。
目を瞑ると、一瞬で意識は遠のいていった。
…
……
………
『……和樹君! 起きてくださーい!』
「……兄さーん! 起きてください!」
神楽耶と愛花の声に気付き、目を開けると2人が寝ていた俺の顔をのぞき込んでいた。
田舎にいた頃、同じように2人からのぞき込まれた事を思い出しながら起き上がる。
「ふぁ……すまん。寝てた」
「いえ! あと少しでアリサちゃんが到着するようなので、車に乗ってから思う存分寝ても大丈夫ですよ!」
「……そうさせてもらうかな」
俺は頭をかきながらソファーから立ち上がり、脱衣所で顔を洗ってくる。
すっきりした状態でリビングに戻った頃、玄関からインターホンが鳴り響く。
「兄さん、アリサちゃんが到着したみたいです」
「おっけ!」
俺と愛花は荷物を持ってリビングの明かりを消して玄関へと向かう。
「今開けますー」
俺はそう言いながら玄関を開けるとアリサちゃんと見知らぬ大人の女性が立っていた。
「こんばんは、迎えにきたよー!!」
「こんばんは、アリサちゃん!」
元気なアリサちゃんに挨拶をした後、隣に立つ大人の女性にも挨拶をする。
「こんばんは。初めまして山守和樹と申します。アリサちゃんとはいつも妹が仲良くさせて頂いてありがとうございます」
「これはご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、初めましてアリサちゃんの母で橘早苗と申します。いつもアリサちゃんと仲良くして頂いてありがとうございます。お二人のお話はいつもアリサちゃんから聞いているんですよ?」
早苗さんは、アリサちゃんをそのまま成長させたような見た目で、長い黒髪を後ろで束ねていた。
「俺達の話、ですか?」
「えぇ! この前だって――」
「お、お母さま! 恥ずかしいからあまり言わないで!」
アリサちゃんが早苗さんの腕を照れながらグイっと引っ張る。
「あらあら……ふふ、わかったわよ。愛花ちゃんもお久しぶりね。元気にしてましたか?」
「はい! お久しぶりです! 今回はよろしくお願いします」
早苗さんは愛花とは面識があるようで2人は軽く挨拶を交わしていた。
「……それでは和樹さんに愛花ちゃん。短い間ですが、よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いします!」
俺達は軽く挨拶を終えると車の方へ向かう。
すると、大きなワゴン車が道路で停車していた。
「デカいな……これだと余裕でみんなが乗れそうだ」
「ですね!」
ワゴン車に乗り込むと、車の中には既に梓ちゃんが乗っていた。
「お、梓ちゃんはもう合流済みなんだ」
「……こ、こんばんはです。和樹さん」
「こんばんは梓ちゃん!」
可愛らしい私服姿の梓ちゃんは俯きながら上目遣いで挨拶をしてきたので、俺も元気よく挨拶を返す。
「こんばんはです、梓ちゃん!」
「……愛花ちゃんもこんばんはです!」
挨拶を交わす愛花達を横目に俺は荷物を後部座席の方へと置いた後、自分の席に戻って一息つく。
すると、運転席に戻った早苗さんが振り返ってくる。
「準備はいいですか?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
俺が早苗さんに返答をすると、車は徐々に走り出していった。
車の中は快適で、また程よい睡魔が襲ってくる。
「……愛花、俺ちょっと寝るから着いたら起こしてくれ」
「わかりました! おやすみなさいです兄さん」
「……和樹さん、おやすみなさいです」
俺は2人に断ると、そのまま目を瞑る。
すると、瞬時に意識は遠のいていった。
…
……
………
「……え、和樹君寝てるの?」
「あ、はい。何か疲れているようだったので車に乗ってからすぐ寝ちゃいました」
「……そう、なんだ」
俺は恵と愛花のやり取りで少し意識が戻るが、完全に起きる気力はなかったのでまた深い眠りに戻っていった。
「……いさん! 兄さん! 着きましたよ、起きてください兄さん!」
体が揺られて徐々に意識が覚醒していく。
「……ふぁ、着いたのか?」
愛花の声で目が覚める。
「はい、もう皆さんアリサちゃんの別荘の方へ行っていますよ」
「……お目覚めね、和樹さん」
周りを見ると、運転席にいる早苗さんと愛花の2人しか車にはいなかった。
「すいません。ちょっと寝すぎちゃったみたいですね」
「いいのよ、ゆっくり休めたかしら?」
「はい、お陰様で……」
「兄さん、私たちも早く荷物を持っていきましょう!」
「……あぁ!」
車から降りて家へと向かうと、海が見渡せる立地の場所に立っていた家に圧倒されつつも中へと入っていく。
「……すごい家だな、めっちゃ景色いいじゃん」
「ですね。私もちょっと感動しちゃいました」
玄関に荷物を置くと、先に家に入っていた恵が駆け寄ってくる。
「やっと起きたのね和樹君。すぐに晩御飯の用意を私と園田さんで始めるから愛花ちゃん借りてもいいかしら?」
「……そういえば、まだ晩御飯食ってなかったな」
恵から言われて空腹なのを思い出す。
「それじゃ愛花、めっちゃ美味しい晩御飯を頼むな」
「はい! 楽しみにしていてくださいね!」
愛花はそう言うと、恵と奥へと消えていった。
恵達と入れ替わる形で樹も俺を出迎えてくれる。
「やっと起きたみたいだな和樹、しっかり寝れたのか?」
「お陰様で、樹が乗り込んでいる事もわからないぐらい熟睡だったぞ」
「ふ、私が合流した後、すぐに起こそうとしたが皆に止められてな、仕方なく寝ていて貰ったのだ」
「……そうかい」
俺は玄関に置いた荷物を持って立ち上がり、樹の方へと歩く。
「それで、荷物ってどこに置けばいいの?」
「あぁ、こっちだ」
俺は樹についていくと、広いリビングに出る。
「広いなー……」
「だな、俺も初めて見た時も広さに驚いたぞ」
俺の家のリビングを2倍ぐらいの大きさにした広さでシステムキッチンや大きなテーブルがある。
「では、私はこの家の周辺を少し探索してくるとしよう」
「了解、迷子になるなよー」
俺がそう言うと、樹は玄関の方へと向かっていった。
視線を室内に戻すと奥にあるソファーの所で荷物がまとめられていたので、そこへ自分の荷物も置くことにした。
「和樹さん、熟睡でしたね!」
すると、神崎さんが声をかけてくる。
「あー……ごめんね神崎さん、熟睡してたみたいで」
「いえいえ! 和樹さんの寝顔が見れて嬉しかったです!」
前に愛花からも言われた事を思い出し、クスっと笑みが零れる。
「はは、前に愛花も言っていたが、そんなに俺の寝顔っていいものなのか?」
「もちろんですよ! 見ていてとても幸せな気持ちになる寝顔ですから」
そこまで言うと、自分でも見てみたくなるな……今度愛花に頼んでみよう。
その後テーブルの方に視線を向けると、台所の方を見つめる梓ちゃんがいた。
「梓ちゃん、今回は料理に加わらないんだ」
「……あ、和樹さん。はい、あまり人数がいても手持ち無沙汰になってしまいますし……園田先輩と豊崎先輩の2人の時間を邪魔したくないなって思いまして」
「……梓ちゃんは優しいね」
「……あ、いえ……そんな」
恵達の事をしっかり考えている梓ちゃんに自然と頬が緩む。
そんな梓ちゃんを横目に台所の方へと向かう。
「恵、それで今日は何作るんだ? ってか食材とかって用意されているのか?」
「そうね。アリサちゃんのお母さんが予め食材を冷蔵庫にストックしていたみたいだから、その食材を使う予定よ」
「へぇ……早苗さんって配慮が行き届いててすごいな」
「それに綺麗だしね。尊敬しちゃうわ」
「確かに……アリサちゃんのお母さんだから結構年齢いってると思うのに全然若く見えるもんな」
すると、恵が口を開き焦った顔をして俺の後ろを見つめている。
疑問に思い、振り返るとそこには早苗さんが立っていた。
「……あらあら、私の年齢がどうしたって?」
優しい笑顔(?)を浮かべた早苗さんは俺を見つめてくる。
「す、すみません!! とても綺麗でお若く見えると話していただけです!!」
「ふふ、冗談よ。全然気にしてないわ。……それはそうと恵ちゃん、私は晩御飯のお手伝いしなくていいのかしら?」
確か、アリサちゃんが言うには早苗さんもめちゃくちゃ料理が上手かったはずだ。
「えぇ、素晴らしい場所を提供して頂いているだけで感謝ですので、料理だけでも私たちに作らせてください!」
恵は早苗さんに感謝の意を伝える。
「そう……わかったわ」
「……前にアリサちゃんから聞いたんですが、早苗さんってめちゃくちゃ料理が上手いらしいですね」
「アリサちゃんがそんな事を……嬉しい事言ってくれるわね。和樹さん、また機会があれば家にご飯を食べに来る? ご馳走するわ」
「いいんですか! 是非、食べてみたいです!」
「ふふ、それじゃまた今度ね。……それじゃ恵ちゃん達が料理を作っている間、私はアリサちゃんと戯れてくるわね」
早苗さんはそう言いながら、階段を上がっていった。
「アリサちゃんって2階にいるのか?」
「えぇ。確か、私たちの寝る部屋が2階にあるから、それぞれの部屋に布団の用意をしてくるって言ってたわ」
「へぇ……」
2階にそんなに多くの部屋がある事に驚きを覚えつつも、2階へ消えていった早苗さんの方を眺めていた。
「まぁ、和樹君は梓ちゃん達と一緒にテーブルに着いて待っててよ。美味しい料理作ってくるから」
恵は俺に向けてウインクする。
「おぅ、楽しみにしてるな」
そう伝えると、恵は台所の方へと戻っていく。
俺はテーブルの方へ戻ると、梓ちゃんや神崎さんがテーブルに着いて談笑していた。
「恵から待機してろってさ。……何話してたんだ?」
「……はい、麗子ちゃんと夏にここに来たら海に入れるねって話していました」
「た……確かに!」
俺はガラス越しに見える海を見ながら共感する。
2人に視線を戻し、笑顔で語りかける。
「それじゃ、夏になったらまたアリサちゃんにお願いしてここに来ようか!」
「……はい!」
「はい! 楽しみです!」
2人は満面の笑顔で返事を返してくる。
その為にも、今回の護衛任務を無事終わらせようと心に刻んだ。
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