■55 恋人ごっこ
教室へ帰ると、樹が園田さんの傍で恋人のような立ち振る舞いをしており、園田さんの周辺にはクラスの女子生徒が集まっていた。
恵も呆れながらその光景を眺めている。
「……恵、俺がいない間に何が起きた?」
「あ、和樹君。お帰りなさい。……いや、斎藤君がやるならやりすぎるぐらいが丁度いいだろう。みたいな事言い出して、瞳ちゃんとベタベタし始めたらこの有様よ」
「……見事に園田さんが女子から質問攻めされてるな。……付き合った振りをしろとは言ったが、これは想定してなかったよ。……樹ってゲームバカだけど、元々女子から人気だったもんな」
「そうね……いつも一緒にいると、斎藤君が女子から人気なのをすっかり忘れちゃうのよね」
「……だが問題ない! これで俺達と園田さんが一緒にいる理由付けは出来たはずだ」
俺は恵にそう言いながら、横目で珍しく教室に来ていたリサ達の3人組に視線を向ける。
すると、3人組は樹達をまだ疑って見ている様子だった。
「まだ、リサ達からちょっと疑われている感じがするな」
「……そうね」
「……よし恵。この際、俺達も今日は付き合っている振りをして過ごすぞ」
「ちょっ! ……な……何よいきなり!?」
「まぁ待て、俺に良い作戦がある。園田さんと自然に行動を共に出来る作戦だ」
「何が自然よ! ……まぁ、瞳ちゃんの為なんだったら……それも仕方ない……か」
恵はそう言いながら徐々に俯き、頬を赤く染める。
「よし、それじゃ早速恵にしてほしい事がある」
「へ……?」
恵の気の抜けた声を聞きながら俺は説明を続ける。
「いいか? 恵があの女性陣に割り込んで、昨日恵が園田さんに樹の気持ちを代弁した事で、今日2人が付き合えた事を皆に言うんだ。そこで俺もすかさず話に入って、俺達も付き合っている事をクラスに打ち明ける」
「……本当にするのそれ?」
「あぁ、そうすれば樹達が付き合った事はあやふやになり、キューピット役になった俺と恵は樹と園田さんと行動しやすくなるって訳だ」
「う~……わ、わかったわよ。やればいいのね!」
吹っ切れた恵は園田さんの周りに集まった女性陣へと切り込んでいった。
「あ~はいはい! どいてどいて! ……瞳ちゃん、よかったわね! 昨日、私が斎藤君の気持ちを瞳ちゃんに伝えたばかりなのに、もう付き合っちゃうなんて」
俺もすかさず恵達に近づく。
「いや、本当に2人が付き合ってくれて嬉しいよ。恵から頼まれた時にはビックリしたけど、大切な彼女からのお願いだからな」
すると、1人の女子生徒から質問が飛んでくる。
「……え、山守君と豊崎さんも付き合ってるの?」
「あぁ、大切な彼女からのキューピット役のお願いだ。断る訳にはいかないだろ?」
「……やっぱり! そうなのね!」
すると、想定通り今度は恵に女子生徒が集まり、質問攻めが始まっていく。
「やっぱり、豊崎さんと山守君って付き合ってたんだ!」
「えぇ……」
「私も付き合っているとは思っていたのよ!」
「そうなのね……」
「ねぇ、いつから付き合ってたの?」
「……あはは」
元々女性から人気の高かった恵だった事もあり、様々な質問が飛び交っていた。
俺はそんな恵を横目に樹達に近づいていく。
「(予想以上に騒ぎになってたから急遽俺と恵が付き合っている事にして仲裁しておいた。ひとまずこれで行動しやすくなっただろう)」
俺は2人に小声で状況を説明する。
「(あ……演技だったんですね。すいません、本当に付き合っているんだと思ってしまいました……)」
「(私もだ。……すまないな、ここまで騒ぎになるとは思わなかったのだ)」
「(いや、これで俺達も4人で行動しやすくなっただろう。全く問題ない!)」
2人に説明し終えた後、恵の救出をするべく俺達は恵の方へと近づいていく。
「ごめんねー。俺達ちょっと恵と話があるんだ」
俺は恵の周辺に集まっている女性陣へそう伝えると、恵の席から離れていく。
放心状態の恵に声をかける。
「おーい、大丈夫か?」
「……えぇ、なんとかね。それで、和樹君の狙い通りになったの?」
「あぁバッチリだ! さすが恵だな」
「……ごめんね。恵ちゃん、騒ぎを押し付けちゃって」
「私もだ。やりすぎはよくなかったな」
樹と園田さんが恵に軽く謝罪をする。
「……いいのよ。……ふぅ、ちょっと疲れちゃった」
「この調子だとお昼も4人で食った方がいいだろ。ちょっと愛花達に連絡しておくな」
俺はNINEアプリを開き愛花に連絡を送った。
-----------------------------------
『すまん愛花。今日のお昼なんだけど、恵と付き合う振りをすることになったから梓ちゃん達と食べてくれ』
『え! どういう事ですか?』
『ちょっとな、予想以上に樹と園田さんの付き合った振りの反響が大きかったからその対処だ』
『分かりました。けど、後で詳しく状況を教えてくださいね!』
『りょーかい』
-----------------------------------
あとでいろいろ愛花から尋問されるのを覚悟しながらスマホをしまう。
「よし、っと。それじゃ授業も始まるし、また後でな」
「……わかりました」
「了解した!」
「……えぇ、また後でね」
――ガラッ
「ほらー、HR始まるわよ。早く席に着きなさい!」
俺達が分かれた直後に高橋先生が教室に入ってきたので、他の生徒も一気に自分の席へと移動する。
それからすぐに朝のHRが始まっていった。
1限が終わった後、朝礼と同様に園田さんや恵の周りに女子生徒が集まり質問攻めが始まっていた
見かねた俺と樹は2人を教室の外へと連れ出した。
「……なんで女子ってこうも人の色恋沙汰に興味深々なんだろうな」
「本当だな、よくわからないものだ」
「しょうがないじゃない。女の子って恋バナをし始めたら止まらないもの」
恵は苦笑しながら呟く。
「……ふふ、でも何だか楽しいですね」
「……そう思って貰えて何よりだな。でも、今日の放課後までの辛抱だ。それまでリサ達を園田さんに近づけさせないから安心してくれ」
「ありがとうございます山守君」
園田さんはニコっと笑顔を向けてくる。
「それはそうと、この調子だとお昼は教室で弁当を食う暇をくれないよな……。どこか別の場所で良い場所ってある?」
「……あの、中庭とかどうでしょうか?」
「中庭か……確かいい感じのベンチとか芝生とかあったもんな。よし、それじゃお昼は中庭で弁当を食べるとするか」
すると、樹が神妙な顔をして話始める。
「お昼は中庭で弁当を食べるのは分かったが……和樹、私はお弁当がないのだが」
樹はいつも学食で飯を買っていた事を完全に忘れていた。
「あー……たしかに。よし、それなら俺の弁当を少し分けてやろう!」
「……あの、私も少しでしたら分けましょうか?」
「……しょうがないわね。私も少し分けてあげるわよ」
「おぉ! ありがたい! 是非分けてもらおうじゃないか」
「よし、それじゃお昼はすぐに中庭へ移動しよう」
お昼休みの予定も決まったところで次の授業の予備チャイムが鳴り響き、俺達は教室へと戻っていった。
それからの短い休憩時間も同様に教室外で過ごし、4限の授業も終わりお昼休みとなる。
俺達は弁当を持って急いで中庭まで移動する。
「……結構、人いるんだな」
「……ものすごく別の場所に行きたいんだけど、ダメかしら?」
中庭に到着すると、結構なカップルが中庭でお昼ご飯を食べていた。
「いや、ここ以外で食べれる場所って言ったら、もう学食ぐらいだろ」
「……それもそうね」
「さ、場所も無くなるし食べる場所を決めよう」
俺は3人にそう言うと少し開けた芝生のスペースを確保する。
「この芝生いい感じにクッションになっていい感じだぞ。ここにしよう」
俺は芝生の上に座ると、恵達も同様に座り込む。
「あ、本当ね。柔らかい」
恵も芝生を手で触って確かめる。
「さぁ、和樹! 私はもう腹が減って仕方ない! 愛花ちゃん特製弁当を分けてくれ!」
「わかったから、ちょっとまってくれ」
俺は愛花が作ってくれた弁当を風呂敷から開けて箸と弁当箱を樹に手渡した。
「やっぱり愛花ちゃんの弁当は美味しそうだな! 是非頂こう!」
俺は弁当を樹に渡した後、恵達の弁当に視線を移す。
「恵もこの前から弁当だったよな。今日も色とりどりで美味そうじゃん」
「いいでしょ? この絶妙な色のバランスを保つのが楽しいのよ」
恵が弁当を見せつけて力説してくる。
「そういえば、愛花が料理って楽しみどころを見つける事が上達のコツって言ってたけど、恵も同じなんだな」
「そうね……。確かにパっと見だと料理って手間で面倒に思えるけど、楽しみどころを見つけると没頭しちゃうのよね」
「わかります! 私も家で料理を作ったりいつも弁当は自分で作っているんですが、最初は面倒だなって思っててもいろんな料理にチャレンジできるし楽しみどころを見つけると楽しくなってきます!」
「へぇ……やっぱり愛花の話って他の人にも通じるものがあるんだな。……ま、俺は愛花のサポートだけで1人じゃ料理なんて作れないんだけど」
恵達と雑談をしながら横目で樹を確認すると、樹は愛花特製の弁当を半分以上食べてしまっていた。
「……って食いすぎだろ樹! どんだけ愛花の弁当好きなんだよ!」
「あ、すまない……。愛花ちゃんの弁当が美味しすぎて止まらなかったのだ」
樹から取り返した弁当は8割ぐらいが消滅していた。
更に、樹から弁当をひったくる衝撃で箸が飛んで行ってしまい、少し離れた土の上に落ちる。
「あぁ箸が! そ、それに俺の弁当がぁ……」
「すまないな和樹、ちょっとあの箸洗ってくる!」
樹は落とした箸を拾って校舎の中に入っていった。
踏んだり蹴ったりで俺が悲しみに打ちひしがれていると、恵が話しかけてくる。
「……なら、私のを少し分けてあげるわよ」
「え、いいのか!」
恵の魅力的な提案で、テンションが一気に爆上がりする。
「えぇ」
「ありがとう恵! あ、でも箸……」
上がったテンションが急激に下がる中、近くでご飯を食べていたカップルの女子が男子の口に食べ物を入れている光景が俺達の視界に入る。
その光景を見ていた恵は、少し頬を染めながら弁当から箸で食べ物を掴み俺に向けてくる。
「……和樹君、あ~んして」
「ま、待て! さすがに恥ずかしい!」
「私たちは今付き合っている振りをしているんでしょ!? だったらこれぐらい当然よ」
吹っ切れた恵に何を言ってももう無駄な気がした。
「わ、わかった。それじゃ」
俺は目を瞑り口を大きく開ける。
「そ、それじゃ……あ~ん」
恵はそう言うと、俺の口の中に食べ物が入ってくる。
――パクッ
「んっ……んっ……」
恥ずかしい気持ちもあったが、単純に空腹の状態で美味しい恵の作った食べ物が胃の中に入ってきた事に感激する俺がいた。
目を開けて恵の弁当を味わう。
「うん! めっちゃ美味いな!」
「……そう? もっと食べる?」
頬を染めながら確認してくる恵。
「いいのか? もっとくれ!」
俺は羞恥心より空腹感が増していたので、それから恵から何度か食べさせてもらう。
「恵? ……えっと、恵の食べる分がなくなりそうなんだが」
「……え……あ! そ、そうね。後は私が食べるわ!」
「おぅ、ありがとう恵。めっちゃ美味かったよ!」
「……ど、どういたしまして」
そんな俺と恵のやり取りを、終始ニヤニヤしながら見ていた園田さんなのであった。
「面白かった! 続きが見たい!」
と思っていただけましたら小説投稿のモチベーションになりますので、
★評価とブックマーク登録をよろしくお願い致します。













