■53 状況証拠
それから家に到着した俺はメイド服に着替えた愛花の料理を堪能し、片付けを済ませた後のまったりした時間を愛花と共有していた。
「ん~……」
「……兄さん、どうかしましたか?」
「いや、撮影した動画や音声を皆に早く見せたくて仕方ないんだよ。でも正直、明日の放課後まで待ってられないんだよな」
「そうですね……。それなら、朝に皆で集まって見て貰えばいいんじゃないですか?」
「朝かぁ……確かに、運動部とか朝に練習してるもんな……ちょっと先生に聞いてみるよ」
「はい!」
返事を返す愛花を横目に、俺はNINEアプリから高橋先生に音声通話をかける。
「……はい、高橋です」
「あ、先生ですか? 山守です」
「山守ね、急に電話なんて何かあったの?」
「夜分遅くにすいません。ちょっと確認したいことがありまして……実は――」
俺は証拠映像と音声を残せた事を伝える。
「……すごいじゃない! 早速証拠を手に入れたのね」
「はい。そうなんですが、その証拠映像と音声を早く皆に共有したくて……。明日の放課後の部活動まで待てないんです」
「そうね……。それなら明日は1時間ぐらい早く学校に来るなんてどう? 山守達も早く学校にくれば部室を開ける事もできるし、そこでみんなで証拠を共有できるはずよ」
高橋先生は愛花の言っていた通りの提案をしてきた。
「分かりました! それじゃ、その事は俺の方から部員に伝えておきますね」
「えぇ、そうして頂戴ね。要件はそれぐらいかしら?」
「はい、ありがとうございました」
「わかったわ。それじゃまた明日」
「はい! 失礼します」
俺は音声通話を切った後、部員のNINEアプリグループに明日は1時間早く学校に向かう事を伝える。
部員の皆は驚いていたが、1時間早く通学してくれる話で落ち着いた。
「……よしっと。それじゃ俺達も明日は早く学校に向かうとするか!」
「はい兄さん!」
愛花はメイド服を着た姿でニコっと笑顔で返事を返してくる。
……あぁ、やっぱり愛花にメイド服は最強の組み合わせた。
「それじゃ私はお風呂の用意をしてきますね」
「あぁ、頼む」
それから俺達はそれぞれお風呂に入った後、明日に向けて寝ることにした。
起きた後、俺達はいつもより1時間早く通学する為にいつもより慌ただしく朝の仕度を済ます。
朝に弱い俺にとって、なかなか骨が折れるチャレンジだった。
「兄さん、早く行きましょ! 梓ちゃん達もう待ってるらしいです」
愛花はスマホを見ながら俺を急かしてくる。
「あぁ! えっと、弁当は入れたし、忘れ物は無いな。……おまたせ愛花。それじゃいこう!」
俺は玄関で待っていた愛花に合流して、学校へと向かう。
道中で梓ちゃんとアリサちゃんとも合流して、学校へ到着する。
「俺、職員室から部室の鍵を借りてくるから、愛花達は先に部室の方に向かっててくれ」
「わかりました兄さん!」
愛花達が部室の方へ向かうのを確認した後、俺は職員室へと向かう。
職員室の中に入ると教師はあまりおらず、高橋先生が手を振ってくる。
「おはようございます先生、朝早くからすいません」
「おはよう山守。いいのよ。活動熱心で関心するわ」
俺は高橋先生と挨拶を交わした後、部室の鍵を借りて高橋先生と部室へと向かった。
部室には既に恵達も到着しており、なんとそこには園田さんもいた。
「おはよう皆。……ってか園田さんも来てたんだ」
「おはようございます山守君」
「あ、おはよう和樹君! えぇ、無関係じゃないし私が呼んだのよ。それはそうと、昨日リサ達と会ったらしいわね」
「あぁ、すぐに鍵を開けるから部室で詳しく話すよ」
俺は恵にそう伝えると鍵で部室を開ける。
続々と部員が部室に入り、俺も中に入る。
「みんな、ソファーに座ってくれ」
すると、先生以外はソファーに座る。
「樹、ビデオカメラで問題の映像を皆に見せてくれ」
「わかった」
樹はそう言うと、鞄の中からビデオカメラを取り出し、テーブルに置いて小型画面が見えるように設置する。
「それじゃ……再生するぞ」
俺は再生ボタンを押し、昨日撮影した動画を部員みんなで視聴し始める。
…
……
………
視聴し終えた後、数秒沈黙が流れる。
「……和樹君、すごいわね。本当にリサ達が証言している証拠を用意してくるなんて……」
沈黙を打ち消すように恵が話出す。
「いや、俺も恵と同様に驚いたんだ。この証拠動画は俺の成果じゃない。樹の成果だ」
「ふ、戦場で培った状況判断能力が生きたようだ」
「……なんの話よ。でも、すごいわ! ……途中、斎藤君が園田さんの事が好きとか何だとか、よくわからない件はあったけど」
恵は昨日、俺が咄嗟に出した嘘について突っ込んでくる。
「あ、あれは状況的にしょうがなかったんだ! 本当の事、言える訳ないだろ?」
恵は少し照れている園田さんを見ながら話し続ける。
「……それもそうね。……でも、瞬時にそんなやり取りが出来るなんて、やっぱり和樹君と斎藤君って通じ合うものがあるのね」
「う~ん……そうか? ただ単に付き合いが長いだけだろう」
「そうだな。付き合いが長いからか和樹の無茶ぶりには何でも乗れる自信がある!」
樹はメガネをクイっと上げながら自信満々に言う。
俺は恵に視線を戻し、愛花の音声についても伝える。
「あと、愛花も音声データを残してくれているんだ」
「……ありがとう、愛花ちゃん。リサ達に絡まれて怖かったのにすごいわね」
「いえ、兄さん達がいましたから大丈夫でした! それに……豊崎先輩のお役に立てて嬉しいです!」
「……良い子ね」
恵は愛花の頭を撫でる。不覚にも愛花の頭を撫でたい衝動に駆られる。
グッと我慢した俺は高橋先生に視線を向けた。
「先生、これは物的証拠として使えるものなんでしょうか?」
「……えぇ。あ、でも物的証拠っていうより、状況証拠になるわね」
「……どんな違いがあるんですか?」
「物的証拠っていうのは、実際に暴行を加えている映像を残しておくものなの。今回は実際に嫌がらせをしていたリサ達の証言だから状況証拠として扱えるはずよ」
「要するに、証拠として使えるってことですね!」
「その通り、この証拠映像は私が預からせてもらうわ。音声データも後で私に頂戴ね」
「わかりました!」
その後、高橋先生は愛花のスマホから音声データを受け取る。
「それじゃ、私は山守達が用意した証拠を持って学校側に問題提起するわ。でも、今日は週末だし、おそらくあの問題児に直接指導できるのは週明けになるかもしれないわ」
「……え、すぐにリサ達に指導は入らないんですか?」
「そうね。昔は体罰や指導はすぐに出来たけど今は違うわ。安易に生徒に指導を入れると問題になるの。しっかりと私たちの大義名分を確立した状態にしないといけないわ」
「それじゃ……まだ園田さんは狙われるって事になるじゃないですか!」
「えぇ……だからこそ、山守達に園田の護衛をお願いしたいの」
「護衛……ですか?」
高橋先生は俺達を見回してから話始める。
「護衛っていってもそんな大したことじゃないわ。週末に園田さんを交えて遊んで来ればいいだけよ。山守達が傍にいれば安全でしょ?」
「……なるほど。わかりました!」
証拠映像の共有が無事に終わり、それから俺達は週末へ向けた遊び計画を立て始める事になった。
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