■48 大切なもの
会長は神崎さんの緊張を解すように優しく話始める。
「そんなに緊張しないでください神崎さん。気楽にいきましょう」
「は、はい! ……すみません」
「……それでは私から簡単に質問を行っていきますので、神崎さんはお答えいただけますでしょうか」
「わ、わかりました」
神崎さんは唾をのみ、膝の上に置く拳を強く握りしめる。
「ではまず、神崎さんは学園生活奉仕部にどういった相談をなさいましたか?」
「はい。……それは人と打ち解けるようになりたい。というものです」
「なるほど……ですが、それは日常生活を送っていく上で、自然と出来ていくものではなかったのですか?」
「……私にはできなかった理由があります。実は……私は小学生の頃から他の人には見えないものが見える体質で、その事を周りの人に話しても信じて貰えず、次第に変な目で見られるような生活を送っていたんです」
神崎さんは俺に打ち明けてくれた内容を会長に話始める。
「……続けてください」
「そんな小学生時代を過ごしている内に私は人と関わり合う事を避けるようになり、1人で過ごすことが多くなりました。そして……中学生に入ってからは、私の特殊な体質を知っている一部の人からいじめのような嫌がらせを受けるようになったんです」
神崎さんはそれから中学時代に受けた嫌がらせの数々を会長に包み隠さず話していく。
「――そんな三年間を過ごしていく過程で私は誰も信用できなくなり、何もかも……楽しくない日々を過ごしていたんです」
神崎さんは昔を思い出したのか、目に涙を浮かべながらも懸命に話す。
その話を会長は静かに聴いていた。
「そしてこの高校に入学した後、和樹さん達と出会い……部活に相談させて頂いたんです」
「……事情はわかりました。……辛かったのですね」
懸命に話し終えた神崎さんに会長はハンカチを渡す。
「……ありがとうございます」
「では、そんな神崎さんに学園生活奉仕部はどういった活動をしてくれましたか?」
「はい。和樹さん達は私に人と話す練習を行ってくれました。部員一人ひとりと今のように話をする機会を用意して頂き、私が人と話すことが出来るように練習に付き合ってくれたんです。会長と今もお話が出来ているのも和樹さん達のおかげです」
「……人と打ち解けるには話すことが必要不可欠ですからね。私と神崎さんが今お話しできているのは部活動の成果、という事ですか」
「はい。それに学校以外でも一緒にお泊りや動物園にも連れていってくれて……そんな事いままで経験したことなくて……本当に、本当に楽しいって思える時間を過ごす事ができたんです。和樹さん達は……私に人とのつながりの大切さを教えてくれました」
神崎さんは両手を胸に添えて思い出しながら話す。
会長も自然と笑みを浮かべながら話を聞き入っていた。
「そうでしたか……神崎さんはこれからどう過ごしていこうと考えていますか?」
「はい。和樹さん達のお陰で、人と一緒に遊んで過ごすことに楽しみを見出す事ができました。なので、これからは学校や家でも積極的に人と関わりあっていこうと考えています」
数秒間の沈黙の後、笑みを浮かべながら会長が話始める。
「……わかりました。質問は以上です。神崎さん、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそお聞き頂きありがとうございました」
話し終えると誰一人動けない状態だったのにも関わらず、愛花は駆け出し神崎さんを後ろから抱きしめる。
「麗子ちゃんっ!」
「わわっ! あ、愛花?」
会長は2人を見て微笑みながら立ち上がり、俺の方に視線を向ける。
「山守さん、素晴らしい活動でした。是非、これからも部活動に励んでくださいね」
「……会長、それってつまり……」
「……えぇ、山守さん達の部活動を認めましょう。これからも神崎さんの様に悩める学生たちの手助けとなってください」
「は、はい! 全力で手助けをしていきたいと思います!」
すると、他の1年生組も神崎さんの方へ駆け寄る。
「……麗子ちゃん!」
「麗子~!」
俺は微笑み合う1年生組を見守っていると樹や恵が近づいてくる。
「一件落着ってとこだな!」
「だな、神崎さんには後でお礼を言っておこう」
「……なんだか、不思議な感じね。私たちにとっては普段通りの事でも、神崎さんによっては特別な事で……」
恵は顔を左右に振って話を区切る。
「うぅん。細かい事はもういいわね。……ともかく、部活動承認おめでとう和樹君」
「あぁ、これも皆の協力のおかげだよ。ありがとうな、2人とも」
「ふ、当然の事だ」
「どういたしまして」
俺が2人にお礼を言い終わると、会長が話しかけてくる。
「山守さん、今回は正式に部として認めさせて頂きましたが、これからも定期的に部活動の監査を国枝さんに継続して行わせて頂きます。なので、気を抜かないようにしてくださいね」
「それはもちろんです! よろしくお願いします。国枝さん」
俺は会長の傍にいた国枝さんにお辞儀をする。
「あ、いえ。私もよろしくお願いしますぅ! 時々、部室にお邪魔させて頂きますね!」
「はい、わかりました!」
生徒会メンバーと話終えた俺は、1年生組の近くに移動する。
「神崎さん、ありがとう! 神崎さんのお陰で部活が正式に認められたよ!」
「い、いえ! 私に出来る事はこれぐらいで……お役に立ててなによりです!」
神崎さんは照れつつも良い笑顔で答えてくれた。
「ねぇ、麗子ちゃん! 麗子ちゃんがよかったら……私たちの部活に入ってみませんか?」
すると、傍にいた愛花が神崎さんに提案を投げかける。
「あ、確かに! どうかな、神崎さん?」
愛花の提案に賛同した俺は神崎さんの返答を待つ。
「……ありがとうございます! 私でよかったら……是非、参加させてください!」
話を聞いていた会長は机の中からプリントを取り出し、テーブルの上に置く。
「それなら神崎さん、この申請書に名前を記入をお願い致しますね」
「何々……部活動入部参加申請書か。会長、これって名前を書くだけでいいんですか?」
俺は会長が用意したプリントを見ながら質問をする。
「そうですね。……はい、ボールペンをどうぞ」
「あ、お借りします」
神崎さんはボールペンを借りると、紙に自分の名前を記入していく。
「それではお預かり致しますね。これで今日から神崎さんも学園生活奉仕部の一員となります」
会長はプリントを手に持ちながら、神崎さんに伝える。
「ありがとうございます!」
神崎さんは会長にお礼を言った後、俺の方に視線を向ける。
「和樹さんも、今回は相談に乗って頂き本当にありがとうございます! それと、これからもよろしくお願いします!」
「どういたしまして! これからもよろしくね。神崎さん!」
人から感謝を言われるほど、嬉しい事はない。
俺は作った部活動が間違っていなかったことを再認識し、会長の方を向く。
「会長、今日はお時間を作って頂きありがとうございました!」
「……いえ、これからの山守さん達の活躍、楽しみにしていますね」
会長は微笑みながら返答をしてくる。
「それでは失礼します」
そう言いながら俺達は生徒会室から出ていく。
生徒会室から出た後、俺は両手を握りしめ大声で叫ぶ。
「よっしゃー!」
「ちょっと和樹君! 声大きいわよ、生徒会にも聞こえるじゃない!」
「あ、そっか」
恵に突っ込まれてしまったが、今の俺はそんなことが気にならないぐらいうれしい気持ちで溢れていた。
なんたって、部活動が正式に認められたんだからな!
「面白かった! 続きが見たい!」
「今後どうなるの!?」
と思っていただけましたら
画面を↓に下げると【★★★★★】があります。
率直に思って頂いた1~5の応援をご自由にお願いいたします。
また毎日投稿していくので【ブックマークに追加】をして次話をお待ちして頂ければと思います!
なにとぞ、よろしくお願いいたします。













