■46 変化
朝起きると昨日の疲れは嘘のように消えていた。
「……やっぱり寝たら何とかなるもんだな」
『和樹君、おはようございます!』
『おはよう神楽耶』
俺は神楽耶と挨拶を済ませた後、トイレに行くため部屋を出て階段を下りる。
トイレに入る前にリビングの方から足音が聞こえてきた。
「おはよう、あい……か?」
すると、そこには昨日と同様にメイド服を着た愛花がいた。
「おはようございます兄さん!」
「……愛花!? その服、今日も着てくれているんだな!」
「あ、はい! 動きやすいですし、兄さんにも喜んでもらえますからね。これからはこの服で家事をしていこうかなって考えてます!」
「え、いいのか! それ、めっちゃ嬉しいんだが! ……あ、でもそれだと服の替えが必要になってくるな」
「そうそう。その事でご相談がありまして……私もそう考えて調べていたらこういった服って通販で買えるみたいなんですよ。良かったら兄さん、選んでもらっていいですか?」
愛花はそう言うとポケットからスマホを取り出す。
「え~っと……これなんですが」
「どれどれ」
愛花のスマホを覗き込むと種類豊富なメイド服がズラッと並んでいた。
俺はその中から目ぼしいものを2、3個選び愛花に伝える。
「これぐらいかな、あまり数があっても仕方ないし」
「ありがとうございます! それでは用意しておきますね」
「おぅ! じゃあ俺はトイレに行ってくるからまた後で」
「はい」
愛花はそう言うと脱衣所の方へと消えていった。
俺もトイレに入り座った後、愛花がメイド服に目覚めた事に軽くガッツポーズをする。
それからメイド服で用意してくれた朝食を食べた後、俺は朝食の後片付けを済まし弁当を鞄の中に入れ学校の用意をする。
「それじゃいきますか」
「はい!」
「「行ってきます!」」
そう言いながら家を出た俺達は、途中で梓ちゃん達と合流する。
「……昨日はありがとうございました、とても楽しかったです! また機会があれば遊んでくれると嬉しいです」
「是非、また機会があれば遊ぼうね!」
「……はい!」
「昨日楽しかったよね~! また遊ぶ時は私も誘ってよね!」
「もちろん、アリサちゃんも一緒にね」
「ふふ、またみんなで機会があれば遊びましょう」
俺達は昨日の事を共有しながら学校へと向かった。
程なくして学校へ到着すると、愛花達とお昼の待ち合わせの約束をして別れる。
その後、自分の教室に向かい、中に入ると既に樹や恵がいた。
「おはよう樹」
「和樹か、おはよう!」
俺は昨日樹と遊べなかった原因について尋ねる。
「もう宿題は済んだのか?」
「……ふ、長かった旅も終わってしまうとあっという間に感じるものだな」
樹は明後日の方向を薄目で眺めながら呟く。
「……どうやら終わったようだな、お疲れさん」
「あぁ、後半部分は適当だがな」
「俺も同じようなものだし、いいんじゃないか?」
「おぉそうか! もし補習になった時は一緒に頑張ろうじゃないか!」
「だな。その時はよろしく」
「おう」
俺は樹と軽く挨拶を交わした後、恵の席へと向かう。
「恵、おはよう」
「っ! ……おはよう和樹君。学校だとまだ慣れないわね」
恵は少し動揺したように返答してくる。
「ま、すぐに慣れるさ。それと、恵は昨日楽しかったか?」
「何よ改まって。……もちろん楽しかったわよ?」
「そっか、そりゃよかったよ。いや、梓ちゃん達がまた遊びたいって言っててな。恵もよかったらまた遊んでくれると嬉しい」
「そういう事ね。わかったわ、その時はまた誘って頂戴」
「あぁ、その時はよろしく」
「えぇ」
恵と挨拶を済ませた後、自分の席へ移動する。
椅子に座り鞄から教材を取り出し机に仕舞い、鞄を机の横に吊るす。
すると、高橋先生が教室に入ってきて朝のHRが始まった。
「おはよう皆、良い祝日は過ごせたかしら」
すると、クラスの生徒が賑わいを見せる。
他の連絡事項を済ませた後、高橋先生は部活の募集プリントについて話始める。
俺は思いっきり募集プリントの事を忘れていたので、高橋先生の言葉で募集プリントの事を思い出していた。
「――それで、新しく出来た部活動は学生の悩みを聞いて問題解決の手助けをしてくれる部活よ。今から配るプリントにQRコードがあるから相談したい事がある生徒は試しに相談してみるといいんじゃないかしら」
高橋先生はそうクラスの生徒に話すと、募集プリントを配り始める。
一先ず、これで生徒には部活の存在は知れ渡ったはずだろう。
それからHRが終わり、1限が始まっていった。
1限が終わった頃、スマホのNINEアプリから通知が届く。
「……ん? 誰からだ?」
確認すると神崎さんからだった。
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『おはようございます師匠!』
『おはよう、どうかした?』
『あの、次の休み時間って空いてますか?』
『うん。どうしたの?』
『えっと、お話したいことがありまして昇降口に来てもらえますか?』
『了解。次の休みって2限の後だよね?』
『そうですね』
『おっけー、それじゃ2限が終わったら昇降口に向かうよ』
『ありがとうございます師匠! それでは後ほど』
『また後で』
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神崎さんからの呼び出しか。……なんだろう?
程なくして2限目が終わり、俺はすぐに昇降口へと向かった。
すると、そこには神崎さんが待機していた。
「神崎さん、お待たせ」
「あ、師匠! すいません、急に」
「いや、全然いいよ。それでどうかしたの?」
「あの、聞いてください師匠! 私、見えなくなったんです!!」
一瞬何の事を言っているのか分からなかったが次第に理解する。
「……見えなくなったってまさか」
「はい。厳密にいえば、見えにくくなったと言った方がいいかもしれません」
「そういうのって変化するものなんだ……」
「現に和樹さんの傍にいた神楽耶さんも淡く光っているだけで姿は見えなくなっています」
俺は神楽耶に視線を移す。
『神楽耶、どう思う?』
『おそらく、直近で和樹君達と楽しい時間を過ごした事が要因だと思いますよ。前にも言った通り、面白い事や笑ったりすると近寄ってこなくなり、結果的に見えなくなりますからね』
『……確か、そんな事を前に言ってたな』
神崎さんに視線を戻す。
「そうなんだ……でも、良かったじゃん!」
「はい! 私もそう思ってすぐ師匠にお伝えしたいと思いまして呼んだ次第です」
「……そっか、俺しか知らないもんね」
「あはは……」
誰にも知って貰えない苦しみを抱いてきた神崎さんは、俺に打ち明ける事で見違えるように明るくなった。
そして、今も見えなくなった事をお互いに喜びを共有している。
……やっぱり、理解してくれる人がいるって大切なんだろうな。
「これで神崎さんを縛り付けていたものはなくなった訳だし、後は神崎さんの頑張り次第で友達の幅は広がっていくと思うよ。……もちろん俺達もその中にいるからな」
「……あ、ありがとうございます……私、師匠と出会えてよかったです!」
神崎さんは涙目になりながら話してくる。
「……そ、そんな、大袈裟だよ」
「いえ、そんなことないです!」
神崎さんは零れ落ちる涙を拭いながら力説する。
傍から見たら俺が泣かせたように見えてしまうが、そんなことは気にせず俺は笑顔で神崎さんを見守る。
すると、次の授業が始まるチャイムが鳴り響く。
「あ、それじゃまたお昼に学食で」
「はい! また後で」
俺は神崎さんと別れて自分の教室へとダッシュで帰る。
すると、神楽耶は満面の笑みを浮かべながら付いてくる。
『……なんだよ』
『ふふ、何でもないでーす』
はぐらかす神楽耶を横目に俺は教室へと急いだ。
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