■37 反省
それから間もなくしてパジャマに着替え終わった1年生組がリビングに戻ってくる。
俺は布団の上を正座で待機しており、愛花達がリビングに戻ってくるのを確認すると全力で土下座をする。
「さっきは本当にごめんなさい! タオルが足元に落ちてバランスを崩して突っ込んでしまっただけなんです!」
俺は頭を深々と下げて再度謝罪をする。
「あ……兄さん顔を上げてください。……えぇ、不可抗力ならしょうがないですし、私もさっきは怒鳴ってしまってごめんなさい」
顔を上げるといつもの優しい愛花がそこにいて、申し訳なさそうに謝罪をしてくる。
その隣には梓ちゃんと神崎さんが頬を赤らめ俺から視線をそらしてながら愛花の隣に立っていた。
……ちなみにアリサちゃんはいつも通りだった。
「梓ちゃん達もごめんね。いきなり脱衣所に突っ込んじゃって……」
「……いえ、私は全然……気にしてない……ので」
梓ちゃんは俺を一度見るが今にも消え入りそうな声で徐々に目線を反らしながら話していく。
非常に恥じらう梓ちゃんにうかつにもドキドキしてしまう俺の心臓を殴りたい。
「わ、私も気にしてないです。事故です事故!」
「あ、ありがとう梓ちゃんに神崎さん!」
神崎さんも頬を染めながら許してくれる。二人が優しい性格の持ち主でよかったと心底安堵する。
「愛花のお兄さん、ドンマイです!」
「ありがとうアリサちゃん……っ!」
アリサちゃんは特に気にしていないといった感じだ。心がそれだけ広いのだろう。
そんな俺と1年生組のやり取りを一部始終聞いていた豊崎が話し出す。
「山守君、着替え中に脱衣所に入っちゃったんだ。……まぁ事故みたいだったし、追及はしないけど、これだけは言わせてもらうわ。……私がお風呂に入っている時、脱衣場に入ってきたらシメるからよろしくね?」
「……はい、了解です」
俺は正座をしながら豊崎に返答する。
何をどうシメるのか非常に気になる……だが、今は深く追求はしないでおこう。
……なんか怖い。
俺がそんな事を考えている間に、豊崎は自分の鞄から着替えを取り出す。
「……それじゃ、次は私がお風呂を頂くわね。愛花ちゃん、こいつ見張っておいてね」
豊崎は俺を指さすとリビングから出ていく。
「はい! 豊崎先輩、いってらっしゃいです」
愛花に続いて他の1年生組も豊崎を脱衣所まで送り出す。
「さて、兄さん! 豊崎先輩が入っている間は脱衣所には近づいてはダメですよ?」
「分かってるさ。それじゃ豊崎が風呂に入っている間、何してる?」
俺は話題を変えて1年生組に尋ねる。
愛花は布団の上に散りばっているトランプを見る。
「私たちが入っている間はトランプをしていたんですか?」
「そうだな。2人だったからスピードで豊崎にボコボコにされてたよ。今回は人数も多いし、無難にババ抜きでもするか」
「そうしましょうか!」
愛花に続いて他の1年生組も賛同するのを確認すると、俺たちはトランプの周りで円を描くように座る。
「ルールの説明はいいよな?」
トランプを切りながら1年生組に確認をとる。
皆が頷き返す。
「それじゃ配っていくぞ」
俺はそう言いながらトランプを1枚ずつ配り始める。
一通り配り終えると、手札から合わさっている模様を捨てていく。
「誰から始める?」
「兄さんからでいいですよ」
「いいのか?」
すると他の1年生組も頷き返してくる。
「おっけ。それじゃ俺から愛花の時計回りでやっていこう」
「はい!」
それから俺と一年生組とのババ抜きが始まっていった。
先ほどのスピードの様に急いでやるゲームでもないので、俺の番が来るまでに1年生組の動向を観察する時間は十分にあった。
みんなそれぞれカードを引く反応が全く違うので見ていて全然飽きない。
ただ、見ているだけだと俺だけが楽しいだけなので、皆を楽しませる為に話始めることにする。
「そういえば、明日って休みだけど愛花達は何かする予定とかって決めてるの?」
「あ、はい! せっかくですので、皆で遊びに行けるといいね、とは先ほどお風呂で話していました」
愛花は思い出しながら話す。
「……うん! 皆で遊ぶの楽しそうです!」
梓ちゃんもニコっと微笑みながら愛花の話に賛同する。
「私もご一緒できるなら遊びたいな」
「私もー!」
神崎さんとアリサちゃんも同意見のようだ。
「そうだな、いい機会だし、明日は楽しく遊んでくるといいよ!」
「……兄さんは一緒に行ってくれないんですか?」
「え……俺も?」
俺はてっきり1年生組だけで行くものだとばかり思っていたが、そうではないようだ。
「……はい、和樹さんも……一緒だと嬉しいです」
梓ちゃんはまだ少し照れているようで、顔を赤らめながら話す。
……なんだこの可愛い生物は。
「和樹さんが一緒だと私も嬉しいです!」
「愛花のお兄さんがいればボディガードにもなるしね!」
神崎さんとアリサちゃんも同意見のようだ。俺にボディガードが務まるかどうかは疑問だったが、皆の好意を無駄にするのはよくないだろう。
「それじゃ明日は皆でどこか遊びに行くか!」
「はい!」
愛花や皆が返事を返してくる。
予定は決まったがいいが、実際どこに行くか考え始める。
「……それで、行く場所だけど何か候補とかってある? 多分、俺たちの学校以外は普通の日だから結構人は空いていると思うぞ」
「そうですねー……。梓ちゃんどこか行きたいところとかってありますか?」
「……動物園とか……行ってみたいな」
「ふむ、動物園か」
俺はポケットからスマホを取り出し、近くにある動物園を探す。
比較的近くにあり、値段もお手頃だったので候補の一つとしては申し分ないだろう。
「うん、近くにあるし、入園料もそんなに高くないね。いいんじゃない?」
「……えへへ、良かったです!」
「私は甘いものが食べたいな!」
「甘いもの?」
アリサちゃんは唐突に願望を呟く。
「うん! 私、甘いの大好きだから! みんなも好きだよね? ね?」
アリサちゃんは他の子たちに確認をとる。
「はい、美味しいですよね! 動物園でデザートやクレープなどの出店があれば買って食べましょうか」
「……うん! 甘いの大好き!」
「私も甘いのには目がない……」
愛花や梓ちゃん、神崎さんも甘いものが大好きの様子だ。もちろん俺も例外ではない。
「そうだな、何か美味しそうな出店もあれば食べてみるか。……ほかに何か候補はあるか?」
「あの、私あまり服持ってなくて、良かったらショッピングにも行きたいなっと思うんですけど……どうでしょうか?」
神崎さんは恐る恐る提案してくる。
今まで人と関わり合うのを避けてきた神崎さんが服を買いたいと望むのは大きな前進だろう。
「ショッピングかぁ、確かに俺も食材を買い出しに行こうと思っていたところだし、動物園の後にショッピングをしてもいいかもね」
「……兄さん、服と食材は売っているところが全く別々ですよ? 食材の買い物は後でいいですから服選びを手伝ってもらえますか?」
「へぇ、そうなのか? 俺あまり服をじっくり選んで買った事ないからな、わかったよ。明日みんなと遊び終わった後に食材を買いに行くか」
「わかりました兄さん!」
こうしてババ抜きをしながら明日の予定が決まるのだった。
明日の予定が決まったところで、神崎さんに休日明けの生徒会について伝えておくことにした。
「神崎さん、部活動についての話なんだけど、……いいかな?」
「あ、はい。何でしょうか?」
俺は神崎さんに一言断ってから話始める。
「神崎さんが今回俺たちの部活に相談していた”人と打ち解けるようになりたい。”って相談なんだけど、……どうかな? 改善できそう?」
「……そうですね! 最近はすごく楽しく過ごすことが出来るようになったと思います。これも和樹さんのお陰です!」
「それはよかった。……でも、それは神崎さんの頑張りの結果でもあるからね」
「……そうでしょうか?」
「うん。さっき豊崎にも言われたけど、人と打ち解けるようになるには絶対に”人と話をする必要”があるんだ。今もこうやって話をしているけど、愛花や梓ちゃん、アリサちゃんとも普通に話せるようになっているのは、……神崎さんの頑張りなんだと思うよ」
「……そうだと嬉しいです」
「うん。過去にいろいろあったと思うけど、今はこうして俺達と普通に話ができる。それをこれからも多くの人にしていけばいいんだと思うよ」
するとアリサちゃんが神崎さんに抱き着く。
「うんうん! これからは麗子にも楽しい事がたっくさん待っていると思うな!」
「……そうです。これからも楽しい事をいっぱいしていきましょうね!」
梓ちゃんもアリサちゃんに抱き着かれてドギマギしている神崎さんに向かって囁く。
「私も同じです。これからも一緒に頑張っていきましょうね。麗子ちゃん」
愛花は神崎さんに微笑みながら伝える。
「……愛花っ! ……ありがとう、みんな」
神崎さんは少し目を潤ませながら答える。
なんか湿っぽくなってしまったので、気を取り直して休み明けの生徒会について伝える。
「そこで、神崎さんにお願いしたい事があるんだけど……、俺たちの部活って実はまだ仮決定の状態なんだよね」
「……そうなんですか?」
「うん。生徒会長から1つ条件を突きつけられていて、それが”4月中に明確な活動実績を作る事”なんだよね」
「なるほど、そんな事があったんですね」
「うん。……そこで今回、神崎さんに生徒会長に活動実績を証言してほしいな~っと思ったりしてるんだけど……どうかな?」
「それで和樹さんのお役に立てるなら是非お受けします!」
「え、いいの!?」
「はい!」
神崎さんは速攻で快諾してくれた。
やった!
「ありがとう! それじゃ休日明けは放課後、生徒会室に一緒に来てもらっていいかな?」
「わかりました!」
「兄さん、私たちも同席していいかな?」
「もちろん! 部員みんなで生徒会室に突撃しよう!」
「……いいですね!」
「突撃突撃~♪」
話がまとまり俺たちはババ抜きに戻ろうとした時、脱衣所の方から豊崎の悲鳴が聞こえてくる。
「豊崎っ!?」
俺はトランプをその場に置き、すぐさま脱衣所の方へと駆け出す。
脱衣所に到着した俺は、一瞬豊崎から言われたシメる発言が脳裏を過ったがすぐにかき消した。
バンッ――
脱衣所の扉を大きく開け放つ。
「大丈夫か豊崎!」
そこには下着姿の豊崎が小さくしゃがみ込んで怯え切っていた。
「ななな、なんかいた。なんかいたの!」
豊崎は部屋の隅を指さす。
俺は豊崎が指さす方向を見ると、そこにはめちゃくちゃ大きいGがいた。
さすがの俺もビビったがすぐさま傍にあったバスタオルを掴み、思いっきり壁に張り付いていたGを押しつぶした。
「よっしゃ!!!」
俺はそのバスタオルからGが出てこないように包み込む。
「……ふぅ…。もう安心だ豊崎」
「……ほ、本当?」
「あぁ。このバスタオルの中に封じ込めたからな」
俺はニコっと豊崎に微笑みかける。
「よ、よかったぁ………」
豊崎は脱力してその場に座り込む。
……すると、次第に状況を理解し始める豊崎。
「……ってあんた、なに入ってきてるのよ!」
豊崎はパンティーとブラジャーを手で覆いながら急に豹変し始める。
「いやいや! お前が叫んだからだろうが!」
「いいから出てって!!」
「そんな無茶苦茶な!!!」
俺はGを包み込んだバスタオルを持って急いで脱衣所を出る。
「はぁはぁ……」
俺は脱衣所の扉を背にしていると愛花達も駆け付けてくる。
「兄さん、大丈夫でしたか?」
「あぁ、脱衣所にめちゃくちゃ大きいGがいたからこのバスタオルで仕留めたところだ」
「……和樹さん、すごいです!」
「ひぇ……」
「ねね! どれぐらいの大きさだった!?」
「……めちゃくちゃ大きかったぞ」
俺はそう言うとバスタオルを愛花に渡す。
「そ、そうでしたか。それではこのバスタオルは捨てておきますね」
愛花はG入りのバスタオルを親指と人差し指で摘まむように持つ。
すると、他の1年生組と一緒にリビングの方へと向かっていった。
「……ふぅ」
一呼吸置き、俺は落ち着きを取り戻す。
すると、後ろの扉を挟んだ先の脱衣所から豊崎の声が聞こえる。
「山守君……ありがとう」
「……どういたしまして、それじゃリビングに戻ってるな」
「……うん」
俺はそう豊崎に伝えるとリビングへと戻っていくのであった。
「面白かった! 続きが見たい!」
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