■36 2人の空間
俺は箱からトランプを取り出して切り始める。
「それじゃ何のゲームする?」
「2人で出来るゲームだから……スピードとかでいいんじゃない?」
「スピードね。確か、ジョーカーを抜いて赤と黒の模様別にカードの束を分けるんだよな?」
「そうね」
俺は早速切っていたトランプからジョーカーを抜き、赤と黒の絵柄に分け始める。
豊崎の方に赤い絵柄の束を俺の方に黒い絵柄の束を置いた後、お互いにカードの束を混ぜる。
「それでカードの束から手札を4枚表向きに置いて準備OKだな」
「えぇ、それじゃ始めましょうか」
俺たちは各模様のカードの束から1枚引いて掛け声と共に場におく。
「「スピード!」」
掛け声と共に勝負が始まった。
お互いに素早く手札から場に置く、豊崎はなかなかの手練れで非常に素早く手札をさばいていく。
このままでは負けてしまうと思ったので、俺は会話で集中を妨害する作戦を実行する。
「豊崎と俺の家でトランプで遊ぶってのも不思議な感覚だな」
「ええ……そうね。まさか山守君の家に泊まりに来るなんて想像してなかったもの」
豊崎は手の速度を変えずに返事を返してくる。
ぬぬっ……なかなかの集中力。
「そういえば、さっきあまりお泊りはした事ないって言ってたけど、クラスの女子同士でお泊り会ってしてなかったのか?」
「……あぁ、山守君は知らなかったわよね。入学早々に私ってクラスの女子と揉めたでしょ? あの後、私と仲良くするクラス女子がいたら揉めた女子グループがその子を標的にしていたの。だからあまり友達との関係が深まる前に私から離れて行ってたのよね」
思いがけない事実を知り、俺の手が止まる。
「……なんだよそれ、そんなことがあったのか?」
豊崎の手を止める為に話しかける作戦を行っていたが、まさか自分の手が止まるとは思わなかった。
「まぁね、山守君の方には行っていなかったようだし、おそらくクラスの女子から私を孤立させるのが狙いなんでしょうね」
確かに豊崎が1年の頃、俺や樹以外のクラスメイトとあまり一緒にいるのを見ていなかったような……。
「なるほどな。……それってまさか、今も続いてたりしないよな?」
もし一緒に行動している1年生組に魔の手が迫っているとしたら、俺は正気を保てる自信がない。
「……どうかしら。1年の頃に仲良くなりかけていた子が急に私を避け始めた時に問い詰めて発覚したことだからね。その後、実際に揉めた女性グループに問い詰めても知らないの一点張りだし。自然とクラス女子と関係を深める事はしなくなっていった感じね。だからこそお泊り会にいく機会なんて全くなかったのよ」
「……そんな事があったんだな。……いや、女子って怖いな。裏で何をしているかわかったもんじゃない」
「私もそう思うわ。……でも、まぁそんな1年だったけど、山守君達のお陰で寂しくない1年生を過ごせたと思うし、ちょっとは感謝しているのよ?」
「そりゃよかった。でも言ってくれれば俺と樹で対処したのにな」
「……そこまで望むのは……」
豊崎は小さく呟くが後半何を言ったのか上手く聞き取れなかった。
「ん? なんだって?」
「……いや、何でもないわ」
「そっか。ま、豊崎にはいろいろ部活動では助けられているから今後は何かあれば何でも相談しろよ? 豊崎は大切な部員だからな」
「ありがと。……でも私そんなに部活動に貢献できているのかしら?」
「そりゃもちろん! 豊崎がいなかったらお悩み募集フォームだったり、1年生組のサポートが出来ていなかったからな。年上の女性がいると安心感があるんだろうな、めちゃくちゃ助かってるよ」
「そう。……それならよかったわ。1年生の時のお礼もあるし、いろいろ言って頂戴ね。出来る範囲で協力させてもらうわ」
「あぁ、その時は頼む」
俺と豊崎は共に微笑み合う。
2人の空間に暖かいものを感じながら俺たちはトランプゲームに戻るのだった。
程なくしてスピードでボッコボコのけっちょんけっちょんにされた俺は不貞腐れながら布団に寝転がる。
「ダメだぁ! 強すぎる!!」
「ふふ、修行して出直してきなさい」
布団から起き上がり、不敵な笑みを浮かべる豊崎に向かい合う。
「よし! それじゃ気を取り直して種目を変えようじゃないか!」
「えぇ、望むところよ」
俺がトランプの束を集めようとしたときに、脱衣所の方から愛花の声が聞こえてくる。
「にいさーん! ちょっといいですか?」
「どうかしたかー?」
俺は座ったまま、愛花の方に向かって返事をする。
「バスタオルきらしちゃって、持ってきてもらっていいですかー?」
「わかったー!」
「……それじゃ、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」
俺は豊崎にそう言いながら立ち上がると、リビングにあるタンスからバスタオルなどを多めにまとめて持って脱衣所の方へと向かった。
脱衣所に到着する直前、持ちすぎていたタオルの1枚が足元に落ちる。
「っわわ!」
タオルに足を取られバランスを崩した俺は勢いよく脱衣所の扉にぶつかる。
バンッ――
愛花が少し開けていた脱衣所の扉は躓いた俺の手で大きく開け放たれた。
「キャッ!」
愛花は扉に押され少し後に下がり、俺は盛大に顔面から脱衣場に転がりこんでしまう。
「いててて……」
顔を上げるとそこにはお風呂上りでまだ何も着ていない1年生組が脱衣場にいた。
「か、か、和樹さん!」
「……か、和樹さん!」
「愛花のお兄さんだいたーん!」
神崎さんや梓ちゃん、アリサちゃんは下と胸を隠しながら俺を驚きの表情で見つめてくる。
知らない間に梓ちゃんも成長したんだなぁ……。
そんな事を思っていると、後ろから恐ろしい気配を感じとる。
「……兄さん」
「……あ、はい」
振り返ると、皆と同様に下と胸を手で隠した愛花が恐ろしい笑顔を俺に向けていた。
「出て行ってください!!」
愛花は珍しく大きな声で俺に告げる。
「す、すいませんでしたー!!!」
思いっきり謝罪をした俺は急いでリビングに戻る。
『ふふ……』
『……神楽耶、もしかしてお前の仕業か?』
『さぁ、どうでしょうね?』
着崩れた状態でリビングに到着した俺を見るや否や豊崎は突っ込んでくる。
「……何をしてきたのよ」
「頼む、何も聞かないでくれ……」
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