■33 雑談とキムチ鍋
俺はアリサちゃんの隣の椅子に腰を落とす。
「そういえば、アリサちゃんは部活で神崎さんと雑談してなかったけど、普段は2人で話したりするの?」
「ん~、2人っきりってのはないかな。いつも愛花や梓が傍にいるからね!」
「女友達ってそういうものよね。学校だといつもそろって行動するからあまり一人ひとりで話す機会ってそうそうないのよ」
豊崎から女友達事情を聞く。俺も顔見知り程度の知人はいるが、ガッツリ話すのは樹ぐらいでいつも一緒に行動していたからあまり気にならなかった。
「そうなんだ。いろいろあるんだな。それじゃいい機会だし、神崎さん。アリサちゃんといろいろ話してみたら?」
「そうですね和樹さん!」
「よし、それなら向かい合った方がいいだろう」
俺はアリサちゃんと席を変わり、神崎さんとアリサちゃんが対面になるようにした。
「さ、これで準備OKだ」
「はい! それじゃアリサ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね麗子!」
「えと……確か、アリサは中学の時にアメリカから日本に来たんだよね?」
「そう! お父様のお仕事の関係でね。確か小学校を卒業してすぐだったから……それから2年後の中学2年の後半に日本に戻ってきた感じ!」
「なるほど……それからアリサは愛花達と出会ったって感じなんだ」
「うん! ……でも、初めはこの髪色のせいもあってなかなかクラスに馴染めなかったんだよね」
アリサちゃんは自身の金髪を弄りながら呟く。
「確かに日本だと目立つ髪色だもんね」
「まぁね! それでなかなかクラスに馴染めずにいたんだけど……その時に愛花の方から話かけてくれたんだ!」
「へぇ……なんか、私の時と似てますね!」
「あ、本当だね!」
「……確かに、中学の時に俺の家に来た時のアリサちゃんって今みたいに元気なアリサちゃんじゃなかったもんね」
「そ、そうでしたっけ? あはは……」
俺は思い出しながら話していた。最初もある程度は元気ではあったが……どこか遠慮しているような雰囲気を出していて、次第に素を出すようになった感じだ。
「そう考えると愛花にはとても感謝ですね。こうやって和樹さんや皆さんと出会えた訳ですから」
「そうだね! 私も後で愛花に抱きついて感謝を伝えておくかな!」
「あぁ、直接伝えてくれると愛花も喜ぶよ」
「……山守君、顔が緩みきってるわよ」
豊崎に指摘された通り、俺は愛花の事を賞賛されて自分の事のように嬉しくなった為、頬が完全に緩みきった顔をしていた。
少し恥ずかしくなった俺は豊崎にお返しをすることにした。
「……豊崎にもそういった友人はいないのかよ」
「え、私? ……まぁ、そこそこ仲良くして貰ってる子はいるけど、正直そこまではって感じね」
「なんだ、結構普通なんだな」
「普通で悪かったわね。……最近だと部活関連で付き合い悪くなってるし……ま、こっちの方が楽しいから全然いいんだけど」
「ほぉ……それは何より」
俺はニヤニヤしながら豊崎を見つめる。
「……何よ、変な顔して」
「べっつにー……っと、ごめんごめん話さえぎっちゃったね」
「あ、いえ全然いいです! ……えと、アリサは料理とかしないの?」
「私はしないかなー、いつもお母様が作ってくれるから私は食べる専門なの!」
アリサちゃんは俺と同様に料理が出てくるのを待つ側の人間なので、妙に親近感があるんだよな。
「アリサちゃんってお母さんの事、めちゃくちゃ好きだよね?」
「うん大好き! 料理は美味しいし、優しいし何でもすぐに許してくれるから」
「そうなんだ。逆にお父さんはどうなの?」
「う~んと、そうだなぁ。仕事が忙しくてあまり家にいないからなぁ……」
アリサちゃんはうんうんと考えながら話していく。
俺の家も芳樹おじさんが仕事でなかなか帰ってこない日が多いが、だからこそ帰ってきた日はお祭り騒ぎのように喜んでいる。
だが、どうやらアリサちゃんはそうでもないようだ。
「へぇ~、家によって違うんだな。……確か、神崎さんの親御さんも夜遅いんだったよね?」
「そうですね。……家で1人でいるのもアレなので、いつもは外で出歩いていますが……」
一瞬神崎さんに影が落ちる。……うん。やっぱりこの話題を振るのは辞めておこう。
「豊崎の家はどうなんだ?」
「そうねー。私は逆に母さんがバリバリ働いていて、父さんが家事とか料理作ってるから他の家とちょっと変わっているのよね」
「そうなんだ! なんか妙に納得しちゃうんだけど」
「……それはどういう意味かしら山守君?」
「いや、深い意味はないよ。豊崎って普通はスルーするような場面でも曲がった事やおかしいって思った時ってズバッと指摘するだろ? 1年の時もそうだったし、普通は周りの目が気になって出来ないからね。すごく良い事だと思うし……それって母親の影響もあるのかなって思ってさ」
「……確かに、言われてみればそうかもね。……ふふ、山守君もたまにはいい事言うわよね」
「たまには、は余計だ!」
すると、台所から愛花の声が聞こえてくる。
「お待たせしましたー! 晩御飯の用意が出来たので、皆さんお皿の用意をお願いできますか?」
「お! とうとう待ちわびたキムチ鍋の完成か!」
話に夢中になって気づかなかったが、いい匂いがリビングにも届いていた。
俺たちは席から立ち上がり、キムチ鍋の取り皿を人数分テーブルに配置していく。
テーブルの中央に濡れタオルを敷き、その上にキムチ鍋の入った土鍋を移動する。
「結構重いな……っとと」
土鍋を濡れタオルの上に配置し終えると、愛花がキムチ鍋を人数分に配分していく。
非常に気の回る優秀な妹だ。
「……和樹さん、ちょっといいですか?」
台所から梓ちゃんに呼ばれたので台所まで移動する。
「どうかした梓ちゃん」
「人数分のホットミルクとサラダもテーブルに持っていくの手伝って頂けますか?」
「もちろん喜んで!」
俺は笑顔で快諾すると、ホットミルクを片手に3つずつ持ってテーブルへと持っていく。
梓ちゃんも大き目のボールに入ったサラダをテーブルへと移動させて配置いていく。
それを確認した愛花が皆に向かって話始める。
「一通り準備が終わりましたね。皆さん、最後の締めにはうどんも用意しています! 今日はキムチ鍋を思いっきり楽しみましょう!」
「よ! 待ってました!」
「早く食べましょう」
「美味しそう!」
愛花と梓ちゃんもエプロンを脱ぎ終わり、テーブルに戻ってきた。
「さて、それじゃ食べるとしますか」
俺が合図すると、皆で頂きますをする。
「あ、キムチ鍋を食べる前にホットミルクを飲んでくださいね。ミルクを先に飲んでおくことで胃もたれを軽減することができますから」
愛花の提案通り、俺も含めてホットミルクを飲んだ後にキムチ鍋を食べ始める。
「あと兄さん! 兄さんの為に特製の粉唐辛子を用意しておきました! お好きな分量を取り皿にまぶして食べてくださいね!」
「でかした愛花! 早速使わせてもらうな」
俺は愛花から特製の粉唐辛子を受け取ると、取り皿に入っているキムチ鍋にまぶしていく。
「……ちょっと、かけすぎじゃない山守君? もうキムチ鍋っていうか、赤い何かになってるわよ」
「ふっふっふ、これを汁にしっかりと混ぜてから食べるのが良いんだよ!」
「そ、そうなのね。何か見てるだけでも胸やけしちゃいそう」
「試しに豊崎も食べてみるか?」
「遠慮するわ。……って言いたいところだけど、好奇心に負けちゃうわね。ちょっと食べてみていいかしら?」
「おぉ! 豊崎も辛さの世界に一歩踏み出す好奇心を持っていたんだな!」
俺は嬉しくなり小さい小皿に具材と赤い汁を入れて豊崎に渡す。
「……もうこの段階で、私の取り皿のキムチ鍋と違うものになっているんだけど、大丈夫?」
「それは食べてからのお楽しみだ」
俺と豊崎は同時に赤いキムチ鍋を食べ始める。
パクッ――
……キタキタキター!! この口内に広がる猛烈な辛味! あぁ……このカレーとは違った辛さを楽しめるからこそキムチ鍋は辞められない! !
「んー!!!!!」
目の前では豊崎が予想通りびっくり仰天し、すぐに水をガブ飲みしていた。
「どうだ豊崎、ヤバいだろ? お代わりするか?」
「はぁ……はぁ……もう結構です!」
「あはは……兄さん特製の粉唐辛子なので、ちょっと辛さ強めにしちゃってます」
「愛花ちゃんのせいじゃないわよ。私の好奇心が悪いだけ。……もうしばらくは辛いのはいいかな」
土鍋に入っているキムチ鍋の辛さはそれほどのものではなく、愛花はいい感じに調整しているようだ。
俺にとっては物足りない辛さだが、手元にあるこの粉唐辛子さえあえば、辛さは自由に調整可能って訳だ。
程なくしてキムチ鍋の具材を食べ終え、汁のみが残った状態になる。
「それじゃ少しうどんを入れて温め直してきますね!」
そう言うと愛花は土鍋を台所まで移動させる。
俺も含めて皆は大変満足しているような表情をしていた。
「みんな、キムチ鍋はどうだった?」
「えぇ、すごく美味しかったわ。……最初に山守君からもらったやつ以外は」
「あー美味しかった! やっぱり愛花の作るご飯は美味しいな! もちろん梓も、だけど」
アリサちゃんも満足したような表情で梓ちゃんに話していた。
「……よかったです! 麗子ちゃんもどうでしたか?」
「すごく美味しかった! さすが愛花と梓ね。また食べに来たい気分よ!」
「……ふふ、また機会があれば食べてくださいね」
すると、台所から愛花がうどんを入れて温め直した土鍋をテーブルへと持ってくる。
「お待たせしました! 最後の締めにうどんを入れています。さ、食べてくださいね!」
「よっしゃ、それじゃ最後のラストスパート決めますか!」
俺はそう言うと用意されたキムチうどんを食べ始める。
美味しいキムチ汁にうどんの相性が絶妙で予想以上に美味かった為、最後の締めのキムチうどんは瞬殺で無くなってしまう。
「……めちゃくちゃ美味かったな」
「……えぇ、うどんとキムチって相性抜群ね」
豊崎と他の皆も同意見で非常に満足のいく晩御飯を提供できたようで愛花はホッと胸を撫でおろしていた。
「お疲れ様、愛花」
「ありがとうございます兄さん!」
しばらく腹を落ち着かせる為にまったりテーブルを囲って過ごしていたが、梓ちゃんがふと話だす。
「……この後、皆さん泊まられるんですよね?」
「面白かった! 続きが見たい!」
「今後どうなるの!?」
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