■32 お出迎え
愛花は一応泊まりに来る人にキムチ鍋が問題ないかスマホから確認する。
すると、すぐに返答が帰ってきて全員問題ないようだ。
「それじゃ兄さん、早速キムチ鍋の下準備を始めましょう!」
「おぅ!」
まず愛花が取り出したのは、大き目の土鍋だった。
「まずはだし汁から作りますね」
「だし汁ね。……で、俺は何をすればいい?」
「まずは煮干しの下準備です!」
愛花はそう言うと棚からパッケージに入った乾燥煮干しを取り出し、まな板に無造作に複数個置いていく。
「この煮干しの頭とハラワタを取り除いていきましょう!」
「……そのままじゃダメなのか?」
「ダメってほどではないですが……頭とハラワタを取り除くことで、だし汁の苦みを抑えることが出来るのであっさりとした味になるんです」
「……なるほど、ひと手間加えるって感じか。それじゃ、やっていこう!」
それから俺と愛花はまな板に用意された煮干しの頭とハラワタを取り除き作業を始める。
一通りの除去作業を終え、次々と土鍋に入れていく。
「そして、更に昆布を入れてっと……後は水を入れて30分煮込んでいきましょう!」
「了解。その間は何をしているんだ?」
「次は素材の下準備です!」
そう言うと愛花は冷蔵庫からネギ・ニラ・えのきだけ・豆腐・豚肉を取り出してくる。
豚肉をパッケージから取り出し、中程度サイズのボールに入れて塩・ゴマ油・おろしにんにくをまぶしたものを俺に差し出してくる。
「私は野菜の下準備をしているので、兄さんはこのボールに入った豚肉を思いっきり混ぜこんで貰えますか?」
「まかせろ!」
俺は愛花からボールを受け取ると、全力で豚肉をこねくり回す。
こねくり回しながら隣で手慣れた手つきで野菜達をカッティングしていく愛花を見つめる。
「……まさに料理人って感じだな」
「ふふ、何ですか急に」
「……いや、何となく思っただけ」
一通りこねくり回したあと、愛花に豚肉の入ったボールを手渡すとフライパンにごま油を引いて豚肉を炒め始める。
ジューッ!
「うぉ……めちゃくちゃいい匂い、もうこれを食えばいいんじゃないか?」
「……もちろんダメですよ? 豚肉を先に炒めておくのがキモなんですから」
「あ、はい。すいません」
ある程度豚肉を炒めた段階で冷蔵庫からキムチを複数個取り出す。
「それじゃキムチも豚肉と一緒に炒めちゃいます」
そう言うと愛花は炒めている豚肉の中にキムチを一気に入れていく。
「おぉ、豪快だな! ……もう美味そうなんだが」
「もう少し我慢ですよ兄さん? しばらく炒め終わったら先ほどから煮込んでいる煮干しと昆布のだし汁と合わせていきます!」
愛花は煮込んでいる土鍋の方を見ながら話す。
俺も釣られて煮込んでいる土鍋の中を覗き込む。
「……そろそろいい感じじゃないか?」
出汁がしっかり出ており、水がいい感じの色に変わっていた。
愛花ものぞき込んで確認してくる。
「ん~……もうちょっとですね。豚肉の炒める火を少し弱めて様子をみましょう」
「りょーかい!」
するとリビング内にインターホンが鳴り響く、誰か来たようだ。
「お、誰か来たみたいだな、俺が行ってくるよ」
「お願いしますね兄さん」
俺はエプロン姿のまま玄関に向かい、扉を開ける。
「いらっしゃーい! お、一番乗りは豊崎か。……なんか荷物多くない?」
「男子と違って女の子はいろいろ必要なのよ。それじゃ……お、お邪魔します」
「なんかいつもの学生服じゃない豊崎ってのも何か不思議な感じがするな」
「そうね。山守君のエプロン姿も見ていて不思議な感じがするもの」
「あぁこれか。今愛花とキムチ鍋作っていたところだからな」
「そうなのね。どおりでいい匂いがすると思った」
豊崎は靴を脱ぐと靴を揃える。
「豊崎が家に来るのって初めてだよな? こっちがリビングだ」
俺は愛花がいるリビングへと豊崎を誘導する。
リビングに到着すると台所にいる愛花がこちらを見る。
「あ、豊崎先輩いらっしゃいです! 今キムチ鍋の準備中なのでもうしばらくおまちくださいね!」
「お邪魔するわ。もういい匂いがしているから楽しみにしてるわね」
豊崎は愛花と挨拶を終えるとソファーに鞄を置いてテーブルの傍にある椅子に座り込む。
「結構広い家に住んでいるのね」
「まぁな、豊崎も今日は自由に寛いでくれ」
「そうさせてもらうわ」
すると、またもやインターホンがリビングに鳴り響く。
「お、続々到着していくな。俺が行ってくるよ」
「お願いしますね兄さん」
「お願いねー」
玄関に到着して扉を開けると、私服の神崎さんが小さめの鞄を持って立っていた。
「いらっしゃい神崎さん! どうぞ、上がってよ」
「はい! お邪魔します師匠! ……それに神楽耶さんも」
「こんばんはです、神崎さん!」
神崎さんは普通に神楽耶に挨拶し、俺を師匠と呼んできたので釘を打っておくことにする。
「(あ、今日は皆もいるので師匠はなしで、あと神楽耶の事も言わないように!)」
「あ、すいませんつい……」
「さ、気を取り直して」
「はい! お邪魔します和樹さん」
靴を脱いだ後、豊崎同様に靴を揃える神崎さん。
皆、基本的に礼儀正しいんだな。俺だったら多分しないだろう。
「さ、こっちがリビングだよ」
「はい!」
俺は神崎さんにリビングへと案内する。
「神崎さんが到着ー!」
「あ、麗子ちゃん! いらっしゃいです!」
「こんばんは、神崎さん」
「愛花も豊崎先輩もこんばんはです!」
神崎さんは豊崎と同様にソファーに鞄を置いて豊崎の隣に座る。
「豊崎良かったな、神崎さんに気に入られてんじゃん」
「そ、そうかしら?」
「は、はい! なんか強い女性って感じがして……」
「た、確かに……」
「……何よその顔は」
「……さて、愛花の手伝いをしてくるか」
「待ちなさいよ!」
豊崎を華麗にスルーして愛花の様子を見る為に台所へと移動する。
「どんな感じだ?」
「あ、はい。だし汁が出来たので、豚肉やキムチ、野菜やお豆腐などを入れて今煮込んでいる最中ですが……キムチ鍋だけだと量も足りないと思いますので、他に何か作ろうかと考えていたんです」
「確かに6人分だしな、キムチ鍋だけじゃ足りないかもな」
「そうなんですよね……」
すると、またインターホンが鳴り響いた。
「おっと、それじゃ行ってくる」
「お願いしますね兄さん」
「なんか山守君も大変ね」
「いや、全然! 今日の俺は雑用係なので何なりと申しつけくださいませ!」
「へぇ、いい心がけね。後で楽しみにしてなさい雑用係さん」
豊崎と軽口を交わした後、玄関へと急ぐ。
「ごめーん、今開けるねー」
扉を開けると、そこには梓ちゃんとアリサちゃんの2人がいた。
「お、2人で来たんだね。いらっしゃい!」
「……お、お邪魔します!」
「お邪魔しまーっす!」
2人の荷物は神崎さんと比べると少し大きめの鞄を持っていた。
靴を抜いた後、梓ちゃんは靴を揃えていたがアリサちゃんはそのままだった。
同志がいて少しホッとしながら俺は2人をリビングへと案内する。
「梓ちゃん達が到着ー!」
「いらっしゃいです! 晩御飯の用意が出来るまで待っててくださいね!」
「……お邪魔します! えと、愛花ちゃん。私も手伝います!」
「ありがとうございます梓ちゃん、お願いできますか?」
案の定、梓ちゃんは料理を手伝う流れになる。
「それじゃ私は椅子に座って待機してるねー!」
そう言うとアリサちゃんは豊崎の対面の椅子に座る。
手が空いた俺は、テーブルを囲っている女性陣に視線を移す。
さて、料理が出来るまで豊崎と神崎さんとアリサちゃんを全力で楽しませる雑用係の使命を全うすることにしよう。
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