■30 部活動②
梓ちゃんと神崎さんの用意が済んだので、俺も神崎さんの後ろにスタンバイする。
「それじゃ神崎さん、次は梓ちゃんと雑談をしてみようか」
「分かりました和樹さん!」
神崎さんも慣れてきたのか軽快に返事を返してくる。
「梓ちゃんもお願いね」
「……はい! 麗子ちゃん、お手柔らかにお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
梓ちゃんと神崎さんがお辞儀をし終えると俺はさっそく神崎さんに小声でサポートを行う。
「(それじゃ、さっきの要領で趣味の質問をしてみようか)」
「それじゃ……梓のご趣味は何ですか?」
「……えと、愛花ちゃんと被りますが料理が好きですね」
「なんと! 選手交代でも先ほどと同様の質問だ! 解説の豊崎さん、やはり趣味を質問するのは有効な手段なのでしょうか?」
「そうね。でも、人によっては趣味がない人もいるから話が発展していかない諸刃の刃とも言える質問になるわね」
また樹達が実況をし始めていたので俺はすかさず神崎さんを小声でサポートする。
「(よし、そのまま深堀していこうか)」
「梓は何で料理を作るのが好きになったの?」
「……そうですね。愛花ちゃんと出会う前の私って引っ込み思案であまり好きってものが無くて……愛花ちゃんと出会ってからは一緒に作っているのがとても楽しくて……気づいたら料理が好きになっていた感じです」
「またもや質問の深堀作戦だ! 今回は友情を感じる理由で少し尊さを感じたが解説の豊崎さん、これは女性アルアルなのでしょうか?」
「その通りよ。相手の好きな事を好きになるっていうのは、仲を深める上でとても有効な手段になるわね」
梓ちゃんの回答に部室内にほわ~ん、とした雰囲気が漂いつつ樹は負けじと実況を続ける。
子供の頃から愛花と梓ちゃんが料理をしていた風景を見ていた俺としても尊さを感じてしまった。
「梓も料理を食べて貰えて嬉しい人っているの?」
神崎さんは気になったのか、俺のサポートなしで質問を続ける。
「……えと、愛花ちゃんと一緒に料理を作り始めた当初はあまり気にしてなかったですが……最近だと和樹さんに食べてもらえるのが嬉しいなって……感じますね」
「おぉっと、またもや和樹に対しての想いを暴露していく小泉選手! 解説の豊崎さん、やはり自分の作った料理を相手に食べてもらうのは嬉しいものなのでしょうか?」
「それはそうよ、私だって……って私の事は良いとして、相手に喜んでもらえるのは自分も嬉しくなってしまうものよ」
何やらまた話がおかしな方向へと進んでいるような気がする。
「梓って和樹さんの事はどう思っているの?」
「……えと、とても頼りになりますし、私と仲良くしてくれている愛花ちゃんのお兄さんでとても尊敬……しています」
「小泉選手の純粋な想いを引き出していく神崎選手! 好奇心のなせる技なのか、鋭い質問がどんどん出てきます! 解説の豊崎さん、やはり女性はこういった話に興味があるものなのでしょうか?」
「えぇ、女性が集まるとこういった話になりがちよ。私はあまり慣れないけどね」
「それじゃ――」
神崎さんは次の質問をしようとした瞬間に俺が割り込む。
「ちょーっとタンマ! ……神崎さん、ごめん。質問だけど、恥ずかしいから俺についての質問はあまりしないでもらえると嬉しいかな、あはは……」
さすがに後ろで聞いている手前、超恥ずかしいので神崎さんに釘を打っておくことにした。
「あ、そうですよね……すいません」
「全然いいよ! それ以外だったらバンバンしてもらっていいからね。雑談の肝は相手に興味を持つことだからどんどんしていこう!」
「わかりました!」
「うん! 梓ちゃんも相手役を引き受けてくれてありがとう」
「……いえ、とんでもないです!」
「それじゃ雑談相手も変更しようか。えーっと……」
「……あの、私。豊崎先輩ともお話してみたいです!」
俺が次の相手を誰にしようか考えていると神崎さんからご指名が入る。
「……え、私? 別にいいけど、でも実況中継はどうするの?」
「そうだな。……それじゃ俺が代わりに解説に入るよ」
神崎さんは俺のサポートなしで雑談していたし、何とかなるだろう。もし、沈黙が続くようなら戻ればいい事だ。
豊崎は実況席から立ちあがり梓ちゃんの方へと移動し、俺は先ほどまで豊崎が座っていたパイプ椅子に腰を落とす。
「小泉さん、選手交代よ」
「あ、はい!」
豊崎は梓ちゃんと入れ替わるようにソファーに座り、梓ちゃんは実況席側のパイプ椅子の方へ座る。
「よし、準備OKかな? それじゃ初めてくれ!」
俺の号令で神崎さんと豊崎さんが向かい合う。
「よろしくね。神崎さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。豊崎先輩」
お互いに挨拶を終える。最初に話始めたのは神崎さんだ。
「豊崎先輩って普段何をされているんですか?」
「広い質問ね。えーっと……最近だと部活関連で山守君たちと一緒に行動することも多かったかな」
「さて、和樹のサポートなしで神崎選手の会話をスタートしました! 解説の和樹さん、この質問は効果的なのでしょうか?」
「そうですね。相手の事を知るためには効果的な質問でしょう。どう会話が発展していくのか楽しみです」
樹からさん付けされるのが新鮮だと思いつつ、樹のテンションに合わせていく。
「豊崎先輩はよく和樹さん達と一緒に行動してるんですか?」
「そうね。去年も同じクラスだったからその名残でよく話すわね」
「おっと、神崎選手! またもや和樹さんに関連する話題を新たに突きつけてくる! 解説の和樹さん、この話題は問題ないのでしょうか?」
「問題ないでしょう! どう会話が続いていくのか楽しみです!」
神崎さんは豊崎に余程興味があるようで、間髪入れずに次の質問をする。
「豊崎先輩が和樹さん達と仲良くなったキッカケってどんな事ですか?」
「そうね。私って結構ズバッと意見を言っちゃう性格なんだけど、その事が原因で1年の頃にクラスの女子と揉めちゃってね。その時に山守君たちに助けてもらったの。それから話すようになったかな」
「おっと、鋭い神崎選手の質問で懐かしい話を引き出してくる! 解説の和樹さん、あの時の事は覚えているでしょうか?」
「たしか見るに堪えない口論をしていたので仲介に入った記憶がありますが、いや懐かしいですね。去年の今頃でしょうか」
たしか俺たちが高校に入学して間もない頃、クラスの不良っぽい女性3人と豊崎と口論をしていたのを思い出す。
明らかに女性3名が悪かったし、他の女子生徒も怖がって近寄りづらい雰囲気を出していたので俺と樹が割って入ってやめさせたんだ。
「そんなことがあったんですね。それから今もこうやって仲良く部活動をしているんですね」
「まぁね。一緒にいて飽きないし、楽しく過ごさせてもらってるかな」
「おっと質問ではないですが和やかな雰囲気になる会話を展開していく! 解説の和樹さん、会話は質問だけではないということでしょうか?」
「そうですね。質問ばかりだとインタビューのようになってしまう傾向もあるので注意が必要です」
神崎さんも会話に慣れてきたのか次の質問を豊崎にしようとした時、部室の扉が開かれる。
ガラッ――
扉を開けて高橋先生が入ってきた。
「やっているわね」
「……あ! 高橋先生、お疲れ様です。今絶賛部活動中です」
俺以外の部員と神崎さんも高橋先生に挨拶を交わす
高橋先生はテーブルに近づき、先ほどみんなで見た張り紙を拾い上げる。
「この張り紙、どうだった? 何か修正点とかあったかしら?」
「あ、いえ! むしろ、すごくいい感じに出来ていると思いました。みんなも同意見です」
「あらそう? よかった。なら、これを複製して各クラスの担任に配るように手配しておくわね」
「はい! 是非、お願いします」
これで明日以降からどんどんお悩みが届く状態になるだろう。
――だが、その前にまずは神崎さんのお悩みを解決しないとな。
「神崎さん、今日いろいろ話してみてどうだった?」
「はい! とても楽しかったです! 相手に興味を持って会話をすることがとても大切なんですね」
「そうだね。今回は部員メンバーだったけど、今の同じクラスの人でも同じように雑談にチャレンジしてみるといいよ。愛花もいるから何かあったら愛花を頼ってくれればいい」
「何から何までありがとうございます! なんとけやっていけそうです」
「……麗子ちゃん、私も元々はあまり人とお話するのは得意じゃありませんでしたが、今は愛花ちゃんと出会えて楽しく過ごすことが出来ています。麗子ちゃんともこれから仲良くさせてくださいね!」
「梓……っ! こちらこそ、よろしくお願いね」
神崎さんは出会った当初とは見違えるように元気になった。
すると、ずっと見守っていた神楽耶が思念で話しかけてくる。
『和樹君、今回の活動の目的ってもしかして……』
『あぁ、会話の特訓とは言ったが、ただ単純に神崎さんに楽しい経験をさせたかっただけさ』
『そうだったんですね』
『楽しい事を増やせば、自然と他の人には見えないものも見えなくなるって神楽耶も前に話していたし、それを試してるって感じかな』
『ふふっ! いいと思いますよ』
神楽耶との思念をし終えると、窓の外から夕陽が差し込んでくる。
「そろそろ日も落ちるわね。あなた達もそろそろ帰りなさい。鍵は私が返しておくから」
高橋先生の声で今日の部活動の終了が宣言される。
俺たちは最初の部活動をあっという間に終えたのである。
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