■29 部活動①
教室に戻った俺は午後の授業の用意をして放課後まで過ごした。
放課後になり、樹と豊崎が席に近づいてくる。
「部室って確か、初めは鍵を借りにいくのよね?」
「うん。俺が取りに行ってくるから、樹と豊崎は先に部室に向かっといて」
「了解した! 豊崎、私たちは先に部室へ向かおうじゃないか」
「りょーかい。それじゃ先に部室で待ってるわね」
豊崎はそういうと樹と教室から出て行く。
俺も帰り支度を済ませて教室から出て職員室へと向かった。
職員室に入ると俺は目的である鍵が保管されている場所へと向かう。
「え~っと……あ、あったあった」
壁にかけられている鍵の中から学園生活奉仕部と書かれた札を見つけ、鍵を取って端末に登録を行う。
その後すぐに職員室から出ようとしたが、高橋先生に呼び止められる。
「山守ー。これから部室?」
「えぇ、そうですが」
「丁度よかった。お悩み募集の張り紙、試しに1枚印刷してみたから先に皆にも見せておいてもらえる? 何か修正箇所があれば後で私も部室に寄らせてもらうからその時に教えて頂戴」
「わかりました!」
高橋先生から張り紙を受け取った後、俺は急いで部室へと向かった。
3階に到着すると、俺以外の部員と神崎さんが部室の前で待っていた。
「待たせたな。……神崎さんも今開けるから待っててね」
「はい!」
部室を開けると、綺麗に掃除がされている部室が視界に広がる。
愛花達のお陰で昨日見た光景とは見違える部室になっている。
「本題に入る前に、高橋先生から仮で作ってもらった張り紙を貰ったからまずは見てほしい」
俺は部室の中央にある長いテーブルの上にお悩み募集の張り紙を置く。
張り紙には一番上には【お悩み募集!】と書かれており、その下には体育座りをして困り顔の学生の絵が表示されている。
そして、その下に学園生活奉仕部の概要説明や募集要項、QRコードが表示されていた。
スマホからQRコードを読み込んだら、しっかりと募集フォームの画面に飛べるのを確認する。
「結構……いや、すごくいい感じに出来てるんじゃない?」
「俺も部室に来る途中にチラっと見てたけど、豊崎もそう思うよね」
豊崎はおおむね好印象の様だ。
「うむ、私もこの張り紙を見ると気になって二度見してしまうような吸引力があるな」
「そうですね。これを1日で作ってしまうなんてすごいですね!」
樹や愛花も同様に好印象だ
「……すごくいいと思います!」
「私も良いと思うな!」
梓ちゃんとアリサちゃんも同意見の様だ。
「私もこれを見たら気になって見てしまうと思います!」
神崎さんも好印象であることを教えてくれる。
改めて高橋先生が顧問になってくれてよかったと感じるな。
「何か修正点などあれば言ってくれ。高橋先生はまだ修正してくれるらしいぞ」
「いや……特にないかな。これでいいんじゃないかしら」
豊崎の意見に他の皆も同意見の様だった。
「了解。それじゃ一旦張り紙の件は置いておいて……早速本題に入ろうか!」
俺は張り紙をテーブルの端に移動させて、皆を見回しながら話始める。
「……それで、実際に神崎さんに行ってもらう内容なんだけど――」
それから俺が考えた特訓方法を皆に伝える。
内容としては、俺はサポーターとして神崎さんの傍で待機し、話相手役を部員メンバーの一人ずつ順番に時間を決めて行っていく。というものだ。
話す内容は自由。神崎さんにすべて委ねられている訳だ。
「そんな、私話題とか特に思いつかないんですけど……」
「大丈夫! その為のサポーターとして俺が傍で待機しているから」
俺は神崎さんにグッと親指を立てて安心させてあげる。
「……わかりました! やってみますね」
「それで、空いている私たちは何をしておけばいいんだ?」
俺は少し考えてから答える。
「そうだな、樹と豊崎には実況中継をお願いできるか?」
「「はぁっ!?」」
樹と豊崎は思いっきり声がハモる。
気にせずに俺は続ける。
「簡単に言えば、神崎さんが会話するシーンを野球の実況みたいに実況中継しておいてくれよ」
「いや、簡単に言うけど結構難しいんじゃない?」
「……いや、豊崎。やってみようじゃないか! 私たちの力を見せつけてやるんだ!」
樹が妙にやる気のようだ。どうやら俺の意図が伝わったらしい。
俺は神崎さんの会話相手を誰にするか考えた結果、まずは手始めに愛花を指名した。
「愛花、話相手の役、お願いできるか?」
「え……あ、はい! わかりました。やってみますね兄さん」
愛花は少し戸惑いながら返事を返す。
話は決まったので神崎さんと愛花はテーブルを挟んでソファーに座り向かい合う状態になる。
そして俺は神崎さんが座っているソファーの後ろにスタンバイし、樹たちは部室の隅っこにあったパイプ椅子を組み立てて座りテーブルから少し離れた実況席で待機していた。
「それじゃミッションを始めようか。神崎さん、教室でいつも愛花と話すみたいに雑談をしてみようか」
2人はお辞儀をして礼儀正しく挨拶を交わす。
「それじゃよろしくね愛花」
「はい! よろしくお願いしますね麗子ちゃん!」
俺は早速神崎さんに小声でアドバイスを伝える。
「(……手始めに趣味から聞いていこう)」
「……愛花の趣味って?」
「えと、料理を作るのが好きですね!」
「さて、さっそく定番の雑談話を始めていきましたが解説の豊崎さん、この会話どう展開していくと思われますか?」
「か、解説!? ……えと、そうね。会話を始める最初の話題にしてはいいんじゃないかしら」
神崎さんは愛花と会話し始め、それに合わせて樹たちも実況をし始める。
「(相手が答えた内容を掘り下げていこう!)」
「えと、何で料理を作るのが好きになったの?」
「そうですね。美味しそうに食べてもらえる相手がいるから、ですかね」
「おぉっと! ぶち込んだ会話を深堀し始める神崎選手! 解説の豊崎さん、会話の深堀には効果があるのでしょうか?」
「そうね。趣味についての深堀だから答える方は自分の好きな事を話せる訳だし、会話を盛り上げていく為には効果的ね」
豊崎もノッてきたのか樹にテンションを合わせていく。
「その食べてもらえる相手って、もしかしてお兄さんだったりする?」
神崎さんは俺のサポートなく、自然と愛花に質問する。
「はい! 兄さんが美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて作るのが楽しくなるんです!」
「ここで愛花選手! 妹としての健気な一面を表していく! 解説の豊崎さん、これに対して兄はどう反応するんでしょうか?」
「そうね。泣いて喜ぶんじゃないかしら」
軽く感動していた俺だったが、神崎さんは愛花に質問を続ける。
「愛花ってお兄さんの事どう思ってるの?」
「とても大切な人です! 兄さんがいなかったら今の私はいないですから」
「おぉっと愛花選手! 次々とお兄さんに対しての想いを暴露していく! 解説の豊崎さん、この流れをどう読みますか?」
「そうね。そこで悶え苦しんでる人に聞いた方が早いんじゃない?」
豊崎は悶え苦しんでいる俺の方を見て言い放つ。
うぉぉぉ……! なんなんだこの公開処刑は!
「ちょ、ちょっとタンマ! ……すまん、愛花。ちょっと恥ずかしいからそこらへんでやめておいてくれ」
「ふふふ、わかりました」
「ふふ、すいません。私も悪乗りしました」
愛花と神崎さんは笑いながら返答する。
「それじゃ和樹、相手役を変えてみるか?」
「そうだな、それじゃ……梓ちゃん。お願いできるかな?」
「ふふ……あ、わかりました! 次は私ですね!」
愛花達と同様に笑っていた梓ちゃんは、自分が指名されたことに少し驚くが快諾してくれた。
すると、愛花はソファーから立ち上がり実況席のパイプ椅子に移動し、空いたソファーに梓ちゃんが座り込む。
よし、第二ラウンドの開始だ!
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