■13 新たな課題
高橋先生に尋ねる内容は決まっている。
「昨日生徒会に提出した部活動の申請についてです」
「あぁ、あれね」
高橋先生は思い出しながら呟いた。
俺は続けて高橋先生に問いかける。
「部活の申請書って提出したら部活は認められると思っていたのですが……違うのでしょうか?」
恐る恐る確認してみると高橋先生は腕を組みながら答える。
「ん~、確かにそうね。正式にはまだ決まっていないってのが正直なところよ。山守が言う通り部活の申請書はあくまで申請書だから提出された後に生徒会や校長、職員会議に通されて部活として認められるものだからね」
「……やっぱり、そうでしたか」
俺は少なからず落ち込むが、高橋先生は明るい声で話してくる。
「とは言っても、部活の申請書を出すところまでいける部活自体があまりないから、申請書を提出できているだけでもいい線言ってると思うわよ、私も活動自体には興味があるもの」
「そうでしょうか?」
「――ただ、少し特殊な部活動になる訳だし、何か”明確な活動実績”を求められるかもしれないわね」
高橋先生は少し表情を曇らせながら言い放つ。
「活動実績……ですか?」
確かに高橋先生のいう事も納得できる。
実際に部活が出来たとしても自由に遊び惚けていてはよくないからな。
でも、俺たちの部活の活動実績って何になるんだろう?
俺は考えを巡らしていると高橋先生は話かけてくる。
「ま、深く考えても仕方ないわよ。詳しくは明後日の月曜日にでも直接生徒会に確認してみるといいわ」
「……そうですね。週明けにでも生徒会に顔を出してみます」
高橋先生は小さくうなずくと、元いた先生集団が移動する様子に気付く。
「あ、そろそろ移動するみたい。それじゃ、山守達も暗くなる前に帰るのよ」
高橋先生は俺以外の生徒にも軽くお別れの挨拶を交わし、元居た先生の集団に戻っていった。
「……活動実績……かぁ」
俺はいまだに明確な活動実績が思いつかないでいると豊崎が話しかけてくる。
「活動実績って言っても活動している事を証明することだった何でもいいんでしょ? だったら、実際に問題を解決させた人を生徒会に連れて行けばいいんじゃないかしら」
「あ……確かに、それでいいのか」
一瞬で解決した豊崎に圧倒されつつも、俺は考えすぎな思考を一旦中断する。
「だとしたら、一刻も早く悩みを抱える生徒を見つけ出す必要があるって訳だな」
樹も顎に手を添えながら話す。
「そうね、ひとまずここで考えていても始まらないから私たちも片づけを済ませてしまいましょう」
「そうだな、樹も片付け手伝ってくれ」
「了解した!」
豊崎の言う通りなので、俺たちは花見の片づけを進めることにした。
ほどなくして片付け終えた俺はスマホを取り出し時刻を確認する。
「もうすぐ17時か」
まもなく日が落ちてきそうな時刻となっていた。
「これからまたどこかに向かうか? 俺は一向にかまわんぞ!」
花見の二次会をご希望の樹。
「斎藤君は早く帰って宿題をしなさいよ、山守君もそんな荷物で出歩くの大変でしょ。今日はここらへんで解散でいいんじゃない?」
俺も豊崎の意見には同意で、この大荷物で出歩く気にはなれなかった。
「そうだな。それじゃこれで解散ってこといいかな?」
俺は1年生組に向かって確認をとってみる。
「……はい! わかりました」
「おっけーです!」
梓ちゃんとアリサちゃんも快諾してくれた。
「分かりました兄さん」
そして愛花も笑顔で答えてくれる。
樹は一人ゲンナリしていたので、俺は樹の肩に手を置く。
「安心しろ、俺も同じだ。宿題お互いに頑張ろうな!」
キリっと親指を立ててグッドサインをしながら俺は樹に激励しておいた。
「……そうだな、まだ明日もあるし大丈夫……なはずだ」
樹の家にはゲーム機が沢山あり、宿題の手を止める原因となっているんだろう。
俺はあまりゲームはしないが、代わりに愛花と一緒に過ごす時間を優先してしまう為に勉強の時間が疎かになってしまうのだ。
公園から出た後、お互いの分かれ道まで一緒に行動する。
豊崎、樹と徐々に別れを告げて、先ほど、アリサちゃんにもお別れを言ったところだ。
まもなく梓ちゃんとお別れをする分かれ道に到着する頃だろう。
「……今日は楽しかったです。お誘い頂きありがとうございます!」
分かれ道に到着すると、梓ちゃんは俺たちの方を向いて改めてお礼を言ってくる。
「いやいや、俺も楽しかったよ。それにお弁当も美味しかったし、また機会があったら食べさせてね」
「はい!」
元気よく返事をする梓ちゃんとも別れると、とうとう愛花と俺の2人になる。
「それじゃ行きましょうか、兄さん」
ニコっと微笑みながら尋ねてくる愛花に俺は笑顔で返す。
「だな、暗くなる前に帰ろう」
俺は持ち慣れた大きめの鞄を背負い直し、家へと歩き出した。
家に到着すると、靴を脱いでまず荷物を玄関に置く。
「ふぅ……いや、結構な運動になったんじゃないか?」
「あはは……そうですね」
愛花は玄関に置かれた大きめの鞄を見て同意してくる。
俺は肩を回して少しストレッチをすると、再度鞄を持ってリビングへと移動する。
テーブルに鞄を置くと、鞄の中身の整理を始めた。
「敷物や割り箸、取り皿にウェットティッシュ……っと、見れば見るほど詰め詰めに入れていたんだな」
全てを取り出すと、鞄は完全にぺったんこになっていた。
「それじゃ、サクッと片付けますか」
「はい!」
俺はまず弁当箱を洗い、その他の小物を棚にしまい込んだ。
大方の片付けが終わった頃、愛花はエプロンをつけ始める。
「それじゃ晩御飯の用意をしましょうか」
「エプロン姿も様になっているな」
「ありがとうございます!」
すると、愛花は俺に対してニヤニヤし始める。
「ん? どうした?」
「今日の激辛カレーです! 超絶辛くしておきますから楽しみにしておいてくださいね!」
「お! いいねぇ!」
俺はカレーをリクエストしていたことを思い出しながらテンションが上がり始める。
「また愛花の作るカレーが食えるのか! 愛花のカレーは店のカレーより美味いから今からめちゃくちゃ楽しみだよ!」
「ふふ、研究しましたからね! 楽しみに待っていてください!」
我ながらよく出来た妹である。
愛花は、鼻歌交じりでカレーを作り始め、俺も簡単な具材の用意や手伝える箇所を手伝う。
程なくして、煮込み始めた段階で辛み調味料をおもむろに取り出し、ふりかけ始める。
「辛さのバランスって難しいんじゃないか?」
「大丈夫です、逐一辛さを確認しているのでミスは起きません!」
「さすが愛花だ! よく辛くすればいいと思ってるやつがいるが、あれは愚の骨頂なんだよな。あれはカレーの旨味を手放す暴挙なんだよ」
「ふふ、兄さんの辛さの拘りって私大好きです」
「ありがとう! それに比べて愛花の作るカレーは、カレーの極意とも言える絶妙な辛さと美味しさのバランスがうまく両立されているからな!」
「ありがとうございます! もうすぐできますから棚から皿とスプーンを用意しておいてもらえますか?」
「了解だ」
俺はお預けを食らった犬のように棚から楕円の皿とスプーンを2人分取り出して愛花の傍にセットする。
それから程なくして、調味料の配分と煮込み具合がパーフェクトになったカレーの出来上がりを愛花が告げる。
「できました!」
「おぉ! 出来たか! さぁ早く食べようぜ!」
愛花に伝えると、俺は大きめの楕円の皿半分にご飯を盛り付けたものを愛花に2つ渡す。
「ですね!」
愛花は俺から受け取った皿にカレーのルーを盛り付ける。
俺は2つの皿にスプーンを添えるとテーブルに持って移動する。
椅子にスタンバイをしていると、エプロンを片付けた愛花も椅子に座る。
「お待たせしました。それじゃ頂きましょうか」
「だな、早く食べよう!」
「「頂きます!」」
俺たちは頂きますをすると、愛花はゆっくりと食べ始めて俺は勢いよくカレーに頬張りつく。
絶妙なカレーは食べた後、数秒で辛さが襲ってくる。
まさに愛花のカレーも同様で時間差で俺の口内を辛さが襲ってきた。
「キタキタキタぁ! これだよこれ!」
「ん~~!!」
興奮する俺をよそに、愛花も辛さに驚いているようだ。
愛花も俺に釣られてか、辛いカレーが好みなのだ。
「この辛いけど、うまい。だからもっと食べたい。だけど辛い。このジレンマを楽しむのがカレーの真骨頂なんだよな!」
「えへへ……、ちょっと辛くしすぎちゃったかも」
愛花は舌を出しながらテヘっとした顔をする。
だが、こんなうまいカレーを作る愛花には感謝しかない!
「いや、絶妙な辛さで全然問題ない、これほど食べがいのあるカレーはないだろう!」
俺はそう言いながらスプーンを口へと運んでいく。
辛い口内を水で流し終えた後、すぐさま水を補給するので必然的に水の減りが早い。
「これじゃすぐにピッチャーの水がなくなっちゃうな」
「辛いと水飲みたくなっちゃいますからね」
愛花のコップの水もなくなりかけていたので補充をしておいた。
「ありがとうございます兄さん」
愛花も辛さに負けじと食べ続ける。
そして俺も食べ続ける。
お互いに究極のカレーを食し終えるにはそれからしばらく時間を要した。
俺たちはやっとの思いでカレーを食べ終える事ができた。
「ふぅぅぅぅ……満足、満足」
長い旅路だったが、今思い返すとあっという間の時間だったと思える。
これだからカレーは辞められないのだ。
「はぁ……辛かったですね。ちょっとやりすぎちゃいました」
愛花はちょっと反省しながら2人分の空いた皿を流しに持っていく。
「あ、洗い物は俺がしておくよ、愛花は休んでな」
「ありがとうございます兄さん、お願いできますか?」
愛花はそう言うとテーブルへと戻ってくる。
「愛花は座って舌を休ませておいてよ」
「ありがとうございます。ちょっと休憩していますね」
「あぁ」
愛花が机に突っ伏しているのを横目に俺はテーブルから立ち上がる。
台所へと向かい、流しに溜まった洗い物を洗い始める。
しばらく洗い物をしていると愛花は机に突っ伏しながら俺の顔を妙に見つめてくる。
「なんだよ愛花。そんなに見て。カレーでも顔についてるのか?」
俺は顔を軽く拭うが、特に顔には何もついていなかった。
「いえ、……ちょっと嬉しくて」
「嬉しい? 何がだ」
俺は洗い物の手を止めて愛花の方を見て尋ねてみる。
「作った料理を美味しく食べてくれるのもそうですが、高校生になってからとても楽しいんです! まだ入学して2日間しか経ってないのに、兄さんといろいろ一緒に行動したり考えたりできるのが嬉しいなって」
「なんだ、そういう事か。……まだ高校生活は長いからな、これからもっと愛花に楽しい事が待っていると思うぞ」
きっとそうだと思うし、俺がそうさせる。
「ふふっ、兄さんがそう言うならそうなるんでしょうね。今からとってもワクワクです!」
お互いに笑い合うと俺は食器を洗う手を再び動かしはじめる。
そして同時に生徒会へ絶対に部活を認めさせる決意も固まった。
愛花と過ごす高校生活を楽しいものにする為、必ず部活を認めさせてやる。
「面白かった! 続きが見たい!」
「今後どうなるの!?」
と思っていただけましたら
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