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6章  4話 第1次オリジンゲート攻略戦

 オリジンゲートの先にあったのは岩で作られたドーム状の空間だった。

 壁面にはいくつもの穴が開いており、景一郎たちが侵入したのもそんな穴の1つだ。


 そして壁面から下を覗けば、そこにいるのはギシギシと体を押し付け合うモンスター。

 決してこのダンジョンが狭いわけではない。

 単純にモンスターの数が多すぎるのだ。


 潰れそうなほどに体を擦りつけているモンスター。

 それはもはや、すし詰めという表現さえも軽すぎるくらいだ。

 さらに似通った様子で何段もモンスターは重なっているのだからいっそ笑えてくる。


「すげぇ数だな……」「マジかよ」「200……は軽くいるぞ」


 冒険者たちがそう漏らす。


「数にビビってても仕方ねぇだろ」

「幸い、数が多すぎて上手く動けていないようですね」


 数えることさえ馬鹿らしい大群。

 だが、その数ゆえにモンスターは満足に動けない。

 そのため壁を這い上がってこちらを襲うこともない。


 そこまで理解したうえで、冒険者たちは手を打つ。


「とりあえず初撃はこっちがもらう。威力重視の大規模攻撃で削れるだけ削るぞッ!」


 壁面から眼下にいるモンスターたちへの魔法攻撃。

 相手が躱すこともできないのを利用し、できうる限りのモンスターは殲滅する。


 無条件で成立する初撃をそうやって有効活用するのだ。


「「「「はぁぁぁ!」」」」


 示し合わせることなく、それでも完璧なタイミングで一斉に魔法が放たれた。

 魔法同士が消し合うことを防ぐため、様々な方向へと射出される魔法。

 その威力・規模ともに絶大で、多数のモンスターを魔力の奔流へと沈めた。


「結構な数やったんじゃないか……!?」

「油断すんなよ! モンスターが減ってスペースができた分、一気に押し寄せてくるぞ!」


 初撃は決まった。

 だがこれは開戦の合図でしかない。

 モンスターの一部が討ち取られたことで、動き回るスペースを得たモンスターたちは今度こそ景一郎たちのいる場所まで迫ってくることだろう。


「だけどここから魔法を撃ち続ければ這い上がってくるよりも先に――」


 だから完全に接近を許すよりも前に、遠距離攻撃でアドバンテージを稼ぐ。

 そう考え、もう1度冒険者たちが魔法を撃つ構えに入るが――



「飛行型のモンスターがいたか……! 一方的に削るって戦術は許してくれそうにないな……!」



 モンスターの群れから飛び出してくるものもいた。


 風神・雷神。


 空を飛ぶSランクモンスターはあっという間にレイドチームを間合いに捉えていた。

 ゆえに冒険者たちは――自らモンスターの群れに飛び込んだ。


 飛行し、加えて遠距離攻撃手段を持つモンスター。

 そんな相手がいる以上、待ちの戦術は使えないと判断したのだろう。


「想像以上の数ですわね……! どういたしますの?」


 明乃が問いかけてくる。


 この場に残っているのはもう【面影】と【聖剣】のみとなっている。


 【面影】全員でこの場にとどまって【聖剣】を守るか。

 モンスターハウス沈静化のために戦力を割くか。

 どちらも判断としては間違っていない。


「――紅たちの護衛は俺1人でやる」


 だから、景一郎は選んだ。


 幸い、彼のいる場所は壁面に空いた穴。

 つまり敵が向かってくる方向が限られている。

 

 言い換えるのならそれは拠点防衛――【罠士】の得意分野だ。


 それこそ【矢印】を散らばらせておくだけで、大体のモンスターの接近は阻める。

 景一郎1人がいれば、彼の後方にいる【聖剣】へとモンスターの牙が届くことはない。


「皆は――散開して前線の崩壊を防いでくれ」


 だから景一郎は、露払いのために向かっていったレイドチームの損耗を避けるための作戦を選び取った。



「格下とはいえ数が多いと鬱陶しいなッ……!」


 冒険者が横薙ぎに剣を振るう。


 斬り捨てたのはゴブリン。

 最強のダンジョンと呼ぶにはあまりに脆弱なモンスター。

 しかしその戦闘力はかなり底上げされており、数の多さもあいまって無視できないほどの鬱陶しさだ。


 雑兵と言えども、数がいれば意識を割かれる。

 その意識の死角を突かれてしまえば、手痛い反撃を食らいかねない。


「こいつらもボスサイズだ。最低でもBランクモンスターの群れと思って――」

「きゃぁぁぁ!?」


 ゆえに冒険者が警告を飛ばしたとき、女性の悲鳴が聞こえた。

 その声は、後衛を担っている【ウィザード】のものだった。


「くそ……! 数が多くて討ち漏らしが――」


 女性の悲鳴の理由は、討伐を逃れていたゴブリンだ。

 ゴブリンは弱いなりに、味方の影に隠れて暗躍していたのだ。


 そうして、前衛の冒険者の目を盗み、女性冒険者を襲った。

 ゴブリンは女性の体にしがみつき、その場で組み伏せている。

 あの体勢では、魔法で追い払おうとしても自分を巻き込んでしまう。

 となれば、武器を持った前衛役がカバーに入るしかない。


「俺が行く!」


 前線を崩さぬよう、1人だけが後衛を守るために走り出した。

 しかしすぐに彼は――横に吹っ飛んだ。

 

 何もない場所で。

 何の前触れもなく。

 脇腹から血を噴いて。

 

 跳ねた血液。

 それが虚空に付着する。

 何もいないはずの空間に血のシミが浮いている。


 流れる血液が浮き彫りにした形はまるで狼で――


「あれは――」「ステルスウルフか……!?」


 【隠密】を使う狼型のモンスター。

 そこから冒険者たちは答えを弾き出す。


 だがそれで事態が好転するわけではない。


 数が多くて処理に手間がかかるゴブリン。

 そうして注意が逸れたところを、【隠密】で狙ってくるステルスウルフ。

 シンプルながら厄介だ。


 しかも、後衛の【ウィザード】がゴブリンに襲われており、救出を急ぐ必要がある。

 とはいえ時間に追われながら攻めるのはリスクが高い。


 そんな思考が巡る間にも、ゴブリンは女性魔術師の装備を剥ぎ取ってゆき――


「【レーヴァテイン】」「【操影】」


 ――そのまま炎に裂かれ、影に貫かれた。


 ゴブリンたちは自分の状況を理解できないままに息絶えてゆく。

 残ったのは物言わぬ死体だけだ。


「間に合いましたわね」

「んー。じゃあ次どうしよっかなぁ」


 救援に駆けつけた2人――明乃と詞はそう言葉を交わす。


「明乃ちゃんには、みんなのカバーを任せていい?」

「ええ」


 詞の指示に明乃は頷いた。


 この場合、ゴブリンと対峙するのはパワーのある明乃だろう。

 囲まれても押し潰されないパワーがこの場には必要なのだ。


「じゃあボクはぁ」


 一方で、詞は暗く微笑んだ。


「隠れてる悪い子を狩っちゃおうかな?」


 【隠密】使いには【隠密】使いを。

 似たようなスタイルということもあり、詞はステルスウルフの討伐へとシフトしていった。


「ありゃりゃ――新顔さんだねぇ」 


 詞はそう漏らした。

 彼らの足元には――白い霧が舞っている。

 不自然に詞たちだけの視界を潰しにかかる霧。


 その奥には、背の高い樹木のシルエットが映り込む。

 

「ま、やることは変わらないよねっ」


 新たなモンスターたち――フォグトレントと向かい合い、詞は跳び出した。



「くそ……! よりにもよって【執行者】かよッ……!」

 

 冒険者の吐き捨てるような文句が飛び交う。


 しかしそれも仕方がないのかもしれない。

 ここにいるのはデスマンティス。

 Aランクモンスター最高峰の攻撃力を誇るモンスターなのだから。


「他のモンスターが邪魔で躱せるスペースがねぇぞ!」


 熟練の冒険者となれば、ガードや回避も手馴れている。

 だが、とにかく逃げ場がない。

 大振りの薙ぎ払うような一撃。

 それを躱すための空間が足りていないのだ。


「でもここで抑えとかねぇと他のチームが巻き込まれる……!」


 もしもデスマンティスをここで抑えきれなければ、あの鎌は他のモンスターと戦っている冒険者の命を狩ることだろう。

 アレを自由にさせてはいけない。

 他の冒険者が敵を倒してくれたのなら、回避のためのスペースも確保できるはずで――


「ん――――問題なし」


 直後、2つの魔弾が戦場に撃ち込まれた。


 氷の弾丸。

 それは正確にデスマンティスの両手――特に細い個所を抉り飛ばした。

 鎌自体の重さに耐えかね、デスマンティスの腕が千切れ落ちる。

 

「火力は奪った」


 誰もいなかったはずの場所に少女――碓氷透流が現れる。

 彼女は【隠密】で身を隠し、最高のタイミングでデスマンティスの両手を奪ったのだ。


 デスマンティスの恐ろしさは、両手の鎌による即死級の鋭い一撃。

 言い換えてしまえば、腕さえ破壊してしまえば攻撃力の大幅衰退は避けられない。


「――あとは、ゆっくり処理してほしい」


 そう言うと、透流は再び身を隠す。

 新たな狙撃ポイントに移動するのだろう。


「――ファイア」


 そして彼女はただ、冷静にデスマンティスの攻撃力を削いでゆくのであった。



「ぁぁ……!?」

「やめろぉ……!」


 それはまさに阿鼻叫喚だった。


 武器がぶつかりあう。

 血が飛び散る。



 そのすべてが――冒険者同士の戦いによるものだった。



「こんなのどうしろってんだよッ……!?」


 冒険者の悲痛な叫びが響いた。

 彼らは焦り、恐れながら戦っている。

 その理由はあるモンスターだ。


 ――マリオネットアリスだ。


 西洋人形の姿をしたモンスター。

 マリオネットの代名詞ともいえるスキル――【人形劇】によって冒険者の体は操られ、仲間同士で殺し合いを始めたのだ。


 【人形劇】で操れるのは1人だけ。

 そのため、1人が操られたのなら、他の仲間が味方の体についている糸を斬る。

 そうやって仲間同士で協力するのが定石だ。


 だが――今回のマリオネットアリスは群れだった。


 10を越えるマリオネットアリス。

 それはつまり、同数の冒険者が操られ、刃を交えるということ。

 そしてこの場にいる全員が支配され、操られた仲間を救える冒険者は――いない。


 すでに10人以上の冒険者が支配下に落ち、文字通り操り人形になっている。

 それによって被害は拡大を続けてゆく。

 前線の崩壊は間近に迫っていた。


「ったく――メンドくさ」


 そこに飛び込んでくるのは円状の刃。


 チャクラムとも呼ばれる武器は空気を裂き、冒険者から伸びていた操り糸を一気に千切ってゆく。

 そのままチャクラムはブーメランのように折り返し――少女の手元へと戻る。


 少女――花咲里香子は心底嫌そうにマリオネットアリスと対峙する。


「思いっきり、嫌な思い出のあるヤツなんだけど」


 なにせ目の前にいるモンスターには――良い思い出がない。



「くそ……! 速いなッ……!」

「当たらないぞ!」


 風神・雷神。


 Sランクであり、自由に空を飛び回るモンスター。

 機動力もあり、射程も火力にも優れている。

 レイドを成功させる上で、彼らの処理は最優先事項だった。


 だからこそ遠距離攻撃のできる冒険者は空を駆ける風神と雷神を狙う。

 しかし相手はSランクの中でも素早いモンスターだ。

 冒険者たちの一斉射撃でも撃ち落とすことは叶わない。


「思い通りに動かせないだけでも意味がある! 牽制し続けろ!」


 冒険者の指示が飛ぶ。


 機動力のある風神・雷神は脅威だ。

 いつ護衛対象である【聖剣】を狙うかも分からない。

 他のモンスターと交戦しているチームを狙うかもしれない。

 この場における最大の不安要素ともいえる。


 だから倒せなくとも、攻撃し続けることに価値がある。

 回避に専念させ、攻勢に回らせないことに価値がある。



「――我が出しゃばることではないのかもしれぬがな」


 ――とはいえ、空中を飛び回る風神・雷神も倒さねばモンスターハウスは終わらない。

 だから――グリゼルダは動いた。


「まあよい」


 グリゼルダは宙を歩く。

 【空中歩行】スキルではない。

 空気そのものを凍らせ、足場を作っているのだ。


「分からぬのなら、成り行きに任せるのも一興であろう」

 

 先制攻撃を仕掛けたのは風神・雷神。


 風の刃と雷撃がグリゼルダを襲う。


 だが届かない。

 空中に顕現した巨大な氷の結晶。

 それがシールドとなりすべての攻撃を弾いてゆく。


 

「来い。Sランク風情では、何体いても足らぬのだからな」



 グリゼルダはそう挑発する。

 ――圧倒的格上の存在として。


 ダンジョンにいるモンスターは必ず、なんらかの共通点を持つ。


 ゴブリン。

 ステルスウルフ。

 デスマンティス。

 フォグトレント。

 マリオネットアリス。

 風神・雷神。

 ――はたして共通点は、



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