?章 ??話 日記
これは少し未来の話――
今日はボク――月ヶ瀬詞にとって最悪の1日となった。
これまで生きてきた14年間で、これほどの喪失感と絶望感を覚えた日はない。
冒険者に死はつきもので。
ダンジョンに潜ったときの仲間と、一緒に帰ることができる保証なんてない。
そんなことは分かっている
分かっていたけど、知らなかった。
覚悟していたはずの『知識』が『経験』に変わったとき、どれほど胸が痛いのかなんて。
結論から言うと、オリジンゲート攻略は失敗した。
いや、違う。
そうじゃない。
それだけじゃない。
最初から、あのダンジョンを攻略なんてしちゃいけなかったんだ。
あの絶望は――仕組まれていた。
運が悪かったんじゃない。
努力が足りなかったんじゃない。
あの未来を、望んで引き寄せた人がいた。
あの絶望を引き起こすため、ダンジョンを攻略させたかった人間がいた。
今、この国は破滅への道をたどりつつある。
鋼紅。
糸見菊理。
忍足雪子。
世界にも名が知れている冒険者を3人も同時に失ったのだから。
この国が有する戦力はもう半分以下しか残っていない。
迫る絶望を迎え撃つにはあまりにも小さかった。
未来が見えない。
世界は暗い。
心は沈んだまま。
その理由は分かっている。
あの人がいたのなら、ボクたちが希望を見失うことはないから。
あの黒い背中が、そこにいるだけでボクたちを導いてくれるから。
そこにいるだけで――ボクたちは立ち上がれるのに。
でも、お兄ちゃんはここにいない。
☆
「あ……危ない危ない」
少し散らかった机。
そこに月ヶ瀬詞は日記を見つけた。
「こういうのはちょっと見せられないよねぇ」
詞は日記を拾い上げる。
これは彼が冒険者を始めてからずっと書き続けてきたものだ。
――それも、あの日を境に途絶えてしまったけれど。
詞は日記帳を胸に抱く。
「他の子に見られちゃう前で良かったよぉ。こういうのを見られたらダメだもんね?」
ここに綴られた弱さを吐き出すことはできない。
もう影浦景一郎にすべてを委ねられる立場ではないのだから。
「だってボクはもう……【面影】のリーダーなんだから」
月ヶ瀬詞――【面影】の2代目リーダーは部屋を出た。
ついに6章開幕です。
前半はオリジンゲート攻略編。
後半は――




