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5章  4話 未来の話

「討伐完了☆」

「やっと終わったわね」


 詞はブイサインを掲げ、香子は息を吐く。


「――――ああ」


 景一郎の足元には、首から血を流して倒れているアナザーの姿があった。

 首を落としてこそいないものの、即死するダメージだ。

 数秒となくアナザーの体は消失することだろう。


 そう判断し、景一郎は背を向けた。

 しかし――


 

「景一郎様ッ……!」



「――――――――」


 景一郎が異常に気付いたのは、明乃の警告が聞こえたからだった。


 衣擦れの音。

 それは、アナザーがゆらりと立ち上がった音だ。

 彼は首から血をこぼし、それでも立っていた。


「――あれは」


 アナザーが魔力を纏う。

 これまでの戦いでさえ見せてこなかった濃密な魔力を。


「景一郎様!」

「ご主人様!」


 明乃とグリゼルダが景一郎の前に飛び出す。

 アナザーが何をしたとしても、景一郎を守るために。


 そんな状況で、アナザーは口にした。




「【魔界――――顕象】」




 ――行使するスキルの名を。


 世界が歪む

 アナザーを中心として、世界が色あせてゆく。

 そして――


「――――――」


 ――世界が砕けた。

 同時に彼の魔力が霧散してゆく。

 結果として――()()()()()()()


「透流!」

「ん」


 誰もが状況を理解できず、生まれた空白の時間。

 景一郎は誰よりも早く意識を戦場に戻し、透流に指示を飛ばす。


 ――狙撃がアナザーの額を撃ち抜いた。


 さっきのスキルですべてを出し尽くしたのか、彼は驚くほどあっさりと狙撃を受けた。

 彼は左右に揺れ、その場で仰向けに倒れる。


 消失してゆくアナザー。

 今度こそ、彼は完全に絶命していた。


「……なんだったのよ……さっきの」

 

 そう漏らす香子。

 彼女の頬には汗が流れていた。


 それほど、最後にアナザーが見せた力を異様なものだった。


「今のは――」

(今のは、使えないスキルだったというより――スキルを制御しきれなかったという感じだった)


 少なくともスキルが発動する兆しはあった。

 それが、途中で消滅したのだ。

 レベルは違えど、新人冒険者が魔力を操りきれず魔法を失敗したときのような現象にも思えた。


(俺と同じ姿。同じスキル)


 色だけが反転した、瓜二つのモンスター。

 そして、景一郎だけが扱えるはずのスキル。


(俺よりも豊富なスキル。そして――【魔界顕象】)


 しかも彼は、景一郎が習得していないスキルさえ使って見せた。


「こいつは――俺の何なんだ」


 そんな化物が、景一郎が作成したダンジョンにいた。

 それはどんなことを意味するのか。



「お兄ちゃーん。こっちに続きがあるよぉ」


 詞が手を振る。

 彼が指で示した先には扉があった。


 通常、ダンジョンボスを倒した場合、出口に戻るためのゲートが現れる。

 それは景一郎がスキルで作ったダンジョンでも同じことだった。

 なのに今回に限って、脱出ゲートは現れなかった。


「脱出用のゲートが出てこないってことはダンジョンが終わってないということだしな。――行ってみるか」


 ダンジョンをクリアすれば脱出ゲートが出現する。

 アナザーを倒しても脱出ゲートが出なかった。

 それは逆説的に、このダンジョンには続きがあるのではないか――そう予想していたが正解だったらしい。


「それじゃあ行こ行こっ」


 詞は扉を押し開く。


 扉の向こうにあるのは廊下だった。

 ただ、最初に見た廊下に比べるとかなり狭い。

 2~3人並んで歩くのが限界といった広さだ。

 

「敵の気配はありませんわね」


 景一郎たちは廊下を歩いてゆく。


 左右にはいくつもの窓がある。

 しかしそこから見える景色はおかしなものだった。


 景色そのものがおかしいのではない。

 窓ごとに――見える景色が違いすぎるのだ。


 モノクロの桜。

 色のないひまわり。

 そして草木は枯れ。

 灰色の雪が降る。


 雪が溶けた大地に再び命が宿ることはない。

 ヒビ割れ、枯れ果ててゆくだけだ。

 死んでゆくだけだ。


 窓と窓の距離はせいぜい数メートル。

 どう考えても、こんなに景色が変わるわけがない。


「あ、部屋だ」


 結局、モンスターが現れることもなく景一郎たちは広間にたどりついた。


「うわぁ。大きいねぇ」


 ボス部屋と変わらないほどの広さの部屋。

 違うものがあるとするのなら、部屋の中央にそびえる巨像だろう。


 顔のない巨人が、広間の中央に佇んでいた。

 

「ほぇぇ」


 詞は興味深そうに巨像へと歩み寄る。

 白い指先が像の表面を滑る。

 すると――巨像の首が折れた。

 折れた首は転がり落ち――詞の隣に落下する。


「うひゃぁぁぁぁごめんなさいぃぃぃぃぃ!?」


 轟音。

 詞は髪を逆立てて跳び上がる。

 あんな大質量が隣に落ちたのなら仕方がないことだろう。

 平凡な冒険者が下敷きになれば、あっさりと死んでしまうくらいの塊が落ちてきたのだから。


「ん。詞ちゃん……壊した」

「仮にもご主人様のダンジョンを――」

「うぇぇ…………ごめんなさぃぃ」


 透流とグリゼルダの視線を受け、詞が頭を抱えてうずくまる。

 もっとも、見たこともない巨像の頭なんて景一郎にとってはどうでも良いのだが。


「――景一郎様」

「?」

「こちらの壁――何かが描かれていますわ」


 景一郎が部屋の様子をうかがっていると、明乃が彼に声をかけてきた。

 彼女は広間の一角にある壁へと視線を向けている。


「さっき、壁に絵が浮き上がってきましたの」


 ――おそらく絵なのだろう。

 水に浮かぶ墨のように、黒い影が揺れている。

 しかしその形に規則性はなく、今のところ何を意味しているのかは分からない。


 景一郎の記憶では、部屋に入った時点では壁にこんな絵などなかった。

 だとしたら明乃の言う通り、後になって出現したのだろう。



 ――これは、未来の話だ。



「声が……」


 景一郎は周囲を見回す。

 声が聞こえたのだ。


 静かで、荘厳で、超越的な声が。


 すると壁の絵が変化をしてゆく。

 無意味に見える模様がうごめき、意味を成してゆく。

 そうして浮き彫りになったのは――



「男性と――3人の女性……ですわね」



 それは4人の人間だった。


 シルエットだけの4人。

 体格から考えて、それは男性1人と女性3人。


 ――いや。そんな遠回しな表現はいらないのか。


 男だとか女などと表する意味がない。

 景一郎は――()()()()()()()()()()()()()()()

 見れば、分かる。


「ッ」


 絵に変化が訪れた。


 女性の胸に穴が開いた。

 少女の腰が引きちぎられた。

 女性の体が粉々に分解された。

 男性の頭が――潰れた。


「ぅひゃぁ……グログロだよぉ」

「シュミ悪……」

「んん…………」


 いつの間にか近づいていた詞、香子、透流が口々に感想を漏らす。

 あまり好評ではないようだ。

 無論、景一郎()()も不愉快極まりない。


「未来の話……ね」


 景一郎は先ほど聞こえてきた言葉を反芻する。


 おそらくあれは暗示だ。

 影浦景一郎。

 (はがね)(こう)

 糸見菊理(いとみくくり)

 忍足(おしたり)雪子(ゆきこ)

 4人に降りかかる、最期の光景だ。


「ん……意味が分からない」

「――どうでもいいさ」


 絵の意味を理解できなかったのか首をひねる透流。

 そんな彼女に、景一郎はそう言った。


「あんなの、ただの絵だ。俺たちには何の関係もない話でしかない」


 これが未来の絵だったとする。

 それでも関係がないと断言しよう。


(そんな未来の話、俺は拒絶する)


 その光景は、現実にならない未来の話だから。


「次の部屋に進むぞ」

「ですわね」「はーい」「ん」「こんな趣味悪い絵なんて見てもね」「うぬ」

(俺は――そんな未来を許さない)


 景一郎たちはダンジョンの最奥を目指してゆく。



「これで終着点……のようですわね」


 今度は小部屋だった。

 冒険者の身体能力なら一度のジャンプで端にたどりつくような部屋。

 そこにはただゲートがあった。

 それはつまり、ここがダンジョンの最奥部であるということ。


「そういえばドロップなかったねぇ」


 ふと詞がそう口にした。


「ん……ボスは倒したのに」

「随分しょっぱいダンジョンね」

「ご、ご主人様に限ってそんなことはないと思うのだが――」

 

 透流は落胆し、香子は愚痴を漏らし、グリゼルダは目を逸らす。


「確かに、ドロップがないってのは初めてだな、……ボスも普通じゃなかったから忘れかけてたけど」


 ボスを倒し、ダンジョンをクリアしたのなら報酬がある。

 それが原則だからこそ、人間はダンジョンに潜る。

 資源や、アイテムを手にするために。

 

 ダンジョンをクリアしたのに無報酬というのはあまりにも味気ない。


「とはいえ、ないものは仕方がないか」


 内心でがっかりとしつつも景一郎は脱出ゲートへと歩み寄る。


 ――その時だった。

 声が聞こえたのは。



 ――第1階層、踏破。

 

 ――新たな権能を開放します。


 次回で前半は終了となります。

 多分、後半にあたる選抜試験編は少し長めになるかなぁと。



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