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5章  2話 アナザー

「ん……これは運が悪かった」


 透流はグリゼルダの肩を叩いた。


「まさかダンジョンが最後まで直線だったなんてねぇ」

「うぬぬ……すまぬ」


 詞の声にグリゼルダは肩を落とす。


 今回のダンジョンは延々と廊下が続くという構造になっていた。

 横道もなく、ただただまっすぐに伸びるダンジョン。

 そこで待ち構えているモンスターを――グリゼルダは全滅させてしまっていた。


 曲がりくねったダンジョンであれば討ち漏らしもあったはずなのだが、今回はダンジョンが一貫して直線だったことが災いしていた。


「ボスはどうすんのよ」


 香子はボス部屋へと続く扉を軽くノックする。


「この感じなら……大丈夫だろ。多分」


 本来なら、ここに来るまでにある程度連携が成立している予定だった。

 なのに連携どころか、グリゼルダが魔法を一度使っただけで辿り着いてしまった。

 

 これでは【面影】の実力がこのダンジョンに適しているのか判断がつかない。


「リゼちゃんだけで終わったから、よく分からなかったもんねぇ」

「ああ……って、リゼちゃんってなんだ?」


 詞の言葉に同意しかけた景一郎だったが、聞き逃せない単語があった。

 

「グリゼルダちゃんってちょっと長いでしょ?」


 そう言って詞はへらりと笑う。

 

「ダメ?」


 詞は上目遣いでグリゼルダに尋ねた。

 ――可愛らしい仕草だが、詞は紛れもなく男である。


「愛称というわけだな。構わぬぞ」

(俺は構うんだよなぁ……)


 あっさりと承諾するグリゼルダ。

 一方で、景一郎は内心で愚痴を漏らす。

 ――またグリゼルダの敵意ポイントが上がった。

 そんなアナウンスが聞こえた気がする。


「道中のモンスターが未知のものであった以上、ボスもそうであることが予想されますわね」

「ああ。だから細心の注意を払わないとな」


 ダンジョンにはテーマがある。

 雑兵からボスにいたるまで、そこには共通項が存在している。

 

 今回のダンジョンはおそらく――影に関係するモンスターが出てくる。

 雑兵が未知のモンスターであったことから、同系列の――見たことがない上位モンスターの出現も想定しておく必要があるだろう。


「――準備は良いか?」


 景一郎は掌を扉に押しつけ、メンバーへと振り返る。

 【面影】の面々が景一郎に頷き返す。


「ボス攻略――開始だ」


 皆の反応を確認した後、景一郎は扉を押し開けた。



「あ――誰かいるよ?」

 

 詞が声を上げる。


 そこにあったのは六角形の広間。

 比較的狭いボス部屋の中央には、1つの人影があった。

 

「小さいね。すばしっこいタイプのモンスターかなぁ?」


 詞はモンスターに目を凝らす。


 今回の部屋が小さいのは、ボスも小柄であるから。

 ボスが力を発揮するのに最適な広さの部屋が用意されたのだろう。


「――――――」

 

 モンスターはまるで人間だった。

 背丈は170から180の間くらいだろうか。


 黒いコートを纏い、景一郎たちに背を向けて彼は立っていた。


「――――――」


 景一郎たちが全員部屋に入ったからだろうか。

 広間に灰色の明かりが灯る。


 明るくなったボス部屋。

 そしてボスは――振り返る。


「え…………?」

「ん…………!」

「は?」


 ボスの全貌。

 それを目の当たりにした時、この場の全員に衝撃が走った。


 だが、それも仕方のないことだろう。

 なぜなら――



「――――景一郎様、ですの?」



 そこにいたのは、()()()()()()()()()()()()



「違うからねお兄ちゃん!?」


 部屋を包んだ静寂。

 それを破ったのは詞の声だった。

 彼は焦ったように景一郎に縋り付く。


「『小さい』っていうのはモンスターと比べてって意味で、お兄ちゃんの背が低いって言いたかったわけじゃないんだよ!?」

「……別に気にしてない」

「大丈夫だよお兄ちゃん! お兄ちゃんの背は別に低くないからッ! むしろちょっと高いからッ!」

「だから気にしてないって言ってるよな?」


 何度も言われたらむしろ気になってくる。


「――――――」


 そんなやり取りを、()()()()()()()()()は静かに見つめている。


 くすんだ白髪。

 白目と黒目が反転した不気味な瞳。

 姿は景一郎であっても、纏う雰囲気は異質なものであった。


「! 来るぞッ……!」


 色彩が逆転した景一郎――反転景一郎が腰を落とす。

 それを見て、景一郎は警告を飛ばす。


 構える【面影】のメンバー。

 反転景一郎が飛び出したのはほとんど同時だった。


「アタシ狙いってわけ?」


 金属音。

 それは反転景一郎の短剣を香子が受け止めた音だ。


 鍔迫り合いを続ける香子。

 その隙に透流と詞が【隠密】で消える。

 他の面々もそれぞれの役割を果たすために動き始めるが――



「――【矢印】」



 反転景一郎の背後に――矢印が出現した。

 彼は一歩下がり、背中で矢印に触れる。


「ッ!? この――!」


 矢印の効果で前方に押し出された反転景一郎。

 それは鍔迫り合いを制すための力強さとなり、香子を押し返した。


 突然の反撃に香子が一歩下がる。

 しかし――


「香子!」

「!?」


 景一郎が声を上げたときには遅かった。

 すでに香子は――背後にあった矢印を踏んでしまっていた。


 矢印の方向は右。

 矢印に合わせ、香子の軸足だけが横へと引っ張られる。


「ッ……この――!」


 香子の体が横回転する。

 彼女の足は完全に床を離れ、体が上下反転した。


「――――」


 その隙を反転景一郎は逃さない。

 彼の短剣は、正確に香子の胸へと迫る。


「とぅ!」

 

 刃先が香子の胸を抉る直前――横から伸びたナイフがそれを阻止した。


 虚空から現れたのは詞。

 彼がギリギリのタイミングで割り込んだのだ。


「――――――」


 だが反転景一郎は短剣を2本持っている。

 ――影浦景一郎と同じ短剣を。


 彼は弾かれた腕とは別の手に握った短剣を振り上げる。

 そのまま詞の背中に短剣を振り下ろし――


「させないっての!」


 香子の拳銃が放った魔弾によって反転景一郎の攻撃は阻止される。

 反転景一郎は身を翻し、襲いかかる弾丸から距離を取った。


 ――戦いは振出しに戻る。


「あのボスって、お兄ちゃんと同じスキルを使うんだね」


 詞はそう言った。


「他のスキルならともかく、ユニークスキルを使うっていうことは――偶然じゃないだろうな」


 間違いなく、反転景一郎が使用したのは矢印のトラップだった。

 

 姿だけでなくスキルまでコピーするモンスターということだろうか。

 影。

 影武者など、影という言葉は本物と似ているものを示すこともある。

 ある意味で、これも『影』に類するモンスターといえるのかもしれない。


「見た目も、スキルも景一郎様と瓜二つのモンスターというわけですわね」

「ご主人様の兄弟なのかもしれぬな……」

「ん……景一郎さんのファンかも」

「よし、決めた! あれはこれからアナザーって呼ぼう! じゃないと、お兄ちゃんと差別化ができないからねっ」

「お前ら…………意外と余裕だな」


 仮にもパーティリーダーと瓜二つなモンスターが立ちはだかったというのに、割と緊張感のない仲間たちであった。


 ともあれ、【面影】と反転景一郎――アナザーとの戦いが始まった。


 今回のボスは景一郎の2Pカラーです。



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