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3章  プロローグ 冒険者協会

 影浦景一郎(かげうらけいいちろう)は街並みを歩いてゆく。

 見慣れない景色。

 景一郎は県外へと足を運んでいた。

 その理由というのも――


「今日は付き合っていただいてすみません……」


 景一郎でそう謝るのは透流だった。

 碓氷透流(うすいとおる)

 景一郎がリーダーを務める【面影】のマジックアタッカーだ。 

 彼女は本気で恐縮しているようで、標準装備である雪子の真似も剥がれかけていた。


「いや。俺もそろそろ更新の時期だったからな。気にしなくていい」


 そう言って、景一郎は透流の頭を撫でる。

 彼女の身長は彼の胸板あたりまでしかなく、頭が撫でやすい位置にあるのだ。


「ん…………更新って、初めて。何をするの?」


 透流は頭を撫でられながら問いかける。



 ――冒険者ライセンスの更新。



 それが今回、彼らがここを訪れた主な理由だった。


 冒険者というのは国から発行されるライセンスが必要となる。

 それも当然のことだ。


 一般人が冒険者のフリをしてダンジョンに潜ることを許すわけにはいかない。

 たった1回の探索で数千万の金額が動くこともあるのだ。国としては冒険者の情報をキッチリ把握して税金を徴収しなければならない。

 

 それらの理由があり、冒険者はライセンスがなければ活動できないルールになっているのだ。


「何を――って言ってもな……。主に生存確認とか、本人確認が目的だからすぐ終わるぞ?」

「……了解」


 景一郎がそう答えると、透流は納得したように前方へと視線を戻す。


 あくまでダンジョンに入った冒険者の生死は自己責任だ。

 ゆえに国としては、冒険者の認定についてそこまで高い基準を設けるつもりはないのだろう。

 重大な違反が存在しない限り、そのままライセンスを更新して終わりだ。


「じゃあ……更新が終わったらそのまま帰るの?」


 今後の予定を尋ねる透流。

 それに対し、景一郎は頭を搔く。


「あー……。俺は別件でちょっと用事があるから残ることになる」

「…………用事?」

「ああ」


 冒険者ライセンスの更新は、国内に1つしかない冒険者協会で行わなければならない。

 逆にいえば、そんな機会でもなければ協会を訪れることはないだろう。

 特に、景一郎のように県外を拠点にしている冒険者は。


 だからこそ景一郎は、このタイミングである決意をしていた。



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 現在の景一郎はCランクの冒険者だ。

 そしてあと3ヶ月でAランクにまで至らねばならない。

 そのためにも、まずはBランクへの昇格を急がねばならなかった。


 昇格試験は冒険者協会でしか受けられない。

 そういう意味では、今回の遠出は都合がよかった。


「私、受けた覚えがない」


 透流は考え込む。

 彼女はBランク冒険者だ。

 なのに試験を受けた覚えがないことが引っかかっているらしい。


「多分、透流は最初からBランクだったんじゃないか?」

「どうして分かるの?」


 透流は首をかしげる。


「ああ。Bランク認定試験っていっても、やることは冒険者としてのライセンスを取る時と同じだからな。その時点でBランクの基準を越えていれば、自動的に昇格試験を受かった扱いになるんだよ」


 生まれたとき、すべての冒険者がレベル1で始まるわけではない。

 年齢とともにレベルも上がり、体が全盛期を迎えるころにはモンスターを倒したことがなくともレベル20くらいには到達するという。


 そのためライセンスを貰いに来る時点で、冒険者のレベルは平均30レベルくらいらしい。

 そして才能のある冒険者なら50レベルに到達していることもある。

 多分、透流は最初からBランク冒険者として活動できるだけのステータスを有していたのだろう。


「走ったり……変な機械をつけたり……魔力を出しただけだった」

「Bランクまでは能力値だけで昇格できるからな」

「Aランクは……違うの?」


 透流の問いに、景一郎は頷いた。


「ああ。Aランクからは戦闘技術なんかも考慮されることになってくる」


 冒険者が最初に与えられる等級はE~Bだ。

 才能さえあればBランクには一足飛びに到達することができる。

 だがAランクはダンジョンで戦闘経験を重ね、才能と技術のどちらも高水準で備えていることが認められて初めて至ることが許される。


 だからこそ冒険者の間では、BランクとAランクで見る目が大きく変わってくる。


「ん」

「今日の目標はBランクに昇格。できれば、Aランク冒険者になる条件の達成だな」

「1日でできるの?」

「運次第だな。上手くスケジュールが組めれば良いんだけどな」


 Bランクの試験はあらかじめ予約しておけば簡単に受けられる。

 だがAランクは多少の偶然性が必要になる。

 上手くことが進めば、今日にでも昇格の条件を満たせるのだが――


「……よく分からない」


 透流はそう漏らした。


 冒険者ライセンスの更新は毎年。

 その経験がないということは、彼女が冒険者として活動したのは1年未満。

 あまりこういったルールには詳しくないのだろう。


「暇だったらAランクの試験も見ていくか? Aランクパーティを名乗るには、最低でももう1人はAランクになってもらう必要もあるし」

「ん……後学のため」


 そんな会話と共に、2人は冒険者協会のある場所へと向かっていった。



「はぁ……毎年更新とかメンドくさ……」


 赤髪の少女は歩く。

 パーカーにジーパンというラフな格好をした少女。

 彼女は不満げな表情を隠すことなく道を歩いている。


「夏休みだからって、帰って家手伝えってババアもうっさいし」


 何度目かのため息。


「こんなことしてるより、魔都でダンジョンに潜ってるほうが何倍もマシじゃん」


 何度目かの不満。

 そしてため息。


「…………はぁ。訓練場で気晴らしでもしないとやってらんないわよ」


 少女は帰り道の途中――冒険者協会へと足を運ぶことにした。


 新しいヒロインの影が――

 ちなみに彼女は、1章1話で景一郎がぶつかった少女と同一人物だったりします。


 今回の話は説明会になってしまったので、後ほどもう1話投稿いたします。

 


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