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紅章 16話 霹靂

 他愛のない雑談の後。

 紅音たちがそろそろ公園を離れようかとしていたとき、それは聞こえた。


「うひゃあぁ!?」


 心臓を鷲掴みにするようなアラート音。

 鹿目が悲鳴をあげる。


「び、びっくりしたぁ……。なんなのこれ……?」


 紅音は息を吐き出しながら鹿目へと振り返った。

 もっとも、彼女が驚いたのはアラートよりも鹿目の悲鳴だったけれど。


「…………鹿目ちゃん?」


 すると、そこにいたのはカードのようなものを握って震える鹿目の姿だった。

 

 あのカードには見覚えがあった。

 冒険者カードなどと呼ばれるライセンスであり、冒険者にとっての身分証明書のようなものだ。


 ――紅音はホテルの部屋に放置してきてしまったけれど。


「来見お姉さまが言ってたのはもしかして……そんな」


 免許不携帯。

 そんな事実に苦笑しそうになる紅音。

 一方で、鹿目の顔色はどんどん悪くなってゆく。


「鹿目ちゃんっ」


 このまま放っておいても話が進まない。


 そう判断した紅音は鹿目の眼前で手を打ち鳴らす。


「まず落ち着いてっ」


 乾いた音が鹿目の意識を現実へと引き戻すのと同時。

 紅音はそのまま鹿目の両肩を掴み、少し強めの語気で鹿目へと言い聞かせた。


「は、はい……」


 それが功を奏したのだろう。

 鹿目はカードから視線を外し、紅音へと目を向けた。


 しかし顔色は芳しくない。


「それで、この音がどういうことか分かるんだよね?」


 紅音は問う。


 どう考えても鹿目の反応はおかしい。

 だが常識に疎い紅音でも警報音がなんのために、どんなときに鳴るのかくらい知っている。


「これは…………町にモンスターが出現したことを伝える警報です」


 それは――緊急事態の時だ。


「うんうん」


 紅音は頷く。


「でもさ、確かこっちの世界で活動できるモンスターってCランクまでだよね。そこまで焦ることなの?」


 ――紅音は両親からダンジョンについての基礎知識は教えられている。


 CランクモンスターとBランクモンスターにおける最大の差。

 それはこの世界の環境に適応できるかどうかだ。


 原理は定かではないが、Bランクモンスターはこの世界で生存できないという。

 だからこちらの世界に現れるのは自然発生するCランク以下のモンスターのみ。


 Cランクとはいえ危険であることに間違いはない。

 だが冒険者を動員すれば鎮圧に困るような事態ではないように思えるのだが。


「このあたりに、モンスターが生息している場所はありません」


 そう語る鹿目。


「ここは都市部で、外部からモンスターが現れるのなら――すでに他の地域でも出現報告が出ていないとおかしいんです」


 ようやく紅音も鹿目が動揺した理由を察した。


 このあたりは決して人が少ない地域ではない。

 もしも少し前にモンスターの出現情報が――それも近辺であったのなら、誰かが気付いているべきなのだ。


 今でこそ動揺が広がり始めているが、鹿目のアラートが鳴るまでは誰も事態を察知した様子がなかった。


 言い換えるのなら、モンスターはいきなりこの町に出現したのだ。

 周囲にある町で一切目撃されることもなく。


「なのに真っ先にここで警報が鳴ったということは――」


 では、どうだろうか。


 モンスターが自然発生するのは人の目が届かない山奥などが主だ。

 真逆の、こんな街中でモンスターが突然現れる可能性。

 そんなものがあるのなら――


「――スタンピードダンジョンです」


 考えられるのは、あの赤いダンジョンだ。


 スタンピードダンジョン。

 2時間で暴走し、大量のモンスターを排出する最悪のダンジョンだ。

 こんな場所でモンスターが突然現れる可能性と考えれば、妥当なところだろう。


「『関東地方同時多発ダンジョン暴走事件』」


 鹿目が顔を伏せて語り出す。

 名前から察するに、以前に起きた事件なのだろう。


「関東地方に4つのレッドゲートが同時出現した最悪の事件です」


 4つ。

 

 スタンピードダンジョンは前提としてAランク以上しか存在しない。

 Aランクダンジョンが4つ同時発生というだけでも大事件。

 それもモンスターをばらまく可能性があるダンジョンとなれば全国規模でパニックが起きることは想像に難くない。


「あの事件は規模だけでも最悪といっていい出来事でした。ですが、あの事件においてもっとも恐ろしかったのは規模じゃありません」


 鹿目が唇を噛む。



「最初のスタンピードダンジョンが――()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「それでスタンピードダンジョンの暴走に誰も気付けなくて――気付いたときには手遅れになっていました」


 スタンピードダンジョンは2時間以内にクリアしてしまえば他のダンジョンと変わらない。


 しかし、ダンジョンが人目のつかない場所にあったなら。


 普通のダンジョンなら構わないだろう。

 発見が遅れるだけだ。

 しかしスタンピードダンジョンだけは違う。

 発見が遅れることが、そのまま致命傷となる。


「他の3つのスタンピードダンジョンは事前に止められましたが、最初に暴走したダンジョンだけは間に合わずに一般人が大量に亡くなった」


 当然だ。

 Aランクモンスターが一斉に野に放たれたとして。

 そんな絶望的な世界で一般人が生きられるわけがない。



「同じことが今――起きてしまっているのかもしれません」


 鹿目が語ったスタンピードダンジョンの同時発生事件は【聖剣】がSランク冒険者に昇格するキッカケになった事件です。

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