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終章 14話 最善策

「リゼちゃん。ここはいいからお兄ちゃんのところに向かって」


 影浦景一郎の幽閉。

 それを理解すると同時に、詞はそう言った。


「お兄ちゃんの足止めをしている方法が【魔界顕象】なら、リゼちゃんが行けばどうにかできるってことだよね?」


 【魔界顕象】の効果範囲が重なった際、2つのスキルは相殺される。

 厳密に言えば、後出しのほうが有利らしいのだがそれはこの際どうでも良い。

 大切なのは――景一郎を捕えているのが【魔界顕象】であるのなら、それを解除できるのはグリゼルダしかいないということだ。


「おそらくは……な。実際に試していない以上確証はないが、外部からでも【魔界顕象】をぶつければ相殺できるはずだ」


 それはグリゼルダも理解しているらしく、詞の提案に異を唱えることはない。


 あの【魔界顕象】がどれくらい景一郎を押さえ込めるのかは分からない。

 10分。

 30分。

 あるいは1時間か。

 詞の見立てでは、30分以上経っても景一郎を解放できないようなら――この戦争は負けだ。

 景一郎が戦場に戻った時点で、こちらの陣営は再起不能のダメージを負っていることだろう。


「だが良いのか? 敵は4人。我が抜ければ、誰かが我の代わりをすることになるのではないか?」


 援軍を合わせれば、ここにいる【先遣部隊】は4人。

 本来の手はずであれば、紅、菊理、雪子、グリゼルダの4人で対応すべき場面。

 しかし――


「まあそれは、ね? 場合によっては、僕たちも【先遣部隊】と直接戦う覚悟はしてるからさ」


 そのせいで景一郎の解放が遅れては意味がない。

 多少の無茶は承知の上。

 詞たちでなんとかグリゼルダが抜けた穴をカバーするしかない。


「無理は無理でも、勝つためには通さねばならぬ類の無理というわけだな」

「そーいうこと」


 やけくそではない。

 元より安全策だけを選んでいても勝てるとは思っていない。

 ここはリスクを負うべきタイミングなのだ。


「分かった。しばらくここを離れる」

「うん。お願い」


 グリゼルダは魔都北部を目指して戦場を離脱した。



 現れた【先遣部隊】の1人――オズワルド・ギグル。

 紅は彼と対峙していた。


「戦いとなると、これで2度目かのう」


 オズワルドは杖で地面を小突く。


「……そうですね」


 オリジンゲート。そして今回。

 戦いと呼べるものは、確かに2度目といっていいだろう。


「儂の力はすでに見せておるし、隠しておいて優位になることもないじゃろう」


 彼はクツクツと笑う。


 彼の職業は【付与術士】。

 粘着性の糸を操作するスキル――【蜘蛛の巣】に様々な効果を付与して戦うというのが基本戦術だ。


 知られているから隠すことはできない。

 知られていたからといって、その手段の多さは一定以上の効力を有する。

 だからこそ出し惜しみに意味はない。

 そんなところだろう。


「ほれ――【魔界顕象・巣食いの森(ラストネスト)】」

 

 直後、世界が一変した。


 紅たちを取り囲むように樹木が急激に伸びてゆく。

 コンクリートを割りながら空を目指す木々は太陽を遮り、数秒で一帯が鬱蒼とした森林地帯へと変貌した。


「ッ……!」


 そして紅はこの【魔界顕象】を見たことがある。

 だから――すぐさま宙へと逃げた。


「ほう。良い反応じゃのう」


 ほくそ笑むオズワルド。

  

 地面にはすでに――蜘蛛の巣が張り巡らされていた。

 【魔界顕象】の際に地面へと足を着けていれば、あの巣に捕らわれ動けなくなる。

 しかも魔力を吸収されるという凶悪な追加効果まである。

 だからこそ紅はすぐさま地面から退避したのだ。


 とはいえ安心はできない。

 なにも蜘蛛の巣があるのは地面だけではないのだ。

 木々の間にも蜘蛛の糸は存在している。

 あれに触れてもおそらく同じ結果だろう。


「これならどうじゃ?」

 

 オズワルドの指が紅へと向けられる。

 直後――高速で糸が射出された。

 その糸は……赤かった。


「――炎属性の付与、ですか」


 紅は糸を回避しながらつぶやく。


 彼女の傍らを通過した糸は近くの枝に着弾し――あっさりと焼き切った。

 通常の糸と違うのは色くらいだが、どうやらかなりの熱量を秘めているらしい。

 

「終わりじゃの」


 オズワルドは笑みを深めた。


 単発で撃ち込んだ糸。

 彼もそんな攻撃が当たるとは思っていないだろう。

 だからあれは、当てるためではなく回避させるための攻撃。


 紅に回避行動を起こさせ――地面に落とすための攻撃だ。


 迫ってくる地面。そして蜘蛛の巣。

 周囲に掴めるような枝はない。

 このまま重力に従えば彼女は蜘蛛の巣に捕らわれ、その瞬間に勝敗が決まる。


 だが――



「トラップセット――【矢印】」



 そんなこと、すでに分かっている。


 着地の直前、紅の足元に矢印が浮かんだ。

 【矢印】トラップ。

 それは本来、景一郎のユニークスキルだったもの。


 しかし紅は今、彼の使徒となっている。

 だからこそ彼女は、彼が有しているスキルを使用できるのだ。

 矢印を扱える以上、足場の有無などそれほど大きな問題ではない。


「ぬッ……!」


 矢印に乗った彼女の体がオズワルドに肉薄する。

 それに合わせて紅は双剣を振り抜いた。


 しかしその斬撃はオズワルド――彼の背中から伸びる蜘蛛の脚に防がれる。

 付与術で硬化されているのか、蜘蛛の脚は彼女の剣でも斬ることができない。


 だが問題はない。

 

「今の私たちには、景一郎がついています」


 さっきの行動は明らかにオズワルドの虚を突いていた。

 なら、問題はない。

 紅の実力は、すでに【先遣部隊】の裏をかける領域にある。


「だから、簡単に勝てるとは思わないでください」


 ――勝算は、充分にある。


 最初は紅VSオズワルドから。



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