終章 8話 決戦
2月14日。午後1時。
旧東京――通称、魔都。
その南部において10を越えるパーティが集結していた。
「おお……さすが最終決戦は役者が違うねぇ」
魔都周辺にある森――その上から詞は部隊を俯瞰する。
100を越える人数の冒険者。
しかも精鋭ぞろいとなればそうそう見られるものではない。
その総戦力はオリジンゲート攻略戦よりも数段上だろう。
「全員、最低でもBランクですわね。それも、実力そのものはほぼAランクと評されている方々ばかりですわ」
樹下に立つ明乃がそう口にした。
あの冒険者部隊の中には明らかに日本人離れした顔立ちの者もいる。
おそらく明乃や来見あたりが外国から集めてきた戦力なのだろう。
「まあ、Cランクがいても巻き添えで死ぬだけでしょ」
「ん……否定できない」
香子の言葉に透流は同意を示す。
――【先遣部隊】のスキルにより様変わりした魔都。
影のように黒に染まった城下町は多数のモンスターが跋扈している。
そして、そのどれもがAランク相当。
生半可な戦力では雑兵にさえ敵わない。
「――これでも、上手く集められたほうなのであろうな」
グリゼルダは小さく息を吐く。
これだけの戦力を短期間で集めるのには相当な手腕が要されるだろう。
とはいえ彼女の言い分も分からなくはない。
Aランクに近い実力。
それはこの世界では上澄みでも、この戦場においては本当に最低限――戦力としては使えても生存には期待できない程度の実力にすぎない。
雑兵であるモンスターの対応が精々。
【先遣部隊】と矛を交えるなど考えられない。
「両翼をSランク冒険者が。中央は僕たち【聖域】がって感じかぁ」
詞は見覚えのある顔をいくつか見つけた。
知り合いというわけではない。
ただ単純に、彼にも見覚えがある程度に有名だということだ。
日本にいる6人のSランク冒険者。
前回のオリジンゲート攻略に参加していなかった2人も今回はいるらしい。
「この国が擁する6人のSランク冒険者を全員投入。文字通り全力をかけているわけですわね」
「当然であろう。戦力を出し渋って負ければ目も当てられぬ」
「同意ですわ」
グリゼルダに首肯する明乃。
今回の一戦に世界のすべてを託しているのだ。
再戦などない。
あったとすればそれは敗戦と同義。
余力など残しておくだけ無駄なのだ。
「それで……特にアドバイスとかないのかなぁ?」
詞は木から飛び降りると、戦場に足を運んでいた白い少女――天眼来見に声をかける。
天眼来見。
スキル【天眼】によりここまでの戦場を描き続けてきた少女。
彼女に戦闘力はないものの、それでもここを訪れていた。
まぎれもなく彼女もこの戦いの中心人物。
戦いの結末をこの場で見届けるつもりなのだろう。
「賽は投げられたった奴だね。もう、私が打てる手はないかな」
来見はそう笑う。
「ここから先は、君たちがいかに限界以上の結果を出してくれるかにかかっているよ」
「限界以上の結果を出すの前提なんだ……」
「邪道も外法も使った。これでなんとか対等の舞台に立っただけだからね」
0%の勝利を1%に変えるため、戦争を100年早めた。
1%を絶やさぬため、1人の男性を生贄に捧げた。
邪道、外法。
その例えに間違いはないのだろう。
「で? いつ始めるわけ」
「そうだね。あと半刻といったところかな? それ以上準備に時間をかけたら、向こうから仕掛けてくるみたいだからね」
香子に来見はそう答える。
来見には未来が視える。
だから、どこまでなら相手に先手を譲らすに済むのかが分かる。
それは戦いにおいて大きな有利だ。
今回は大量の冒険者を投入した戦争。
一度でも主導権を奪われてしまえば、その勢いのまますべてが終わりかねないのだから。
「ええっと……じゃあ確認」
詞はこの場にいる【聖域】のメンバーの前で手を叩く。
すると【聖域】――この場にいない景一郎以外の視線が彼へと集まった。
「鋼さん、糸見さん、忍足さん、リゼちゃんは遊撃。【先遣部隊】に1対1でも戦える貴重な戦力だからね」
「分かりました」
「それは……楽しみですね」
「ん」
「そうすべきであろうな。奴らを一人でもフリーにしては、このくらいの部隊など数分で壊滅し得る」
今回、来見は用意した戦力のほとんどすべてをここに集めている。
逆に言えば、向こうもこちら側の迎撃に大きく力を割いてくるはず。
軽く見積もっても2人以上は【先遣部隊】がこの戦場に現れると思っておくべきだ。
だからこそ紅たち『使徒』を有効に使わねばならない。
彼女たちだけが【先遣部隊】を討てる可能性のある手札なのだから。
「で、残りものな僕たちは基本は露払い。場合によっては【先遣部隊】の相手もするかもね。でも、どちらかというと足止め優先って感じで」
とはいえ、すべての【先遣部隊】を使徒である彼女たちに任せるわけにもいかないだろう。
1人。
たった1人だけでも詞たちが【先遣部隊】のメンバーを止められたのなら、その間に残る【先遣部隊】の誰かを集中攻撃で撃破できるかもしれない。
そうなれば詞たちの手で勝てなくとも、戦略的価値は高い。
「分かりましたわ」
「ん」
「…………そうね」
微妙に遅れた香子の返事。
それを聞いて透流が首をかしげる。
「香子ちゃんは不満」
「はぁ……? そんなわけないでしょ」
透流の指摘にも特に反応しない香子。
苛立った様子も、緊張した様子もない。
だからといって気が抜けているわけでもない。
「……どんな役回りでもやるわよ。アタシがアイツに出来る最後のことだから」
そう香子がつぶやく。
高い集中力とゆとりを兼ね備えた状態。
ある意味で理想ともいえる状態だった。
「ひゅーひゅー。尽くす系女子だぁ」
「ん。いじらしい」
「は、はぁぁぁ!? なんでそういう話になるわけ!?」
――それはそれとして、いつも通りに煽るのだけれど。
景一郎は仲間たちと別行動です。
ちなみに他のSランク冒険者の描写はありません。
ランク的には下ですが、これまでの戦いで超強化されている詞たちのほうが圧倒的に強いので。