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8章 エピローグ2 ラストダンジョン

 現地では魔都と呼ばれていた都市。

 バベルのスキルにより大きく様相を変えた黒い城下町。

 その中央には西洋風の城――魔天城がそびえていた。


「――帰ってきたようじゃの」


 その玉座にて、老人――オズワルドは仲間の帰りを出迎える。


 バベル。レイチェル。ガロウ。

 その顔触れは出立の際よりも減っていた。


「ああ……散々な目に遭ったぜ」

「ルーシーとグレミィがおらぬのう……死んだか?」


 頭を掻きながらぼやくレイチェルにオズワルドは問う。


「人魚姫は生きてるよ」


 そう言うと、レイチェルが懐から何かを取り出す。

 ――水風船だ。


 彼は水風船を床に放る。

 そのまま水風船は落下し――破裂した。


 床に広がる水たまり。

 しかしその中央が徐々に盛り上がり、人の形を成してゆく。


「やっと戻れたわね……!」


 水が肌の色を取り戻し、一糸まとわぬ少女――ルーシーとなる。

 先程の水風船に溜められていたのは、液化していたルーシーだったのだ。

 

 ルーシーが追い込まれた際に使う緊急避難用のスキル。

 彼女は肉体を水に変えることで外部からのダメージをすべて遮断し、生存能力を向上させる。

 しかしそれは液化したまま長距離を移動できるようなスキルではない。

 自力でここまで戻ることができないため、仕方なくレイチェルが袋詰めにして持ち帰ったのだ。


「【水魔法改メ・制御偏重】」


 透明な水がルーシーの局部を隠す。

 多層に重なる帯状の水。

 それにより光は複雑に屈折し、透明な水の向こう側にある肌が透けて見えることはない。


「バベル~!? ちょっとアタシの髪、今すぐ治してほしいんだけど!」


 服を探すよりも早くルーシーはバベルを呼ぶ。


「ふふ……体より髪の心配なんだね」


 半ば予想していたのか、バベルは特に疑問を挟むこともなく彼女へと歩み寄る。

 そしてバベルの指先がルーシーの毛先をくすぐった。


 たったそれだけ。

 それだけでルーシーの切り落とされていたロングヘアが姿を取り戻す。

 ――回復魔法で髪は伸ばせない。

 そんな常識を覆せたのは、バベルの能力が『治療』ではないからだ。


 治すのではなく直す。


 バベルはルーシーの髪の細胞を解析・複製することで頭髪を作り出したのだ。

 だからあれは大別するのなら、治療というよりも改造に近い。


「ん~。髪質はちょっと微妙だけどまあ……ケアでなんとかなる……わねっ」


 ルーシーは長髪を撫でながらそう呟く。

 レイチェルの目からは分からないが、再現しただけの髪と日々ケアを続けてきた髪では質感が違うらしい。


「別にショートでも良かったんじゃないか? 俺は似合うと思うけどな」

「はあ!? アンタが勝手にアタシの可愛いを決めないでくれる!?」

「…………へい」


 ともあれ、下手に口を出すと火傷しそうだ。


「あ、そうだシオン」


 思い出したようにバベルが声を上げる。

 彼女が目を向けたのは玉座の一つに座っているメイド服の女性――シオンだ。

 シオンはレイチェル達を特に出迎えるでもなく、空虚な瞳を向けているだけだった。


 バベルはそんな彼女に向けて何かを放り投げる。


「あら……なんですかこのゴミは」


 危なげなくキャッチしたシオンは、手中のものを見て首をわずかに傾ける。


「グレミィの死体」


 バベルが投げ渡した物体。

 それはグレミィの死体だ。

 どうやら彼の真の姿とはかなり奇妙なものだったらしく、彼の魔力を宿していた死体は――スライムだった。


 元よりそうだったのか、死んだからなのか。

 その粘体はドロドロと掴みどころがなく、指の隙間からこぼれそうになる。


 感情を表に出さないシオンだからこそ平気そうに見えるが、レイチェルだったら1秒で叫びながら床に投げ捨てている自信があった。

 ――端的に言えば気持ち悪い。


「このゴミが……なるほど」

「いや……正体が分かったらゴミ呼びしてやるなよ……一応仲間の亡骸なんだからよ」


 興味深そうにスライムを指でつつくシオン。

 とはいえ口から出てきたのは仲間の死体に対するものとは思えない暴言だった。


「レイチェル殿! シオン嬢は死体がゴミだと言っているのではなく、グレミィ殿をゴミだと言っているのではないか!?」

「めちゃくちゃエゲつない人格否定じゃねぇか」


 なぜそれがフォローになると思ったのか。


 レイチェルはガロウの言葉に肩を落とす。

 なんというか、グレミィには強く生きて欲しい。

 ――死んでいるけれど。


「まあ……死体でも君なら役立てられるんじゃないかな?」


 バベルはそう笑いかける。

 その意味が分からないものはこの場にいない。


 【ネクロマンサー】であるシオンに死体を渡す意味を分からない者はいない。


「はい。ありがとうございます」


 お辞儀と共にこの場を離れるシオン。

 その横顔は――わずかに笑みを浮かべていた。

 おそらく次の戦いに向け、あの死体を調整するのだろう。


「それじゃあ僕たちも……楽しいフィナーレに向けて準備をしようか」


 バベルは両手を広げて笑う。


「華やかなハッピーエンドまで続くラストダンジョンを作ってあげようじゃないか」


 侵略をする者と、される者。

 もしこの世界が物語なら、きっと悪者は【先遣部隊(インヴェーダーズ)】だろう。


 しかしバベルは頓着などしない。

 善悪など些末事。

 主人公だろうとラスボスだろうと。

 彼女にとって大切なのは、そうやって紡がれる戦いが退屈しのぎになるかどうかだ。


「まあ、勝つのはボクだけどね」


 魔王は勇者の飛躍を望む。

 城にたどりつくまでもなく死なれるようではつまらないから。

 肌を裂いてくれぬような弱者なら生を感じるに至らないから。

 そして――



「だってゲームは……勝たなきゃ面白くないからさ」



 ――いくら力を重ねても、自分の命にまで届きはしないと確信しているから。


 そして物語は最終章へ――


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