表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/275

8章 21話 降臨

「……へぇ。そういうの分かるんだ」


 詞は目を細めた。


 戦いの状況は詞も通信機を通じてある程度は把握するよう努めている。

 しかし今のところ彼に決着の知らせはない。

 つまりレイチェルは、ほぼリアルタイムでグレミィの死を知ったということだ。


「ちゃんと把握しとかねぇと、どうしようもない奴ばっかだからな」


 そう肩をすくめるレイチェル。


「……それにしても……なぁ」


 彼は腰に手を当ててため息を吐き出す。


「――――思いのほかショックだぜ。一応、他人同士なんだけどな」


 髪をかき上げるとレイチェルはようやく詞たちへと目を向けた。

 どうにも気が乗らないらしく、先程まで以上に覇気が感じられない。


「自業自得でしょ?」

「ま、否定はしねぇさ」


 そもそもとして戦争を仕掛けてきたのはレイチェルたちのだ。

 詞たちは迎撃しただけであり、その結果の死傷に文句をつけられる筋合いもない。


「それにしても……やったのはグリゼルダか? 最初から姿が見えなかったし、実力的にも妥当だろうな」


 レイチェルは顎に手を当てて思考を巡らせている。

 ――当たりだ。

 彼は自身の知る情報から、他の戦場で起きた出来事を言い当てていた。


「ルーシーもガロウも戦線離脱。雨もやんできたし――そろそろお開きだな」


 窓の向こうでは晴れ空が見え始めている。

 死の雨はもう降っていない。

 ――徐々に戦闘も収束に向かいつつある。

 だが――


「させると思う?」


 ――この戦場はまだ終わってなどいない。


 詞は銃を構えた。

 それを見たレイチェルは苦笑する。


「やるさ。やらねぇと死ぬからな」

 

 言い終わると同時に腕を振るうレイチェル。

 そのスイングに合わせ小石が飛ぶ。

 廊下を跳ねる小石。

 そしてトラップが起動し――大量の防壁が廊下を封鎖した。


 確か、レイチェルの背後には窓があった。

 おそらく詞たちが防壁に手こずっている間に、窓を破壊して逃げようとしているのだろう。


「この――」

「こっちが早いよっ!」


 詞は防壁に斬りかかろうとした香子を止める。


 そのまま彼は――天井を斬撃でくりぬいた。

 詞が天井の穴を通って上階に登れば、香子と透流も追従する。

 防壁を正面から突破するより、上階を経由して移動したほうが速い。

 詞たちは速度を緩めることなく窓を突き破って建物を飛び出した。


「ん……もうかなり逃げてる」


 透流の言う通り、外に逃げたレイチェルは想像よりも遠い。

 背中を見せることを一切気にしない全力疾走で彼の姿が離れてゆく。


 今から追いかけても、間に合わないだろう。

 むしろ焦れば追尾妨害のためのトラップにかかる可能性が上がる。

 だからここは追撃を諦めるべき場面だ。

 ――本来なら。


「――あらあら。まだまだ遊べるみたいですね」

「ん……僥倖」


 逃走するレイチェルの前に二人の女性が現れる。

 糸見菊理。

 忍足雪子。

 自身の戦場を片付けた二人が、すでにここまで駆けつけていたのだ。


「オイオイ――ちょっと早くねぇか?」


 さすがにあの二人を相手に強行突破というわけにもいかなかったのだろう。

 レイチェルはその場で立ち止まる。


「追いついたっと」

「――逃がさないから」

「ん。包囲」


 レイチェルの前方は菊理と雪子が。

 後方は詞たちが。

 前後を挟まれたことでレイチェルの逃げ場所はなくなった。


 5対1。

 いくら彼が戦上手であろうとも、この差は覆せないだろう。


 詞がそう確信したとき――



「ふふ……今回は失敗だったみたいだね。レイチェル」



 声が聞こえた。

 透き通るような声。

 妖しく、危うい声が。


「あれは……」


 詞は思わぬ来訪者に眉を寄せる。

 ――来見の予知では、彼女が現れる可能性は低かったはず。

 どうやら今回は、その低確率を引いてしまったらしい。


 ――【先遣部隊】のリーダーが現れてしまう未来を。


「――――――姫」


 レイチェルの視線の先では白髪の少女――バベル・エンドが微笑んでいた。


 第二次侵攻編も終わりが近づいてきました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ