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8章  6話 開戦

「……強烈でしたわね」


 明乃はそうぼやく。

 思い出すのは、ついさっき受けた一撃だ。

 弾いただけだというのに、防具はすべて砕かれて彼女自身も吹っ飛ばされた。

 おかげで彼女は天眼邸の壁をいくつもぶち抜くはめになった。

 

「大丈夫か?」


 そんな彼女に語りかけてきたのは景一郎だ。

 ――今回、景一郎はこの戦いに参加できない。

 どうやら敵は彼の位置を常に把握しており、彼が動いても戦闘にならないらしいのだ。

 ゆえに彼は拠点防衛を兼ね、ここで待機することとなっている。


「今回、俺はあんまり役に立てないみたいだからな。せめて――」


 景一郎が差し出したのは、さっき破壊されたばかりの大盾だった。

 彼の能力で大盾を壊される前の状態に復元したようだ。


 さすがに防具がないのでは足でまといでしかない。

 明乃は彼から大盾を受け取る。


「万全以上の状況で受けて1発が限界……正直、次は自信がありませんわね」

「それじゃあ、次を撃たせないように抑えに行かないとねぇ」


 そう笑うのは来見だ。

 

 明乃が受けた桁違いの威力を内包した砲撃。

 あれを防げたのは来見の予知によるところが大きい。

 予知によって万全の対策ができたからこそ、明乃が防げるレベルにまで威力を削れたのだから。


「……事前予測から居場所は変わってないのか?」

「そうだね。向こうも移動しているだろうけど、今から向かえばちょうど予定通りの場所で接触できるはずだよ」


 景一郎の問いに来見はそう答えた。


 先程、ここへと向けて爆撃と砲撃を行った相手。

 彼の動きはすでに来見が予知していた。


「――分かりましたわ」


 明乃は立ち上がる。


「それでは予定通り、わたくしたち3人であの砲撃をした相手を討ち取りに行くわけですわね」


 明乃は近くに待機している2人――グリゼルダとナツメを見てそう言った。


「おそらく、あれをやったのはグレミィであろう」

「――となると私のスキルは相性が悪いと思うのですが」


 グリゼルダの分析にナツメはそう漏らした。


 元は同じパーティだったのだ。

 グリゼルダなら見た攻撃から、それが誰によるものかを言い当てることなどそう難しくはないだろう。


 しかし相手がグレミィであると困るのがナツメだ。

 彼女のスキルは対生物特化。

 どうやらグレミィは生物ではないらしく、彼女のスキルが発動しない。


「先に言っておきますけれど、【勅命遵守】は使いませんわよ。あれは短期間で何度も使って良いスキルではありませんから」


 明乃は来見に釘を刺す。


 この采配をしたのはほかならぬ来見だ。

 意味もなく相性の悪いナツメを配置するとは思えない。

 だとすると【勅命遵守】による強化を期待している可能性が高い。


 主が命じることで、命令を実行するための能力を無理やりに引き上げるスキル――【勅命遵守】。

 だがあれは本人にかなりの無茶を強いるスキルだ。

 一時的とはいえ、ナツメを『明乃の命令を実行することに特化した生物』へと作り変えてしまうのだから。

 ゆえに【勅命遵守】を前提とした戦いに臨むわけにはいかない。


「分かってるさ。私なりに考えての一手なんだ。信じて欲しいとしか言えないかな」

「さすがにこの状況で考えなしってことはないだろ。――予定通りで頼む」


 白々しく笑う来見。

 景一郎はそれを見て嘆息する。


 すでに戦いは始まっている。

 彼の言う通り、予定通りに戦うしかないのだろう。


「主殿がそう言うのであれば我は構わぬがな」

「私になんらかの役割がある、というわけでしょうね」


 グリゼルダもナツメもすでに戦いの意思を見せている。

 

「そうそう。それじゃあ早く砲撃手を抑えに行ってくれないかな? あと20秒遅れたら出方を変える必要が出てくるからね」


 来見がそう急かしてくる。

 ――彼女には、動く戦局が秒単位で視えているのだろう。


「それでは景一郎様、行ってきますわ」

「…………ああ」


 背中に景一郎の声を受け、明乃たちは戦場に向かった。



「戦いに行けないのが不満かな?」

「そりゃあ……そうだろ」


 天眼邸に残された景一郎は息を吐く。


 来見から『マーキング』とやらの存在を聞かされたのは先日のことだった。

 そして彼は彼女に待機を命じられた。

 彼女いわく、そうしたほうが予知にブレが少ないらしい。


「念のために言っておくと、君の配置にもちゃんと意味はあるんだよ」


 それでも不満を上手く消化できていない景一郎へと彼女は語りかける。


「敵は君の位置を常に把握し、君との戦闘を避ける。それは言い換えれば、君を上手く配置することで敵の動きを誘導できるってことだ」


 戦えない以上、景一郎は敵を討ち取れない。

 だが、戦場に何の影響も及ぼせないわけではないのだ。

 ある意味で、彼の存在そのものが戦場に波紋を広げる。

 それは、マーキングを施すほどに警戒されていることが証明していた。


「ここに君が位置取り続ければ【先遣部隊(インヴェーダーズ)】は君の背後にいる一般人たちを狙わない」


 今回の戦いにおける最大の問題。

 それは一般人だった。

 町が戦場になる以上、一般人が巻き込まれる可能性が高かったのだ。


「君がここに陣取り続ければ、他の皆は周囲の被害を気にせずに戦えるってわけだ」


 【先遣部隊】がどちらの方角から来るかは分かっている。

 なら、避難した一般人と【先遣部隊】の間に景一郎を配置すればいい。

 そうすれば彼が侵略を防ぐ壁となり、一般人を戦いに巻き込まずに済む。

 それが来見の主張だ。


「なんか……微妙な気分だな」


 とはいえ、やっていることは突っ立っているだけ。

 意味のある棒立ちといわれても、戦っている皆のことを思えば気が急いてしまう。

 それでも、出来ることなどないのだけれど。


「今回は、人に任せるのが君の仕事ってわけだ。天に物事を任せるのは感心しないけど、人に任せることが必要な場面っていうのはよくあるものだよ。私たち……私みたいな人間にはね」


 一方で、飄々とした態度で来見は戦場のある方角を眺めていた。



「ふぅ、緊張するなぁ」


 詞は深呼吸を繰り返す。

 彼の周囲には透流、香子、雪子、菊理がいた。

 ――詞を中心として。


「ていうか僕、なんで【聖剣】の指示まで任されてるの?」

「ん……私たちは基本的に作戦とか立てない」

「指揮官は複数人いても意味がありませんから」

「ふぇぇ……しんどぉ」


 詞は肩を落とす。


 【面影】のリーダーというだけでも重荷なのに、よりにもよって【聖剣】の作戦まで任されているのだ。

 泣き言も言いたくなる。

 ――【聖剣】は普段からロクに作戦を立てないという話は景一郎から聞かされていたため、こうなる可能性は薄々予想していたけれど。


「そうこう言ってる間に……来たわよ」


 香子の視線の先には3人の影があった。


 レイチェル、ルーシー、ガロウ。

 【先遣部隊】だ。

 大通りの真ん中を走り、彼らはこちらに接近している。


「3人かぁ――予知の中で一番確率が高かったパターンだね」


 事前の予測から大きく外れなかったことにわずかな安堵を覚える。

 敵の動きが予知できているというのは助かる。


「それじゃあ行こうか。爆撃が来るかもしれないからそっちの警戒も忘れないでね」


 詞はそう言って【先遣部隊】と対峙した。



「――待ち構えてんなぁ」

 

 走りながらレイチェルはそう漏らした。


「さっきの砲撃もだけど、妙に向こうの手際の良さが気にかかるぜ」


 彼は考えを巡らせる。



「――――多分、向こうに予知能力者がいるな」



 時間を越えてこちらの動きを察知している敵の存在。

 それが彼の結論だった。


「はぁ? 発想が飛躍しすぎじゃないの?」

「いや。多分ほぼ確定だな」


 レイチェルはルーシーの言葉を否定した。


 無論、予知能力者などめったにいるものではない。

 レイチェルのいる世界――その250年の歴史においても数人しか現れなかった奇跡。

 その奇跡が――よりにもよってこの世代で生まれていたのなら。

 いまだにレイチェル達がこの国を支配できていないという奇跡にも説明がつく。


「どうしてそうなるのだッ!?」

「まず、あの影使いが前線に出て来てねぇことだ。前の感じからして、あいつは後ろでどんと構えてるタイプのリーダーじゃねぇ。大局のためでも仲間を犠牲に出来ない――率先して前に出て戦うタイプだ。この戦いで前に出てこないのは不自然なんだよ」


 ガロウの問いに答える。


「つまり、俺のマーキングに気付いてやがる。気付いたうえで、逆に利用してる感じだな」


 正攻法でマーキングに気付くのは不可能。

 しかし影浦景一郎の動向は、マーキングに気付いていなければありえない。


「あのマーキングは俺たちの世界でも術者以外には見抜けない。もし可能だとしたら――未来で俺たちの動きを知っている場合くらいだ」


 ――なら正攻法ではない手段でマーキングを看破したと考えるべき。

 未来予知なら、レイチェルの動きから逆算してマーキングの存在に勘づいてもおかしくはない。


「あと――すでに一般人の避難が終わってやがる。これはさすがに出来すぎだろ」


 一般人の完全な避難などすぐに終わるものではない。

 別の可能性――たとえば内通者がいたとしても間に合わなかったはずだ。

 レイチェル達が侵攻を決めるよりも早く準備をしていたはずなのだ。

 本人たちよりも先に作戦を知るなど、予知しか考えられない。


「大方、あの影使いが予知能力者を守ってるんだろうな」


 なら、景一郎と戦わないというレイチェルの方針も筒抜け。

 そうして生まれた安全圏に予知能力者は滑り込んでいることだろう。


「うぬ! では予定を変えて予知能力者を殺しに行こうではないか!」


 なら、その裏をかいて予知能力者狙いに切り替えるか?

 ――愚の骨頂。


「いや、あの影使いは気軽に挑むにはリスキーだからな。今回は、向こうの手駒を削り落とすだけでいいだろ」


 自分のスタイルを崩す。

 それは思わぬ隙を生む。

 そんなやり方で敵の最高戦力を迎え撃つほど傲慢じゃない。。


「それより――接敵だぜ」


 ――きっちり、やれるだけの仕事をやらせてもらう。


 本格戦闘は次回から。


 面白かった! 続きが気になる!

 そう思ってくださった方は、ぜひブクマ、評価、感想をお願いいたします。

 皆様の応援は影浦景一郎の経験値となり、彼のレベルアップの一助となります。

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