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8章  3話 クラン結成

「――提案がありますわ」


 明乃がそう宣言する。


 彼女がいるのは天眼邸の一室。

 そこには主である来見だけでなく、【面影】と【聖剣】の面々が勢揃いしていた。

 いうならばここは【先遣部隊】対策チームの拠点といったところか。



「クランを結成いたしませんか?」



 明乃の提案は景一郎もあまり予想していないものだった。

 クラン。

 もちろんその制度は知っているが、性質上【面影】にも【聖剣】にも縁のないものだった。


「ん……クランって何?」


 透流が手を上げる。

 彼女はあまり冒険者の制度に詳しくないようだった。

 クランについて知らないのは仕方がないだろう。


「一言で言えば連合パーティですわ」

「えっと……それってメリットあるの?」


 明乃の言葉にそう問い返すのは詞だった。


 クランとは複数のパーティを1つのグループに統合したもの。

 メンバーや装備の貸し借りがスムーズになるなどが主なメリットだ。

 だが問題は、それらのメリットが景一郎たちに必要なのかという点である。


「手続きなど細々としたメリットもありますけど、最大のメリットはパーティ単位ではなくクラン単位で行動できるという点ですわね」

「で、つまりどういうこと?」

「今後のためですわ」


 そこで明乃は咳払いをする。


「これから先、いずれわたくしたちは【先遣部隊】に支配された魔都を取り返すための戦いに挑むことになりますわ」

「まあ、ならなかった場合はお察しだね」


 へらりと来見が笑う。


 このままいつまでも守勢に回るわけにはいかない。

 どこかで攻勢に――奪われた領土を奪還するために戦わねばならない。

 それは当然の話だ。


「……そして、魔都奪還作戦はおそらく国家主動のものとなりますわ」

「だろうな」


 景一郎も同意する。


 ダンジョン攻略の話ではないのだ。

 奪われているのは日本の国土。

 冒険者が勝手に判断して、勝手に攻め込むという話にはならないだろう。

 国家の名の下で部隊を編成し、戦うことになるはずだ。


「そうなればおそらく、【面影】と【聖剣】は別枠で動くことになりますわ」

「……なんで?」

「シンプルに、この国におけるトップ2だからですわ。現時点においても、魔都には軽く100を越えるAランクモンスターが徘徊しているわけですし。だから、トップクラスのパーティ1つくらいはモンスターの殲滅に充てたい――と考えられても仕方がありませんの」


 ――こればかりは現場の人間とその他の意識の差だろう。


 直接戦った景一郎たちは、全霊で挑まなければ【先遣部隊】に勝てないと分かっている。

 だが指示を出す側にはそこまでの認識がない。

 実際の敵戦力よりも、1~2ランクほどを下回った予測をしているはずだ。

 

 とはいえそれを責めるわけにもいかない。

 【先遣部隊】クラスの実力者を正確に見定めるには、同レベルの者でなければならない。

 何より、敵の1人1人が国内最強の冒険者でさえ倒せないかもしれないレベルの強者だ――などと信じたくないだろうから。


 そんな希望的観測もあいまって、政府はまだ【先遣部隊】の実力を見誤っている可能性が高い。

 実際に戦う側としては迷惑な話だが、気持ちは分からなくもない。


「でもクランは違いますわ。クラン単位でしか指示を受けることなく、どのように人員を分けるのかはこちらに一任されますの」


 このままでは【面影】と【聖剣】が別の指示を受ける可能性が高い。

 しかしクランを作ってしまえば、【面影】と【聖剣】は常に一括りで行動できるというわけだ。


 ――もっとも、若干の違和感はあるけれど。


(多分、天眼来見の発案だろうな)


 景一郎は来見を盗み見る。

 彼女はいつも通り白々しく微笑んでいる。


(クラン結成によって起こる変化が、今後のどこかで必要になるってところか)


 その詳細は分からない。

 だが――


(明乃の口から俺たちに伝わっているってことは、あいつもちゃんと事情は聞いてるってことだ)


 明乃は聡明な女性だ。

 来見の言うことを鵜呑みにして、ただの伝言係になっているわけがない。


(明乃なりに吟味して、必要と判断した――ってことなら、俺が口を挟むこともないか)


 景一郎は【面影】のリーダーだ。

 だが、組織を運用する手腕という面において明乃には全幅の信頼を置いている。

 自分が判断するより、彼女のほうが上手くやれるだろうと信じている。

 なら、横槍を入れる必要もない。

 問題があれば、リーダーとして自分が責任を負えばいい。


「――雑な話、対【先遣部隊】特化チームを作ろうって話さ」


 そこで口を開いたのは来見だった。


「【面影】は特に、このままでは露払いを任される可能性が高い。確実に【先遣部隊】のメンバーとの直接対決へと臨むには、【聖剣】とクラン契約を結んでおいたほうが良いんだよ」


 彼女はそう主張した。


 反対の声は上がらない。

 何度か視線を感じたところから察するに、景一郎が反対しなかったため他の面々も沈黙を貫いているというところか。


「そしてもちろん、クラン結成となれば参加パーティのリーダーの合意が必要なのですけれど――」

「私は構いません」


 明乃の言葉にいち早く答えたのは――紅だった。

 紅は景一郎へと視線を向ける。


「むしろ景一郎たちが一緒に戦ってくれるのなら――私は心強いです」


 そう口元を緩めた。


「もちろん、俺も賛成だ。あいつらには俺たち全員で挑まなければ勝てないからな」


 力を合わせなければならない脅威があり。

 手を組む相手は信頼できる人物。

 拒絶するべき要素がなかった。


「それではクラン結成に異議なし、ということですわね」


 明乃の言葉に全員が頷いた。



「となるとクランリーダーが必要ですわね」



「クランリーダー?」

「ん……クランにはパーティとは別にリーダーが必要」


 詞が首をひねると、雪子が補足した。


 クランは樹形図のような組織体系で成り立っている。

 クランリーダーがパーティリーダーに指示を出し、パーティリーダーがパーティを運用する。

 だからこそ、クランに所属するすべてのパーティリーダーの上に立つ人物が必要なのだ。


「それでクランリーダーなのですが……」

「………………なんだ?」


 景一郎は周囲をうかがった。

 明乃だけではない――複数の視線が彼へと向けられていたから。


「まあ、そうなりますわね」


 息を吐く明乃。


「うんうん」

「ん」

「やはり主殿には王がふさわしいだろう」


 詞は嬉しそうに、透流は無表情に同意を示す。

 グリゼルダも誇らしげにしており、彼がクランリーダーに選出されることへの不満を一切見せない。


「どっちかのパーティのリーダーがやるのが普通なんじゃない?」


 そう言ったのは香子だ。

 確かに彼女の言う通り、伝統的にクランリーダーはパーティリーダーの内の誰かが昇格する形で決定される。


 つまりこの場合、紅も候補として――


「そ、そういうことなら紅も――」

「いえ。私も景一郎を推薦します」


 しかし、あっさりと紅は景一郎の提案を辞退する。


「ん。私も」

「私もそれで良いと思います」


 さらにそう追従する雪子と菊理。

 つまり――景一郎以外の同意が得られてしまったわけだ。


「――――――……そういうことなら、分かった」


 簡単な判断ではない。

 重い責任だ。

 だが、投げ出していい責任ではない。

 だから景一郎はそう答えた。



「クランリーダー……任された」



 【面影】と【聖剣】。

 国内にいるSランク冒険者の半分以上にあたる4人が所属している――国内で最大戦力を誇るクランがここに結成された。


「? そういえば、クランリーダーってパーティリーダーと兼任できたか?」


 景一郎はふと気になったことを口にした。

 クラン結成など考えてもいなかったため、彼も詳細を把握しているとは言い難い。


 しかし指示系統から考えて、クランリーダーとパーティリーダーが兼任できるというのはおかしな話だ。

 普通に考えれば、クランリーダーに昇格した時点でパーティリーダーとしての役割は辞することになると考えるのが自然だろう。


「いえ、できませんわ」

「つまり【面影】はリーダー不在になるってわけか」


 どうやら予想通りだったようで、新たな問題が発生した。

 クランリーダーが決まった代わりに、【面影】のリーダーが不在となってしまったのだ。


「ですので、景一郎様には後任を指名していただく必要がありますわ」

(次のリーダー、か)


 リーダーが命を落としたなどの事情がない限り、リーダーが後任を指名することになる。

 複数人の候補を選び、そこから何らかの方法で1人に絞り込むという場合もあるが――


「そうか――それじゃあ」


 景一郎は特に迷うことなく、あっさりと1人を指名した。



「それじゃあ頼む――詞」


【面影】と【聖剣】はここから統合されることとなります。

 ちなみに、6章の冒頭で書かれた『?章』のエピソードは8章ラストあたりという設定です。



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