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7章 18話 影が差す

「――無駄、ですよ?」

「っ……!」


 シオンが微笑む。

 心臓を貫かれながら。

 それでも何事もなかったかのように。


「私の不死性は、スキルに由来するものではありません」


 【屠殺・毒抜き】。

 それは対象のスキルを無視して攻撃するスキル。


 【斬撃無効】を持つ敵を斬ることができる。

 【毒無効】を持つ敵に毒を付与できる。

 ゆえにシオンの不死性を無視することができるのではないかと考えたのだが――


「私の不死を確約するのは、私自身の体質。スキルを無効にしたくらいで出し抜けるものではありません」


 そうシオンは語る。

 

 スキルと体質。

 結果は同じでもその本質は異なる。


 たとえば『飛ぶ』という一点に注目したとして、【飛行】スキルで飛ぶことと、自前の翼で飛ぶことは同じように思える。

 前者はスキルを無効化することで地に落ちるが、後者は翼が健在である限り飛び続けることができる。


 まして今回は『不死』だ。

 どこを狙えば無効化できるというものでもない。


「そして、もう手がないというのなら――終わりです」


 シオンが鎖を振るう。

 しなる鎖をナツメは最小限の動作で回避してゆく。


(私の役目はあくまで時間稼ぎ。無理に彼女の能力を攻略する必要はありませんね)


 勝たなければならないのではない。

 負けなければいいのだ。


 不死という防御を突破することは難しい。

 だが、突破することは必須ではない。


 そう考えていると――


「……!? なんですか――?」


 ナツメの背後で建物が崩落した。

 瓦礫が崩れる音が響く。

 そこから現れたのは――


「――グレミィさんですか」


 シオンがぽつりとつぶやく。


 そこにいたのはキグルミだった。

 デフォルメされたクマのような顔。

 一方でその肢体は筋骨隆々としており、そのアンバランスさが不気味だ。


「あ、シオンたん発見だお」


 キグルミ――グレミィがシオンを見つけてそう口にする。

 

「それは?」


 シオンは彼に目を向けるとそう問いかける。

 彼女が視線を向けた先はグレミィの手。

 そこには、少女が下敷きになっていた。


「敵地に侵入してきた人権のない女の子だお」


 グレミィがそう言って、地面に押さえつけていた少女――透流を摘まみ上げる。。

 息はあるようだが、彼女の体には痛々しい痣が刻まれていた。

 

「既に意識がないようですが」

「それでもまだまだ遊べるドン☆」


 グレミィは透流を地面へと転がす。

 それでも彼女は動かない。


「【屠殺】ッ……!」


 すでに透流は抵抗できる状態にない。

 

 ゆえにナツメは標的をグレミィへと変更する。

 ――あの腕は肉厚で頑強そうに見える。

 生半可な威力では断ち切れない。

 シオンはナイフから大斧へと持ち替えた。


 彼女は大斧を大きく振りかぶる。

 狙うのはグレミィの腕。

 一撃で切り落とす。


 その覚悟を込めて刃を振り下ろすも――


「スキルが発動していない……?」


 大斧はグレミィの腕半ばで止まってしまった。

 本来ならここで【屠殺】による裂傷拡張が発動するはず。

 だが、スキルが発動した手応えがまったくない。


「ボクちゃんは生物じゃないから効かないお」


 そうグレミィは嗤う。

 機械音混じりの感情が見えない声。

 それでも確かに、彼は彼女を嘲っていた。


「しま――!」


 スキルの不発による動揺。

 それにより生じた反応の遅れ。

 

 そして、気が付いたときには手遅れだった。


 グレミィの剛腕がナツメを捕らえる。

 彼の大きな手は、容易く彼女の体を両腕ごと握り締める。


「んほ~メイドさんだお~」

「ぐ……」


 ぎしぎしとナツメの体が軋む。

 グレミィの腕力は見た目に違わず強力で、身をよじったくらいでは抜け出せそうにない。


「貧乳さんだけどそれがまた良いんだお~」


 グレミィは彼女を掴んでいた腕の親指を立てる。

 そして彼は指先で彼女の胸を左右に擦った。

 

「っ……」


 胸元に走る不快な感覚にナツメが体を跳ねさせた。

 そんな彼女をグレミィは面白そうに観察し続ける。


「すっごく嫌な顔してご主人様って呼んで欲しいおぉ」

「ナツメ……!」


 ナツメの窮地を察し、明乃が彼女へと駆け寄ろうとする。

 しかし敵はグレミィだけではない。


「させません」


 シオンが召喚した大量のゾンビが明乃の前を阻む。

 それにより明乃たちがナツメの援護をすることは難しくなった。


「本物のメイドさんだお~」


 一方でグレミィは興味深そうにナツメの体を弄ぶ。

 逆様に吊ったり。

 腕や足を曲げてみたり。

 まるで人形を使って遊ぶ子供だ。


「メイドなら……あなたたちの仲間にもいたと思うのですが」

「あれ偽物だお」

「……そうですか」


 ――どうやらシオンのメイド服は形だけらしい。


「メイドさんは脚も綺麗だおぉ」


 グレミィはナツメの両足を摘まみ上げた。

 逆さ吊りにされたことでスカートがめくれ上がるのは太腿で挟み込むことでなんとか阻止している。

 しかしそんな抵抗も面白いのか、グレミィは嬉々として彼女を眺めていた。


「そうですか。ですが――」


 そこまで言いかけてナツメの声が止まる。


 グレミィの手がナツメの腹を押し潰し始めたのだ。

 指先で、前後から腹を挟み込むようにして。

 少しずつ、少しずつ。


「ぁっ……ぁ……!」


 息ができない。

 内臓を圧迫され、唾液が口からあふれだす。


「クールなメイドさんを調教してみた。始まり始まりだお」

(このままでは……)


 壊される。

 水風船のように内臓を弾けさせ、無残な死体となり果ててしまう。


「ぅぐ……ぉ……ぉ……!」


 耐えがたい嘔吐感にナツメは口を押える。

 

(まだ時間が――)


 まだ援軍は来ない。

 まだ終わらない。


 唾液と涙で顔を汚しながら耐え続けるこの時間はまさしく地獄で――



「なんとか間に合ったみたいだな」


 ――その時、地獄を打ち砕く影が現れた。


 ついに次回は本気の景一郎がお披露目か――



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