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7章  6話 ANOTHER

「ほい。こちらがボス部屋だよ」


 あまりにも呑気な口調で来見はそう言った。


「ほいって言われてもな……」


 景一郎はいまいちどう反応すべきか分からず、とりあえず周囲の様子を観察した。


 彼らがいるのはボス部屋。

 わざわざ直前に休憩を挟んだこともあり、相応の警戒心を持って踏み入ったのだが――


「誰もいないよな?」


 彼らがいるのはビル群だった。

 大量の高層ビルがあらゆる方向から伸びてきていた。

 前後左右。そして上下からも。


 あらゆる方向にビルがあり、あらゆる方向に空がある。

 方向感覚がめちゃくちゃになりそうな場所だ。


「馬鹿には見えないモンスターです」

「そうか。じゃあ俺は無理だ。任せた」


 景一郎は来見にそう告げると踵を返した。

 ――もっとも、この部屋に入った時点で入り口の門は消失している。

 オリジンゲートのように、1度でも挑戦の意思を見せた時点で戦闘放棄は赦されないルールなのだろう。


「諦めんなよ景一郎君! 馬鹿は! 死ねば治る!」

「そう言われて素直に死ぬかよ。というか茶番はそれくらいにしてくれ」


 嘆息。

 どうせ来見は分かって言っているのだろう。

 彼女に茶化され続けるのも疲れるので、さっさと本題に入って欲しいのだが。


「どうせここにも仕掛けがあるんだろ? 早くしてくれ」

「いや、ないよ?」

「は?」


 予想外の返答に景一郎は声を漏らす。

 てっきりここにもギミックが存在していて、来見がそのためのカギを持っているとばかり思っていたのだ。



「だってここにはもう、ボスがいるからね」



 来見の言葉を受け、景一郎は周囲の気配を入念に探った。

 馬鹿には見えないのかはともかく、【隠密】系統のスキルを有しているボスの可能性も念頭に置いて観察するが――何もいない。


 だとしたら、すでに見つけているのに敵だと認識していないということだ。


「――まさか」

「そういうことだ兄弟」


 彼はもったいぶることなく景一郎の疑問に答えた。

 彼は白髪を揺らし、ビルの壁面を歩く。



「俺が――このダンジョンのラスボスだ」



 アナザーはそう笑った。


「ったく……何回戦えば気が済むんだよ」


 ダンジョン第1階層。

 オリジンゲート。

 ――これで3回目だ。

 あまりにも腐れ縁がすぎる。


「それはこっちのセリフだっての」


 そう言いつつも、アナザーは少し面白がっているように見えた。

 彼は別のビルに飛び移る。

 今度は逆様の姿勢でビルに立っていた。

 ――この世界は重力が仕事を放棄しているらしい。


「なあ兄弟。なんでこのダンジョンのボスが俺なのか分かるか?」

「分かるわけないだろ」


 ダンジョンは未解明の部分が多い。

 ダンジョンのモンスターからボスモンスターを予測することはある。

 だが『なぜそのモンスターがボスなのか』など分かるわけもない。


「ちょっとは考えろよ」


 彼は黒太刀で肩を叩きながら呆れたように息を吐く。



「ここは神のダンジョン。お前の中にある、女神リリスの力が具現化した世界だ」



 彼が挙げたのはこのダンジョンの特殊性。

 そして――



「その主が俺。その意味は?」



 その特殊なダンジョンの主がアナザーでなければならなかった理由。

 それを問う。


「…………」


 このダンジョンはリリスに由来する。

 そして、容姿は景一郎と瓜二つ。

 そこから成り立つ推論は――



「俺は――お前の力そのものだってことだ」



 このダンジョンは景一郎の中にあるリリスの因子そのもの。

 アナザーは、そんなリリスの因子が明確な姿を得たものだということ。

 分かりやすく、宿主の姿を真似して。


「俺は器だ。お前の中に入り切れなかった力を一時的に保管するためのな」


 アナザーはそう語る。


「お前の血肉は弱くて、あの女から与えられた力をすべて乗せるには脆すぎた。だから俺という器が、お前の代わりに力を管理してきたってわけだ」


 ――これまで景一郎は段階的に強くなっていった。

 彼はそれをレベルアップの結果だと思ってきた。

 しかし、アナザーの話を加味すれば意味合いが大きく変わる。

 

「だからお前が強くなるたび、俺はお前に力を返していく」


 リリスの因子。

 そのすべてを景一郎は手にしていたわけではない。

 アナザーが彼のレベルアップを見計らい、彼の体が壊れないように少しずつ能力を与えていたのだ。


 つまりアナザーは――景一郎の安全装置。


「分かるか? 今の俺がお前よりも強いってことは、お前は与えられた能力の半分以上を受け止めきれていないってことだ」


 リリスが与えた能力は、景一郎とアナザーに分配されていない。

 その比重がアナザーに偏っているということは、今でも景一郎の与えられた能力の半分以上を受け継ぐに値しないということだ。


 ――逆に言えば、それだけ強くなる余地があるということでもある。


 単純な計算だが、景一郎は『アナザー1人分』の成長が見込めるということになる。


 それにしても『兄弟』とは言い得て妙だ。

 姿だけではない。

 景一郎とアナザーはリリスという存在を通じて、強いつながりを有していたのだ。


「俺を食らえよ兄弟。せっかくもらった能力だ。いつまでも荷物係に預けてるようじゃ宝の持ち腐れだぜ?」


 7章前半のボス1はアナザーです。

 予定としては

 完成形景一郎=エニグマ戦アナザー+現在景一郎

 くらいの強さになるかと。

 



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