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7章  3話 影のダンジョン

「ってか、その理論でいくとリリスは……人間じゃないってことか?」


 蹴り倒されたまま景一郎は問う。


 景一郎は【混成世代】であり、それには人間ではない生物の因子が不可欠となる。

 そして彼の中にある因子はリリスに由来するもの。

 そうなれば逆説的に、リリスは人間ではないという話になってしまうだろう。


 そんな疑問に答えたのは来見であった。


「そう。彼女は理の守護者であり救済者」


 彼女は歌うように語る。

 黒く、妖しい少女の存在を。



「いわば女神さ」



 リリスはエニグマと同じく摂理側の存在――神に類するものであると。


「絶対嘘だな」「どっちかというと悪魔だろ」

「…………セイ」

「「ふぐッ!?」」


 今度は踏まれた。

 しかも両足で。

 景一郎とアナザーは顔面を踏まれ、同時に苦悶の声を上げる。


「ったく……さっさと行かないワケ?」


 リリスは2人の顔面から降りると、靴裏を地面にこすりつける。

 ――若干ながら足元の土に血が混じっていたのは気のせいだろうか。


「…………分かってるよ」


 とはいえここで無駄口を叩いている暇が惜しいのは事実。

 景一郎は起き上がる。


「それじゃあ――」

「攻略開始だね」


 来見の声がダンジョン攻略を宣言した。



「……行き止まりじゃねぇか」


 【ダンジョン顕象】で作り出されたダンジョンの中。

 景一郎はぽつりとつぶやいた。


「前とそのまま同じダンジョンだな」


 前回このダンジョンに挑戦したのは、オリジンゲート攻略メンバー選抜試験の前だ。

 その際の建物と今回のダンジョンは酷似している――というよりも同一だ。


 これまではダンジョンを作るたびに違う構造だったのだが、なぜ同じダンジョンが現れたのか。

 しかもここは最奥。

 倒すべきモンスターは残っていない。


「そりゃあ、また1層からやり直すのは億劫だからねぇ」

「?」


 そう言うと、来見は歩き出す。

 彼女は迷うことなくダンジョンの壁面に手を伸ばすと――


「ここをこうして……こうっと」

 

 彼女は次々と壁を押してゆく。

 すると壁は順番にスイッチのように沈んだ。

 ――見ていても彼女が押している壁とその他の区別がつかない。

 彼女は何を根拠にあの操作を行っているのだろうか。


 そんなことを考えていると、ついにダンジョンに大きな変化が現れる。

 壁が横にスライドし、その奥に階段が出現したのだ。

 

「な……なんだこれ……?」

「このダンジョンは複数階層からなっているのさ」


 来見は笑いながら景一郎の疑問に答える。

 彼が最奥だと思っていたダンジョンの一室は、まだ中間地点に過ぎなかったのだ。


 そういえばこのダンジョンをクリアしたときにアナウンスがあった記憶がある。

 ――第1階層、踏破と。

 であれば、あの階段の先が第2階層というのだろう。


「この階層までは独力でたどり着けるようになっているけど、これより上には女神の導きが必要なんだよ」

「ならアイツの仕事じゃないのか? 一応女神なんだろ? 導くどころか一番後ろにいるけど」


 さっき、来見はリリスを女神だと言っていた。

 ならばこのダンジョンの仕組みを解き明かすのも彼女であるはずだと思うのだが。


「私はリリスちゃんが扉を開く未来を視て、それをなぞっているんだよ。リリスちゃんがこの部屋に来て、扉を開く可能性が1%でもある時点で、すでに私はそれを視ることができるのさ」

「そんなこともできるのか……」


 景一郎はそう漏らす。

 改めて【天眼】による未来視の脅威を痛感した。

 そのスキル1つで国家の方針に干渉できるというのも頷けるほどに規格外だ。


「景一郎君、準備はいいかい?」


 そんなことを思っていると、来見はそう問いかけてくる。

 彼女は階段の前で、彼と向き合った。


「このダンジョンは君の中にある女神リリスの因子を起源とするもの。つまり、エニグマが作り出していたオリジンゲートと同難易度――神のダンジョンだ」


 それはつまり、Sランクダンジョンさえも超える難度であるという忠告。

 もちろんリスクは大きい。

 だが、これまで以上の力を得るためには必要なリスクで――


「ハ? あんな雑魚と一緒にしないで欲しいんだケド」

「……あれが雑魚なのか?」


 リリスが聞き捨てならないことを言った。


 エニグマの強さは景一郎も知っている。

 紅たちと協力して、やっと倒せた相手だ。

 あれを雑魚と評されることに違和感を抱かずにはいられなかった。


「当たり前ダシ。アタシの管轄は現在過去未来すべての平行世界。あいつは箱庭の1つを担当してるダケ。格が違うんだケド」

「…………そんな最高神みたいな立ち位置なら、さっさとアイツらを追い返してくれたら終わりじゃないのか?」


 もしも本当にそんな全知全能じみた存在であるのなら。

 景一郎を戦場に引っ張り出す必要などないのではないか。

 誰も傷つけることなく、バベルたちを追い返せるのではないだろうか。

 そう問いかけた。


「世界の危機はできる限り現地の人間に解決させる――それが先代女神からの方針だカラ」


 そうリリスは語った。

 ――先代女神。

 神の世界にも世代交代はあるものらしい。


「ま――そうしたほうが見てて面白いからだケド」

「こんな奴が女神とか世も末だろ」


 面白いなんて理由で世界を危機にさらす神がいてたまるかと言いたい。


「まあシャレにならないくらい、文字通り世も末なんだけどね」

「世も末にした奴に言われたくないけどな」


 へらへらと笑っているが来見も相当に罪が多い。

 世も末という状況になるトリガーを引いたのは他ならぬ彼女なのだから。


「大体、その真意とやらも教えてもらえてないわけだけどな」


 そして未だ、彼女から明快な答えを聞いていない。

 世界と世界をつなぐという暴挙。

 それをなぜ来見が行ったのか。

 ――しかも、それになぜ女神であるはずのリリスが手を貸しているのか。

 聞きたいことは尽きない。


「そのあたりの事情は、ダンジョンの攻略が終わったら話すよ」

「――信じて良いんだかな」


 景一郎はため息を吐き出した。


 【聖剣】の奪還。

 そんな甘い言葉に誘われるようにして彼は来見の指示に従っている。

 だがそこに信頼は――ない。


 不安と不信を胸に、景一郎はダンジョンの上層を目指した。


 神のダンジョンに突入です。



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