表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/275

6章 エピローグ 魔都陥落

「出てきたぞ!」



 明乃たちがダンジョンを出ると、そこには冒険者たちがいた。

 レイドメンバーだけではない。

 見覚えのない冒険者たちもオリジンゲートに向かって構えている。


「状況はどうなってる!?」「とりあえずありったけの冒険者を呼んどいた! あいつらをこっちに引っ張ってくれば全員で――」


 きっと彼らは迎撃の準備を整えてくれていたのだろう。

 先に逃げたからこそ、あとに残された――【聖剣】たちのために準備していたのだ。


「………………」

 

 だが明乃はとっさに応えられなかった。

 彼女は唇を噛み、拳を握る。


「……おい」


 彼女たちの異変に気が付いたのだろう、目の前の冒険者が怪訝な表情を浮かべる。

 

「他の奴らは……どうしたんだ?」

 

 そして、問いかけた。


 明乃たちは出てきた。

 だがリーダーであるはずの景一郎の姿がない。

 【聖剣】も脱出してこない。

 そうなれば、その疑問も当然だ。


「ッ」


 詞の肩が跳ねる。

 彼の視線は、自分の影へと向けられている。


 影の中にいる景一郎にこの会話は聞こえていない。

 それでも、彼の前でその事実を口にしてしまうことを恐れているようだった。


「わたくしたちのリーダーは無事ですわ」


 だから明乃は代わりに状況を説明する。


「ですが……【聖剣】の方々は」

「……………」

「敵の足止めのため……崩壊するダンジョンに残られました」


 彼女がそう告げると、冒険者の顔色が変わる。


「なら今すぐ――!」

「もうッ!」


 急いでダンジョンに突入しようとする冒険者。

 それを明乃は引きとめる。

 震える声で。


「もう……ダンジョンは崩壊していますわ。ですから――」

 

 もう、戻っても意味がない。

 そう言った。


「…………そうか」


 静かに目をつぶる冒険者。

 明乃の言葉の意味を正確に察したのだろう。


「おい何か出てきたぞ!」


 その時、声が聞こえた。


 叫んだのは待機していた冒険者。

 彼が見ているのはオリジンゲートだった。


「!?」

 

 オリジンゲートの向こうから気配を感じる。

 ――【聖剣】が脱出してきたのか。

 そんな期待が芽生えるかけるが――


「うそ……」


 その光景に明乃たちは茫然とする。

 

 ゲートから現れたのは大量のモンスターだったのだ。

 濁流のようにモンスターがあふれてくる。

 その種類は様々。

 共通するとしたら――



「すべて……Aランク」



 すべてがAランクモンスターだということだ。

 

 Sランクモンスターがいなくて幸い、などとて冗談でも言えない。

 モンスターハウスでさえ霞むほどに大規模な群れが解き放たれたのだから。


「どんだけ出てくんのよ……!」


 魔都の空を飛ぶモンスター。

 ゲートからそのまま地面に落下するモンスター。

 規格外の群れを前に、香子が後ずさる。


 本来、Aランクモンスターはこちらの世界で生きられない

 詳しい原理は未解明だが、ダンジョンの外の環境に適応できないのだ。

 まるで区切られたように。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「世界に穴が開いたことで、高位のモンスターもこちらの世界に流れ込むことができるようになったのだな。ついに……侵略が始まったというわけだ」


 グリゼルダが空を見上げる。

 モンスターが支配する空を。


 彼女の言葉から推測するに、高ランクのモンスターがこちらの世界で生きられなかったのはセイフティーだ。

 強力な化物によって、この世界が食い荒らされないようにするための枠。


 しかし、明乃たちは殺してしまった。

 この世界を外敵から守るために存在していたエニグマを。

 彼を殺したことで、この世界は外部の世界と自由につながることが可能となり――同時に、異世界から侵略されるリスクを背負ってしまった。


「いくら魔都の冒険者とはいえ、Aランクモンスターの住処になんざ住めねぇぞ……」


 ここにいるのは優秀な冒険者ばかり。

 当然、Aランクモンスターに遅れは取らない。

 

 だが生活するとなれば話が別だ。

 寝ていても食べていても、いつAランクモンスターに襲われるのか分からない。

 1人でいる時を、群れに狙われるかもしれない。

 安らげる場所など存在しない。

 そんな極限の状況に耐えるのは、彼らでも難しかった。


「――仕方ねぇ。もう……ここは駄目だ。もうここは……人間が住める土地じゃねぇ」


 冒険者がそう言った。


「魔都は……放棄するしかない」

「それはつまり……」


 明乃の言葉に、冒険者は悲痛な表情を見せる。



「もう魔都は……今日からモンスターの領地ってことだ」



 もうここは、人間が住める場所ではない。

 その事実に、明乃は心臓が締め付けられるような痛みを覚える。


 たった1つの都市かもしれない。

 だがこの瞬間、ここは異世界に支配されたのだ。


「魔都にも非戦闘員はいる。そいつらを守りながら――魔都の外まで脱出するぞ」


 だが絶望に打ちひしがれている余裕はない。

 ここには冒険者を相手に商売をしている一般人もいるのだ。

 彼らはAランクモンスターに対抗できない。

 誰かが守らねばならないのだ。


 明乃たちも冒険者たちとともに行動を開始する。


「……どこまで、逃げれば良いのでしょうね」

「あのモンスターは、あいつらが用意した兵士だ。おそらく、オリジンゲートの周辺を離れはしないだろう」


 グリゼルダが明乃の言葉を拾い上げる。


 兵士。

 詳しいことは分からないが、異世界にはモンスターを使役する技術が存在しているのだろう。

 そして侵略のため、モンスターを解き放ったのだ。


「この世界は、開けてはならない扉を開けてしまった」


 グリゼルダはそう言った。

 憂うように。

 憐れむように。


「これから起こるのは、世界と世界の侵略戦争だ」


 ここはもう『魔物の都』となっていた。


 次の回で6章は終了します。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ